ムズガルド帝国編8

目を覚ましたヨサクの前に佇んでいた幼い少女…

それは何とジェニ-だったことが判明する


そして場面はあの井戸の話のときへと遡る



絶望は突然訪れた

「はははははは」

「なかなか楽しかったぞこれで最後だ!!」

一番大きな石を投げつけた

ぐしゃっと肉片が潰れる音がした

井戸の中を見てみると肉片のみとなって老人とその子どもたちは死んでいた


そしてダルトは一人の男が逃げ出したと聞き急ぎその井戸から離れていく…



ダルトは上から覗き込み全員死んだと思っていた

しかし実は死んでなどいなかった

奇跡としかいいようがないがちょうどその少女…

いやジェニ-は大きな石や他の石

そして老人や他の子どもたちの身体の間に隙間が生まれそこに閉じ込められていたのだった

しかしかなりの傷はおっている

そして目の前の子どもたちの死体のあまりの惨状に声が出そうになる…!

しかし声を出そうとした瞬間何かが微かに動いた気がした

おそるおそる上を見上げると老人が即死の状態でそれでもなお何とジェニ-を守っていた

その老人は口を少しだけ動かす

しかし声は聞こえない

ジェニ-は何とかその老人の口の動きだけで

自分に何を伝えようとしているのか必死に読み取ろうとする

そしてジェニ-はその老人が自分に必死に何を伝えようとしているのか察し

涙を溜めながら口元に手を当て絶句する


その言葉とは…

「イ…キ…ロ…」

だった


この老人はこんな身になろうともジェニ-のことを心配していたのだった

それにその老人だけではない

とある声がしてきた

「生きて…お姉ちゃん…」

「ジェニ-…生きるんだよ!」

何と死んだはずの弟や姉たちからも声が聞こえてきた

その声は絶望の淵にあったジェニ-を奮い立たせる

ジェニ-は思った

そして目に生気が宿る

「私は生きなきゃならない…!」

ジェニ-は3人の存在を感じる

さらにジェニ-は3人が押し上げてくれる力を感じた

ジェニ-は必死に指の力だけで井戸を昇る

そしていつしか3人の気配はなくなっていた


ジェニ-は何度か挫折を繰り返しながらも登りきるまであと少し…!

そこまできてジェニ-は手を滑らせてしまう

「あっ…!?」

ジェニ-の後悔と絶望の声があがる

不覚にも少し気を緩めてしまいそれで滑らせてしまう

しかしそれとは別に指に限界がきていたのだ


ジェニ-の指からは血が滲み溢れ爪が剥がれてしまっている指もあった


ジェニ-はまた振り出しに戻ってしまう


身体は限界

精神も限界

上を見上げると黒い煙が立ち上がっているのが見える

幼いジェニ-にも集落が燃えていることが容易に予想できた

多分集落のみんなは皆殺しにされているだろう

それにもうこの状態では誰がどう考えても井戸を登りきることなどできない

なすすべがないのだ


普通の者ならこれで絶望し諦めてしまうだろう

だがしかし…!

ジェニ-は諦めなかった


ジェニ-は爪が剥がれた手で必死に井戸を登る

ほんの少し登ってはまた滑り落ちる

またほんの少し登ってはまた滑り落ちる…


この行為が何十回と繰り返す

ジェニ-は3人からもういい…

そんな声がしてきた

だがそれでも諦めなかった


だがしかしついに指に全く力が入らなくなってしまう

もうジェニ-の身体は血だらけだった

みんなの血…

そして自分の血…

全てが合わさって身体中が血だらけだった


「ウゥ゛…」

「ナ…ン…デ…」

その状況にさすがのジェニ-も諦め崩れ落ちてしまう


もうこのままみんなと死のう…

そうジェニ-は思った

諦めたのだ


しかしその時…ある声が聞こえてくる

その声は幻聴かと思った

しかし確かに聞こえてくる



「……!?」

「…れ…!?」

「誰か…!?」

「誰かいないか!?」



その声はバージェットだった




ジェニーは天の助けだと思った

でももしかしてまたダルトのおぞましい作戦かもしれない

でもこの声には不思議と温かみを感じる

それにこの機会を逃すともう自分は生き残れない…最後のチャンスだと思った


ジェニーは涙をボロボロと流しながら井戸から見える天に向かって

必死に助けの声を叫ぼうとする


「……!!」

「………!!!」

「…………!!??」

ジェニ-は必死に声を叫ぶが声が一言も出てこない


肉体的そして精神的に限界を超えていたためそのショックで声が出せないのだ

ジェニーは自分を呪った

そして責める

「な…ん…で…?」

「なんで声が出てくれないの…」

「こんな大切な時に……!!!」


その時…!

不思議とほんの少しだけ力が湧いたような気がした

後ろからほんの少しだけ温もりを感じる

ジェニーはその力が3人の力だと悟る


「おじいちゃん…」

「サトル…」

「ゆい姉え…」


ジェニーはその貰った力であらん限り声を振り絞り叫ぶ


「………テ」

「タ…ス…テ…」

「タ…ス…ケ…テ…!!!!!!」


その声は確かにバージェットへと届いた

バージェットは確実にその井戸へと走り寄ってくる


そしてバージェットは井戸の中を覗き見る

そこには血まみれになって上を見上げる少女と

下にはおそまじい血肉の塊となった3人の姿がそこにはあった


「な…ん…て…」

「なんて惨いことを…!!!??」

バージェットは絶句する


ヨサクは言った

「それがアニキとジェニーの出会いの始まりです」

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