おまけ

没ネタ①

□矢印□




『マ→テ』



 そう書かれた一枚の紙を、タニヤが得意気に俺に見せてきた。


「何だその暗号みたいなのは?」


「マティウス君と姫様の関係を、わかりやすく表してみました」

「…………」


 つまり『マ』っていうのは俺の名前で『テ』はティアラのことか。で、矢印は俺の気持ちが一方通行なことを意味している、と……。


 間違っていないだけに文句が言えない。


「……いや、こうだな」


 アレクがペンを手に取り、タニヤの書いた記号の上に何やら付け足していく。



『マ→→→→→→テ』



「おぉ! 確かにそうね!」

「やめてくれ。何か俺急に恥ずかしくなってきたからやめてくれ」


「君のその反応で私はやめないことを決心しました」

「最悪だなお前!?」


「てわけでどんどんいくわよ。仮に君の気持ちが成就した場合、こうなりそうよね」


 タニヤはさっきよりも活き活きとした顔で、さらにペンで付け足した。



『マ→→→→→→←テ』



「これは愛が重いと言われて捨てられるパターンだな」

「ぐおあぁッ!?」


 アレクの容赦ない一言が俺の心を深く抉る。


 彼女に捨てられないためには、もう少し控え目にした方がいいのだろうか。

 でもティアラに対する俺のこの熱い想いは、そう易々やすやすと抑えられるものではないッ!


 ――って、そもそもまだ彼女と付き合ってもいないんだから、今からこんな心配をしなくてもいいのではなかろうか。


「ちなみに私の理想はこれね!」



『マ→→→→→→テ→→←ア』



「……オレも入るのか」


「っつーかこれ二人両思いじゃん! 完全に俺いらねー奴じゃん!?」

「そこに何とかして君が食い込む様子を観察したいのよ」


 そういやこいつ、以前俺達を三角関係にしようとしてたが、こういう魂胆があったのかよ。


「食い込むってどういう意味だ。こうか?」


 疑問を口にしながら、アレクがタニヤの書いた物にさらに矢印を付け足していく。



『マ→→→→→→テ→→←ア


 ↓→→→→→→→→→→↑』



「いや、それ二股じゃん! 二人まとめて頂いちゃおうとしてるただの最低な奴じゃねーか! ていうか実はお前、俺に気持ち向けられてーとかそんな乙女っぽいこと考えてたの!?」


「そんなわけないだろうがお前オレの槍に刺されたまま殴り殺されたいのかむしろ死ね」


「サーセン……」


 息継ぎをせず氷のような目で一気に言い切ったアレクに、俺はガタガタと震えながら謝罪の言葉を吐くしかなった。






□見られちゃった□



 俺が手にしているのは、細く白い花弁が幾つも重なった、一輪の花。

 名も知らないその花に俺は一瞬だけ懺悔した後、一枚ずつ花弁を抜き始める。


「ティアラは俺のことが――、好き、きら…………。好き、好き、好き、好き――」


「うわっ。ポジティブすぎるでしょ!? それにちょっと怖いわよ」

「――――!?」


 突如後ろから聞こえた声に、俺は慌てて振り返る。そこにはモップを持ったタニヤが佇んでいた。


 み、見られた――!?


 予想外のハプニングに頭が真っ白になる俺に、タニヤは笑いを堪えながら続けた。


「それにしても――。ぷっ――。マティウス君が花占いをするなんて――。ぷぷっ――。これは是非アレクにも――!」


 タニヤは満面の笑顔でモップを放り出し、隼の如き速さで廊下を駆け出した。


 おい! お前ただの侍女の癖に走るの早すぎねーか!?


「ちょっと待て! 言うな! 喋るな! 止まれ! いや、止まってくださいッ!」


 俺はタニヤの背を追いかけながら、必死で懇願するのだった――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る