ムズガルド帝国編6
そしてバージェットはダルトたちの元へと駆け抜けていく
ダルトたちは一瞬暗黒騎士か!?とビクついたようだったが
バージェットがただのゴブリンだと気づくと余裕の表情でバージェットを出迎えうとしていた
しかしジェルチェはバージェットを遠目に見つけるとめんどくさそうにつぶやく
「ちっ…」
「厄介なやつが来たわね」
「それに…」
「えっ?」
ヨサクはジェルチェの方へと振り返るとジェルチェは消えていた
ヨサクの目の前から忽然と姿を消していたのだ
「えっ…?えっ…?」
ヨサクは辺りを必死に見回すがもうジェルチェの姿はない
この時ワタルは真剣な顔でヨサクに質問する
「ヨサク…」
「その時確かにジェルチェはバージェットのことを知ってる風だったんだな?」
するとヨサクも答えた
「はい間違いないっす」
「あのときの事はよく覚えています」
「確かにジェルチェはアニキのことを厄介なやつが来た…」
「そう言ってました」
「ワタル…」
ツバサはワタルを見て不安そうな顔をする
そのジェルチェはバージェットの事を知っていた…
ますます訳が分からなくなる
バージェットとは知り合いなのか…?
確認しようと上空を見てみるが肝心のバージェットはいなかった
気配もない
どこか遠くに行っているのだろう
そしてヨサクはさっきからずっと疑問に思っていたであろうことを俺に聞いてきた
まぁ当然の疑問だろう
「さっきからジェルチェ、ジェルチェってワタルは何か知ってるんすか?」
ヨサクはバージェットから話を聞いているものの、
要約するためバージェットは
黒魔女のジェルチェの名前のことまでは話してはない
ある女とまでしか言っていなかった
だから詳しくジェルチェのことを話した
ヨサクは納得する
「そうなんすか」
「ジェルチェと同じ名前ねえ」
「でも、やっぱりぐうぜ…」
そこまで言おうとしてワタルたちの様子に気づく
言葉こそ出さないとはいえ明らかに何かを感じ取っている様子だった
ヨサクも何かを感じる
しばし重い空気が流れる
しかし、肝心のバージェットが帰ってこない今…
どうしようもないのでヨサクは続きを語り出した
ジェルチェが突如いなくなって慌てるヨサク
ダルトたちはバージェットに気がいきジェルチェが消えたことに気づかない
ジェルチェを探し回っていると
いつの間にか目の前にバージェットが立ち塞がっていた
そしてバージェットはダルトたちに叫んだ
「あの集落をやったのはてめえらかあああああ----!!!!!!」
バージェットの怒声が鳴り響く
ダルトたちは一瞬バージェットの気迫に押されるもすぐに余裕の表情へと戻る
ニヤニヤと笑っていた
自分たちが負けるとは微塵も思っていない様子だ
それはあることが原因の一つでもあった
それはバージェットがあまりにも痩せこけていたのだ
ダルトは笑いながら言った
「ははははは!」
「そうですが…それが何か?」
「それにそんなガリガリの痩せ細った身体で俺たち相手に一体何をするつもりなんだぁ?」
「ぎゃははははは」
「はははははは」
「はははははは」
ダルトたちや子分たちは馬鹿にしたように笑う
「それに…」
「どんだけお仲間さんお連れかと思えばお前一人じゃねえか」
「この人数相手に一人とは何考えてんだ?」
「はははははは」
その場に大爆笑がおこる
しかしバージェットは激昂していたものの至って冷静だった
そしてポツリと何かを言った
しかしダルトたちはバージェットが何を言ったのか聞き取れない
そしてダルトは笑いながら耳に手をあて聞き返す
「ん?何だってえ?」
「はははははは」
しかしバージェットの言葉を聞いてダルトは目の色が変わる
バージェットは言った
「お前らなんぞ俺一人で十分だ」
「こっ…こっ…コイツ!!」
ダルトは頭の血管は浮きで完全に頭に血が登っていた
そして怒鳴りちらす
「てめえ!」
「人が下手に出てりゃあ調子乗りやがって…!?」
そして子分に怒声で命令する
「てめえらやっちまえ!!!」
「へい!!!」
子分たちは一斉にバージェットに斬りかかって行く
誰がどう見てもバージェットは絶対絶命だった
しかしバージェットの目は死んでいない
そして大きく構えを見せる…
そしてそれとほぼ同時に叫んだ
「アックススト-ム!!!」
「なっ…!?」
ダルトや子分たちは驚愕の表情を浮かべる
それは一瞬にして子分たちが倒されたからであった
「こっ…この痩せこけた身体に一体どこにそんな力が…?」
しかし再び命令する
「ええい偶然だ!」
「こんな痩せ細ったゴブリン一匹にこんな力があるはずがない!」
「もう一度突っ込め!!!」
「うぉおおおお--っっ!!」
子分たちは雄叫びをあげながら再びバージェットに突っ込んでいく
「なっ…!?」
しかし結果は同じだった
そしてさすがのダルトも気づく
バージェットがかなりの使い手だという事に…
そして思い出したように後ろを振り向きながら叫んだ
「ジェ…!」
しかしジェルチェを呼ぼうとした瞬間…!
ダルトの目が点になる
ジェルチェはいなかったからだ
そこにはオロオロとするヨサクしかいなかった
辺りを見回してもジェルチェはいない
そしてヨサクに向かって怒鳴りちらしながら叫ぶ
「ヨサクぅ!!」
「ジェルチェはどうした!?」
しかしヨサクは何も答えない
「ちっ…!?」
ダルトに動揺が走る
そして後方に待機していた子分たちに向かって叫ぶ
「お前らお遊びはこれまでだ!!」
「囲んで殺っちまえ!!!」
「へい!!!」
その子分たちはその暗殺一家の中では一番強い猛者たちだった
バージェットの様子を伺っていたのだ
バージェットを取り囲み斬りかかって行く
しかし劣勢は変わらない
そしてダルトは再び後ろを振り返り叫んだ
「ヨサク!!」
「こいつを殺れえええ---!!!」
しかしヨサクから反応はない
それは何故か?
ヨサクはジェルチェが突如いなくなって動揺していたのだ
今までジェルチェはほぼヨサクの近くにいた
しかし突如ヨサクの前から消え動揺する
「あっ…あっ…」
ただの幼い少年へと戻っていた
しかしダルトはそんなことは構わない
「ヨサク!!」
「俺の言う言葉が聞けねえのか!!」
「ここまで育ててやった恩を忘れたのか!?」
ダルトに激しく叱責され少しだが自我を取り戻した
バージェットが見える
そしてヨサクは子分たちに取り囲まれるバージェットに無我夢中で突っ込んで行った
しかしバージェットも猛者に囲まれヨサクに気づかない
「うおおおおお---!!!」
必死の形相でバージェットに斬りかかって行ったが、
あっさり返り討ちにされてしまう
この時もバージェットは無我夢中で少年を斬ってしまったことに気づかない
しかもこの時のバージェットに容赦はなかった
ヨサクは気づいた
自分の腹から血が溢れ腕と足が折れてしまっていることに…
もう立てなかった
そしてしばし死闘は続きそれからダルトたちは
子分数人を残しあとはダルトとヨサクのみになってしまった
ダルトは絶対絶命を感じ逃げようとする
しかしバージェットはそれを逃さない
「待てええええ!!!」
バージェットの怒声がなる
「ひぃ゛!?」
ダルトは恐怖の雄叫びをあげる
そして逃げた
目の前にヨサクがいた
しかしダルトはヨサクなんかどうでもいいように突っ込む
そして叫んだ
「邪魔だあああ!!!」
「えっ…?」
ヨサクはダルトが何を言っているのか分からない
そしてダルトはヨサクを掴むとバージェットに向かって投げつけた!
そうダルトは自分が逃げるためにヨサクを投げつけたのだ
そしてバージェットは当然ヨサクを斬ろうとした…
しかし…!
それが少年と知って無意識のうちにそのまま抱き止めてしまう
二人は目が合う
それがバージェットとヨサクとの運命の出会いだった
そしてヨサクは言った
「自我を取り戻し間近にアニキを見ました」
この時の事は鮮明に覚えています」
「アニキは痩せこけていました」
うつむきながら言う
「信じられないくらいに…」
「今とは本当にまるで別人っす」
「それに頬も痩せこけ身体はガリガリでおまけに無精髭を長く生やしていました」
「ガリガリでそれでも俺を受け止めてくれた細い腕…」
「今にでも倒れそうでした」
「あんなのいつ倒れてもおかしくない」
そして気持ちを込めて言った
「それに…」
「それに…!!」
「あんな状態は絶対普通じゃないっす!」
「でもそんな状態であの大人数相手に戦った…」
「そして敵であるはずのこんなどうしようもない俺を守ってくれた!!!」
そしてヨサクは悲しそうに言う
「それに俺と出会うまでに一体アニキに何が…!」
「…何があったのかは知りません…」
「結局今まで俺と会う以前に何があったのか教えてくれませんでした…」
「ムズガルド城についてアニキが一瞬言っていたって言いましたよね?」
「それでアニキがここに来るかもって張ってたって…」
「あれ本当なんすよ」
「その時アニキは本当にとても悲しい目をしていたっす」
「何かムズカルド城にとても大切なものがあるような…」
「それから死んでるような目をしていました」
「ハハ…その一瞬のあと何事もなかったかのように笑って誤魔化してましたけど…」
そして涙目になりながらワタルたちに叫ぶ
「アニキにとってムズガルド城は何かとても重要なことがあるのは間違いないんす!」
「アニキにとって何か時が止まったものがそこにあるのは間違いないんす!!」
「だ…か…ら…お願いす…」
ヨサクはワタルたちに両膝をつき土下座した格好で大粒の涙を流しながら叫んだ
「ア…ニ゛…ギ…を」
「ア゛…ニ゛…ギ…を…!?」
「助け゛…て゛…あ゛…げ…て゛…く゛…だ゛…さ…い゛…!!!!」
ヨサクは自分たちでは助けられかった思いをワタルに託そうとしているのだ…
当然ヨサクのバージェットに対する思いのすべてを聞き、
それにこたえないワタルではなかった
天に向かって叫ぶ
「当たり前だあああああああ゛あ゛あ゛-----!!!」
その言葉を聞きツバサはニッと笑う
ヨサクは嗚咽を漏らしていた
ワタルはこの先のムズガルド城を見て思った
そういえば俺はバージェットの一体何を知っていたんだろうか…?
共に死闘や修業をしたとはいえ俺と出会う以前のバージェットのことはまるで知らない
そして、ただムズガルド城で徴兵に紛れるだげではない
何かもっと大きなものが待ち構えている…
そんな予感がしてしかたがなかった
ゴゴゴゴ…
そしてまたこの時俺たちはまだ気づけないでいた
バージェットの抱える闇
それは果てしない絶望を…
そして深い悲しみを抱えていることに…
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