バーチャル××

 うおおおお、ついに、届いた。

俺の彼女!いやいやいや、バイトして貯めた金をつぎ込んだぶん、感激もひとしお。

俺は、震える手で包みを開く。最近は、ママゾンも品名をわかりにくくしてくれているので助かるわ。

母ちゃんにさんざん何買ったの?って聞かれたけど、適当にゲーム機だとごまかしておいた。


 まずは、入っているものの確認だな。ARゴーグル、OK,センサー付きグローブ、OK、集音マイク内臓の無線イヤホン、OK、そして、恥ずかしいけど、これを俺のマイサンに装着するわけだな。ん?なんだろう、この袋状のふわっとしたものは。説明書、説明書。

わぉ、これも装着するのかよ。マジで?恥ずかしいな。これって女の人のナ〇キンみてえ。まぁ、イった時に汚れちゃうもんな。ホントにこんなんで、大丈夫なのかよ。


 肝心のソフト、ソフト。これをパソコンにインストールする。オンライン登録、っと。

これは、何かって?じゃじゃーん、これはバーチャル××を可能にする、バーチャルパートナーだ。

パソコンにソフトをインストールして、サイトにオンライン登録をした者同士が、会わずに××できちゃう優れものだ。自分の画像を登録し、3D化。これがすぐにARカードになり、QRコードを読み込むだけ。ゴーグルを通して見るとお互いがまるで目の前にいるように見えるのだ。センサー付きグローブとマイサンに装着したホールで本当に××しているようなリアルな感覚を得られる、噂によればリアルより気持ちいいらしい。女の子用はマイサンはないので、パットを貼り付けるらしい。


 俺はドキドキしながら、オンラインの女の子達を漁った。あ、この子、めちゃくちゃ好み。それに、この制服は!憧れのS女子高の制服ではないか。へー、こんな清楚な顔して、男とヤリたがってんのか。エロっ!

「こんばんは。」

俺は思い切って声をかけてみた。

「こんばんは。」

うぉっ、返事来た。声もかわいい!

俺は嫌われるかもしれないけど、これを買ったってことは、ヤリたいんだよね?いきなりでいいかな?

「今から、Hしない?」

言っちゃった。俺、だいたーん。

「うん、いいよ。」

マジか!

よかった。俺、イケメンの友達の写真使ってるから。すまん、青木。

「名前、春菜ちゃんって言うんだ。かわいいね。君。」

「ケントくんだって、すごくかっこいいよ。こんなイケメンの男子とHできるなんて、ラッキー。」

その夜、俺は童貞を捨てた。実際には捨ててないけど、初めてのH。

春菜ちゃんの服を一枚ずつ脱がせる。

うあ、マジで脱がせてる感がある。

ついに、全部脱がせました。もう俺は爆発寸前。

恥ずかしがる春菜ちゃんのおっぱいを揉む。

ふわぁ~、すっげえやわらけえ~。おっぱいってこんなに柔らかいんだ!

恐るべし、センサーグローブ。めちゃくちゃリアルに指先に感触が!

めくるめく快感に、俺は何度も何度も復活した。

「ケントくん、すごーい。」

春菜ちゃんも何度もイったみたい。最高、最高だよ、これ。


その日から、俺は盛りのついた犬のように毎夜、彼女とHした。

俺は学校でもイキイキとしているので、友人達が気持ち悪がってどうしたのかと聞いてきた。

「えー、聞きたい~?実はさあ~。」

俺は俺と春菜ちゃんとの密会を言うのが勿体無くて誰にも話していなかったのだけど、

本当は自慢したくて仕方なかったのだ。


「え、マジか!お前、あれ、ついに買ったの?ちくしょう、羨ましいな。高かったろ!」

「夏休み、バイト掛け持ちして貯めた。あと、お年玉もガキの頃からずっと貯めてたから。

全財産、つぎ込みましたぁ。」

「すげえな、エロは強し!」

「でさ、今、俺が付き合ってる子。」

俺は、スマホの待ち受けの春菜ちゃんの画像を見せた。

「おいおいおい、これS女子高の制服じゃん!マジかよ!」

「マジマジ、俺、毎晩この子とHしてんの。」

「あり得ねえ!くっそー、俺もバイトして金貯めれば良かった!」

俺はすごくいい気分になった。


「ちょっと、邪魔よ、キモオタ共!どきなさいよ!」

俺達は階段いっぱいになって歩いていたので、後ろから女子に注意された。

振り向くと、クラス一のブス、柿沢えりかが立っていた。そのスカートの下から覗いているのは、カブですか?ってくらい足が太く、体は普通の女子の二倍はあろうかと思われるくらい太い。しかも、人をオタク扱いしているくせに自分はもっとオタクだ。

「お前に、キモオタ言われる覚えはないわ、ブス!腐女子!」

「何よ、キモオタじゃなかったらアンタ何様なの?和也のくせに、生意気よ。」

「お前に名前を呼び捨てにされる覚えはないわ!どこがえりかじゃ!お前はジャイアンか!」

「彼女も居ないくせに!」

「ふん、居るわい、彼女くらい。そういうお前こそ、彼氏居ないんだろ!」

「居るわよ、彼氏。」

やけに余裕たっぷりに柿沢が笑った。

笑いながら、えりかは去って行ったのだ。

まったく、あの自信はどこからくるんだ。彼氏が居るとか嘘ばかり言いやがって。

まぁ、俺の彼女はバーチャルだけどな。そう、俺は和也だけど、偽名ではケントと名乗っているのだ。

写真も名前もデタラメ。

ちょっと罪悪感はある。


 数日後、俺はとんでもないものを目にする。なんと、リアル春菜ちゃんが街を歩いているのだ。俺は若干、春菜ちゃんは実は成りすましなのではないかと、疑っていたのだけど、本当にいたんだ。あの子がほとんど毎日、俺相手にあんなことやこんなこと。俺のマイサンが、昼間だというのにヤバイことになってきた。でも、本当の俺がこれだとわかったら、春菜ちゃんガッカリするだろうなぁ。春菜ちゃんが誰かに向かって笑顔で手を振っている。俺はその手を振っている方向をふと見ると、柿沢えりかも手を振り返していた。


 マジか!柿沢えりかと友達!俺はわからないように、二人をつけた。つけてどうしようというのだ、俺。

二人は近くのファミレスに入った。俺は少し時間をずらして、柿沢に見られないように、すぐ隣のボックス席に静かに座った。柿沢はおしゃべりに夢中でまったく俺に気付かない。俺はコーヒーだけ頼んで、ずっと二人の話に聞き耳を立てた。


「あたしね、彼氏、できちゃった。」

柿沢が嬉しそうに、春菜ちゃんに話す。俺はげんなりした。お前なんか彼氏ができるはずないだろ。嘘つくんじゃねーよ。

「え、そうなの?よかったね!どんな人?」

あれ?春菜ちゃん、若干いつもと声が違うような。まあ、マイクを通してだからな。

「えーっとね、名前は、ケント君って言うんだぁ。」

俺は、ドキっとした。

え?ケント?

「最近、出会ったの。ネットで知り合ったんだけどさぁ。」

う、嘘だろ?

「そうなんだぁ。」

春菜ちゃんが相槌を打つ。

「それでさ、Hもしちゃったんだよね。」

「えー!うっそー!マジで?」

嘘だと言ってくれ、柿沢。

「マジ。ケント君、Hがすごく上手なの。何度もいっちゃった。」

俺は吐き気がしてきた。そうか、こいつ、春菜ちゃんの写真を使って。汚いやつだ!

「これがね、ケント君の写真。」

俺はもう我慢できずに、立ち上がっていた。

二人はびっくりして、俺を見た。

「ふ、ふざけんなよ!柿沢ぁ!」

「はあ?何?何でここに居るの?お前。」

「お前、きたねえぞ!春菜ちゃんの写真使いやがって!」

俺は、泣いていた。

「キモッ、何泣いてんの?アンタ、あたしのこと好きなの?」

柿沢はニヤニヤした。

「好きなわけねーだろ!お前みたいなブス!」

俺は言ってしまって、はっとした。明らかに春菜ちゃんが嫌悪感を示している。

きっと最低、って思ってる。春菜ちゃんに嫌われた。これも全てお前のせいだ、柿沢!

「ざんねーん、あたし、もう彼氏いるから。ごめんね?」

そう言うと柿沢は、俺に携帯の待ちうけの画像を見せてきた。


え、誰?これ。

そこにはイケメンの青木ではなく、全く知らない不細工が写っていた。


結局、俺は自分の勘違いで、春菜ちゃんに嫌われるだけのために骨を折ったわけだ。

最低の一日だ。

でも、こんな時にも腹は減るのだなあ。


家に帰ると母ちゃんがいなかった。

なんだよ、どこ行ったんだ、母ちゃん。買い物かな。

その時、テーブルの上の携帯が震えた。

携帯はしばらく鳴って止まった。

なんだ、母ちゃん、携帯忘れてるよ。

俺は何の気なしに母ちゃんのガラケーを開いた。


そこには、イケメンの青木が待ちうけになっていた。

しかも、「ケントくん」とまるっこい字とハートでデコってあった。


ああああああああああああああああ!

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