実験室編23

ハイデルはドクターベルケルの

実験内容について話し始めた

俺たちは騙ってその話を聞く

「私たちは脳に関わる実験や研究を長い間してきました」

「普段脳の半分の力も使っていないと

言われているのはご存じですか?」

「それを常に100パ-セントの状態で

引き出せればどんなに素晴らしいか…」

「それに脳は全ての起源」

「魔力、力、思考…さまざまな元となります」

「それでドクターベルケル様は

昔に苦心の末、素晴らしい発明をされました」

「まさか!?」

俺は表情が曇った

ある事を考えたからだった

しかしハイデルは俺を見ながら

人指し指を振りながら言った

「おっと…」

「チッチッチッ」

「まずあなたが浮かんだであろう考えは否定しておきます」

「洗脳とか心を操ると言ったチンケな話ではありません」

「洗脳とか心を操ると言ってもたかが知れています」

「術者によって限度も知れているでしょう」

「そんな話のレベルのものではありません」

「もちろんその過程で洗脳や心を操ることができれば

さぞかし素晴らしいでしょうけどねえ…」

「残念ながら私たちは洗脳や心を

操るといったことまでは成功していません」

「おやおや話が脱線してしまいました」

そしてハイデルはワタルに問いかけるように言った

「近々大きな戦争があるというは知っていますよね?」

それは核心へと大きく繋がる質問だという事に

ワタルたちはまだ気づいていない

「ああ…もちろん知ってる」

「その戦争に向けて魔界全土で徴兵してることもな」

少し苦笑いをしながらハイデルは言った

「ふふ…よくご存じですねえ」

「それならその戦争についてなんですが

過去に何度も我々は人界に攻め込んだ…」

「しかし…あの忌々しい人間どもに

あと一歩…!という所で幾度となく負けてきた…」

「我々魔界軍は失意のうちに解散し故郷へと帰ります」

「そんなことは分かってる」

「ふふ…ですが戦争から帰ってきた者の

話を聞いたことがありませんか?」

するとワタルは答える

「ああ…あまり覚えていないとか」

「多分俺が考えるに戦争の恐怖で思い出したくないとか

アドレナリンが出て無我夢中で

本当に覚えていないとかだと思っていたが…」

「あとその事について思い出してしまうから

語りたくないっていう人も当然いるだろうし…」

「だから俺たちは戦争から帰ってきた人に

その質問をするのは俺たちの村や近隣の村ではタブーとされてきた」

するとハイデルはニヤリと暗黒の笑みで笑った

「あれ違うんですよねえ」

「本当に覚えていないんですよ-」

「?」

「まぁ記憶の片隅に少しくらいなら

覚えているかも知れませんが…」

俺はハイデルが何を言わんと

しているのかよく分からなかった

「何が言いたい!?」

するとまたハイデルは笑った

「ふふふ…まぁ話の続きがあるので聞いて下さい」

「人界への入口があるのを知っていますよね」

「ああ」

「しかしそこに人間が強力な結界を張って

魔界から誰も人界に入れなくしたとか…」

「ええ…ですがその結界も完璧ではない」

「弱まる日があるんですよねえ」

「炎星と月星が交わる日…」

「その日だけ結界は弱まります」

「我々は神の日と呼んでいますが

人間どもは悪魔の日と呼んでるみたいです」

「逆ですねハッハッハッ」

俺たちの表情を見て更に話を続ける

「ごめんなさい」

「また話が脱線してしまいました-」

「それでさっきの話の続きですが…」

「戦争から帰ってきた者たちは

戦争の事をほとんど覚えていません」

「なぜだと思いますか-?」

「!?」

みんな悩んだ

しかしその時マ-ニャはハッとした表情で言った

「まさか記憶をいじったの!?」

するとハイデルは答える

「くっくっくっ…残念ですがそれは不正解です」

「そもそも何万人といる魔族たちの記憶を

いじれるわけないでしょう-」

「ですが大分核心に近づいてきましたねえ」

「今魔界と人界は激しく憎みあってるのは知っていますか?」

「もちろん知ってる」

「でもですね…」

「昔は魔界と人界で共存していこうなどと言う

戯れ言を平気で口にするおバカさんたちがいました…」

すると当然ハイデルは声を荒げた

「そんなものなどあり得ない!!」

「あり得るはずがないでしょう!」

「人間どもは下等な生物だ」

「愛などという偽善を振りかざし

はたまたその一方では

自分たちの欲望の赴くままに行動する…」

「力などないくせに自分たちは魔族より優れている…

そう思っている」

「しかも何が愛だ!平和だ!」

「争ってこそ美しいのではありませんかぁ?」

「憎しみあい罵りあい殺しあってこそ

美しいのではありませんか…」

「血肉の祭り…血肉の宴…」

ハイデルは目を大きくほとばしらせ笑った

「あっはっはっはっ……」

「いっひっひっ…いい--ひっひっひっ!!!」

「狂ってる…」

マ-ニャがそう言った

するとハイデルはまた真顔に戻った

そしてまた少し声を荒げながら驚いた表情で言った

「また話が脱線してしまいましたね」

「しかしそのおバカさんたちのせいで

信じられないことに本当に魔界と人界が

手を取りにいこう

などという事態になりかけたことがあるんですよ」

「まぁもちろん極一部の愚か者たちだけでしたけどね」

そしてそこから信じられないと

いった表情でハイデルは言った

「しかしそこで恐ろしいことに

そういうことが伝染し始めるんですよ」

「魔族から魔族へ…」

「人から人へ…」

「はたまた魔族から人へ…人から魔族へ…」

「私は目を疑いました…」

「ついには魔界や人界の有力者たちも

そんな愚かなことを言い始めました」

「ドクターベルケル様は頭を悩ませました…」

「そこで研究や実験の苦心の末にある画期的な発明をされました」

「その発明とは何だ!?」

ハイデルがここからクライマックスと言わんばかりに

甲高い声で語りだした

「ある装置ですよ」

「装置だと!?」

「ええ」

「それは…」

みんなハイデルの口から出てくる言葉を固唾を飲んで待った

つばも出てこない…口も渇き喉はカラカラに乾いていた

恐ろしさのあまり足が震えていた

一体装置とは何だろう…

言い様のない恐怖が俺を支配していた

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