伊坂幸太郎氏を比較に出すレビューが多いが
流石に、一線でヒットを飛ばしまくる作家と比較するのはこの作品に分が悪すぎるというのが、最初の印象だ。
あくまで、投稿サイトに投稿されたアマチュアの作品。として、私は評価させていただいた。
さすがは、コンテストの受賞作といったところだ。
まず、読みやすい。
カクヨムの画面に合わせて、段落などを分けているので、目が疲れることもなかった。
丁寧に改稿を行っている。
文章は、特におかしなところもなく、わかりやすいのがよかった。
煩わしかったのが、一話くらいで章と時代が変化を繰り返すところか。
おかげで章の分別が多くて、こんがらがった。
一個なにか起こるたびに、ではなくて。
もっとまとめて時間を動かすことも出来た気がするので、ここは残念だった。
しかし、素人とプロの狭間の作家さん作品の中では間違いなく高レベル。時間があるなら読んで、損する。ということは無い。
上海と京都をまたにかけた大掛かりな群像劇。
騙されたい方は是非、との挑発に乗ってやって来ましたが、見事虜にされて帰ってきました。
僕にとってはカクヨムを始めようと思ったきっかけの作品でもあります。
誰にでも読みやすく、誰にでも楽しめる作品だと思い、真に誰かに勧めたい作品だと言えます。
ストーリーとトリックの関係性についても、大いに考えさせられました。
僕は自分の好きな作家さんに影響を受けすぎてしまうということを悩んでいたのですが、作者さんのコメントや作風を見ていて、それはそんなに悪いことではないのだ、と前向きに考えられるようになりました。
単純に作品の面白さはもちろんのこと、これは僕にとってはとても大きな意味を持つ大好きな作品であります。
終わりに、コンテストの大賞受賞、おめでとうございます。
うさぎ強盗というかわいらしいネーミングから、ふわふわしたままごとミステリーをイメージしていたが、実際は全く対極に位置する、命を掛けた闘いの物語だった。
次々と提示される証言から始まる、魅力的なキャラクターたちのドタバタ騒ぎは、スクラップされたワンシーンをフラッシュカードのように鮮やかに切り替え展開させていく。
伊坂幸太郎好きな人なら恐らくプロローグだけでこの作品の虜になれるだろう(申し訳ないが、私は少し長く感じたので最初は半分飛ばした、というのも、この先絶対に面白くなるぞ、という確信を持ったため早く先を読みたかったのだ)。
ウィットに富んだ会話、ウェブ小説であることとハードボイルドさを最大限に融和させた簡潔かつ適切な描写、なにより銃とナイフと電脳と火薬がぶつかり合うアクションのド派手さがめまぐるしく読み手を翻弄する。
また、恐らく読者視点として用意されている篠原の内面描写のえぐり方も面白い。
最初はこの派手さ、豊富な知識をこれでもかと敷き詰めた文章のきらびやかさに我を忘れて読み進めていたのだが、途中で少しずつ気づき始めてしまったことがある。この物語はミステリーとしてどこへ転がって行きたいのかが見えないということと、中盤辺りにおいてチョイスされる言葉の詰めの甘さ、そこから綻んで見える遊園地の舞台裏である。例えば、JR京都駅、と書くべきところを一貫して京都駅とのみ書いているため、新幹線なのか近鉄なのか地下鉄なのかわからず特定するまで数ページを要しその間頭に具体的なシーンを描けなくなる、ということが大小あれど散見された。また、ド派手な殺人、誘拐まがいが起きているにもかかわらず、それを観測する一般市民の存在が見当たらない、あるいは非常に薄いことが、遊園地からリアリティを奪ってしまっている。この作者はあえて描写を省いているのか、そうでないのかはわからないのだが、もっと小道具や舞台のひとつひとつにこだわって書いていただければ、さらにエスプリ溢れるかっこ良くスタイリッシュな作品となるだろうと感じた。
と、注文を述べたが、第二話まで読んでいただければ、この先に待ち受けるトリックと推理の展開がいかに巨大で鮮やかなものか、期待に胸が踊るであろう。作者から読者への挑戦状がまるで絶品のアントレ、もしくはフォーアシュパイゼのように供される。
時々挟まる人情ドラマを箸休めに、難解なパズルと映画のようになめらかなアクションシーンの息もつかせぬフルコースを堪能させていただいた。
フリーフォール、とタイトルにつけたが、ラストは心地良く謎がひっくりかえり、これほどに火薬臭く血生臭い世界からは想像できなかったほど仁義あるあたたかで爽やかなものが待ち受けていた。私は、篠原(他の人物の結末も非常に素敵なのだが)が辿り着く場所がなんともかっこ良く強かで好きである。
もしまた長編を書かれることがあれば、是非とも読ませていただきたいと思った。
ネタバレ有りですので未読の方はスルーしてください。どうにも僕には、ネタバレなしの感想は書けないようで……
他の方のレビューでも、あのトリックを指しているとわかる表現が多いので、そこに触れます。まあそれが無くても読めばすぐにわかりますよね。こういった構造の物語なら真っ先に考えることなので。けれど、それは技術の巧拙の問題ではないと思いますし、伏線の張り方はとても上手だと思いますので悪しからず。
人物誤認系トリックとして、口調を使うのは割とある発想だと思いますが、普通は結構な無理筋です。だから、今作の、日本語を学ぶ過程で妙な語彙ばかりが増えてしまった、というのは目から鱗でした。愉快なため記憶に残りやすい和やかなギャグパートが伏線として軽やかに機能しています。読者に違和感を与えずにストーリーとして魅力的なシーンにさりげなく仕込む、理想的な伏線の張り方だと思います。
うさぎ強盗とそれを追う闇社会の人間たちが織りなす群像劇形式のミステリである。大作にして傑作。恐るべき読書量と練り上げられた構成に脱帽するほかない。魅力に溢れたキャラクター、怪しげな組織、スピード感のある表現、意外な展開、鮮やかなトリック、クールな表現、情熱的な恋愛、和めるギャグなど、この手のフィクションに求められるものは全て嘆息する水準に達している。夢中になって読むあまり、気がついたら朝になったというのは学生以来の体験であった。
ただ、この手の創作ではよくあることだが、要所要所に出てくる薀蓄にリアルさが乏しいと感じた。例えば上半身を完全に動かさずに強い蹴り上げを打つことは人間の構造上不可能である。屋内での威嚇射撃は跳弾が複雑になるため足を直接撃つべきである。現在流通しているスペツナズナイフは東欧製の模造品が大半で精度の調整が難しく、プロが実用で使うイメージがもちにくい。ファイアウォールはヘッダを見てパケットを破棄/許可するだけの装置であり、それ自体の突破には暗号化技術と重なり合う部分はない。マルウェアを作成したコードの作法がわかるのでは偽装のレベルが低すぎる。権限昇格と降格に関する技術知識、コードと実行形式ファイルに関する技術知識などが間違っている。車やヘリなどの制御系がインターネットに接続している製品は現在のところ市場にはなく、その説明が作中にない(ノートに記載があるが、これは特注であると作中で示してほしかった)。そのほか、フィクションの世界であればお約束の範囲ではあるものの、プロや知識のある人が見ると粗さが目立つであろう点が少なくなかった。重箱の隅をつつくようで恐縮だが、幅広い読者を想定するのであれば、もう少し見破られないためのごまかしはいるかと思われる。もしくはSFのようにオリジナル設定を作り、その中でルールを定義する方法もある。薀蓄で疑問が浮かんでしまい、本筋を読むスピードが鈍ることが多々あった。
全体を通しての感触として、作者はフィクションの読書量は十分だが、体験や取材にはあまり時間をかけていないように思えた。作者にお勧めしたいのは専門知識を一つ身につけ、作品に反映することである。犯罪学でも心理学でも手品でも医療でも格闘技でも金融でもなんでもいい。プロの世界はwikipediaからは知りえない様々な魅力ある知識と技術に溢れている。失礼を承知で言うが、本作はまだフィクションから作られたフィクションである。ここにノンフィクションを加味することで、さらなる飛躍を期待したい。例えが古くて申し訳ないが、パトリシア・コーンウェルのスカーペッタ・シリーズを超える作品でも、作者の力量であれば執筆可能かと思う。
いずれにせよ、次の作品も、その次の作品も期待するところ大である。この作者の作品であれば、発売した日に購入したい。