実験室編19
俺たちはトレアのいた部屋から
地下へ降りる扉を見つけ進んでいく
重い沈黙が続いていた
無理もないミネアとマ-ニャの大事な母親を
目の前で亡くしたばかりなんだから…
しかし、こういう時に敵が出てくれれば戦いに専念して
忘れられるんだが、こういう時に限って敵は出てこなかった
まさかハイデルの部屋まで敵はいないのだろうか?
そう考えていると、
それを知ってか知らずかミネアが口を開いた
「さっき口にする暇はなかったけど良く気配の事が分かったな」
「私も凄いなって感心しちゃったよ」
この重い空気を何とかしようと
考えて出した質問なんだろう
マ-ニャも無理に元気を出して言ってるように見えた
ここで変な発言をしてせっかく場を変えようとしてくれた
二人の気持ちを無下にするわけにもいかない
そして俺は答える
「ああ…その事か…」
「ミネアやマ-ニャが何も感じてないようだったから
もしかしてと思ったけど…」
二人は目を丸くした
二人はあの気配のことに気づいてなかったのだろう
あのトレアも多分気づいてなかったらしかった
「分からない…分からないんだ…」
「分からない?」
ミネアが不思議そうな顔をして聞き返す
「ああ…
トレアのいる部屋に入るまでは何も感じなかったんだけど
部屋に入った瞬間何か大きな力を感じたんだ」
「そしてそれが以前森で感じた力…ハイデルのものだと分かったんだ」
「それがここよりさらに下層からのものだった」
「へえ…」
二人は感心してるようだった
しかし謝らなければならないこともある
俺はその事について二人に謝った
「悪かったな…」
「えっ何を?」
「いや説明する時間がなくて気配のことを…」
するとミネアとマ-ニャは言った
「ああそんな事気にしなくていいよ」
「そうですよ」
そんな話をしてるうちに冷や汗がポタポタと落ちてきた
いやーな空気が身体中をまとわりつく
ハイデルがいる部屋へと近づいているのだ
気配を感じなかったミネアとマ-ニャもさすがに気づいたようだった
そうこう思ってるうちにハイデルがいるらしき部屋の前についた
その部屋は重厚な扉に閉ざされていた
その部屋から出る禍々しいオ-ラに緊張が走る…
ついに着いたんだ…ヤツのいる部屋に…
ミネアは言った
「ここなんだね?」
「ああ」
マ-ニャも言う
「ここにみんなが…」
「待っててね…今助けに行くよ」
マ-ニャの強い気持ちが感じてとれた
それもそのはずだった
そのために俺たちは命をかけてここまで来たのだから…
そしてお互い息を飲んだ
お互い合図をした
そして三人一緒に扉を開く
ギ---っと重い重厚音と共に扉が開いた
扉を開けてみると同時に血生ぐさい匂いが
鼻の中に飛び込んできた
ここの地下に降りてきて初めて感じた異臭の比ではない
三人ともむせかえった
あまりの異臭で涙が出そうになる
そして、目の前は何やら白い霧らしきものに
覆われて何も見えない
そして、少しずつだが霧が晴れてきた
しかし何も見えない
しかし突然聞いたことがないような叫び声が聞こえた…!
「あっあっあっあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛------!!!!!!」
「いやあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛----!!!!!!」
「ア゛ア゛ア゛ァァァァ…!!」
聞いたことがない叫び声だった
だがこの声の主が俺には分かった
マ-ニャだ!
そう咄嗟に思い俺は叫んだ
「マ-ニャどうした!?」
白い霧が邪魔になりながらもマ-ニャを探す
そして、ようやく白い霧が晴れて目の前には
信じがたい光景が広がっていた
壮絶な顔をした何十体もの生首が
長机の上に綺麗にこちら側に向けて並べられていた
泣き叫んでいるような顔の者…
壮絶な顔をしている顔の者…
怒りを通り越して鬼のような形相をしている者…
さまざまだった
「あっ……あっ……」」
俺は言葉を失なった
そして、腰が抜けて地面にへたりこんでしまった
すると甲高い声が聞こえてきた
「ウェルカム♪ウェルカム♪ウェ゛--ルカム!!!」
ハイデルだった
そして、高らかに笑いながら言った
「よくお越し下さいましたねえ」
「歓迎の準備は楽しんで頂けましたか?」
「ドクターベルケル様はあなた達が
ここにたどり着くことはないだろうと
おっしゃられていましたが…」
「やはり歓迎の準備はしていて正解でしたね☆」
「ドクターベルケル様には言いませんでしたが
あなた達ならここまでたどり着くと思っていましたよ!」
「まぁもし来なければ私の頑張りも
無になってしまうところでした…」
そしてハイデルは霧が晴れて
俺たちを確認すると嬉しそうに言った
「ああ--」
「その顔ですよその顔ですよぉ---!!!」
「背筋がゾクゾクします☆」
「すばらしい--」
ハイデルは目を見開き暗黒の笑みで笑っていた
「もっと泣きなさい!」
「喚きなさい!」
「あははははーーーーほーほっほっ!」
「きさまあああああああ-----!!!!」
俺は腰が抜けて座り込んでいるのを
立ち上がりハイデルに突っ込んで行った
しかしハイデルは動じない
そして突っ込んで行くもすぐさま返り討ちにされてしまった
「はっはっはっはっ」
「何をそんなに怒ってらっしゃるんですか?」
「いろいろ考えたんですよぉ-」
「それでせっかくあなた達を招待するのですから
ここにいる生首になってる方達に言ったんです」
「みんな良い顔で泣き叫んでください…」
しかし残念そうにハイデルは話す
「しかしぃ?…なかなか良い表情をしてくれないんですよ-」
「苦労しました…」
するとまた嬉しそうにハイデルは話し出す
「そこで考えたんですよ!」
「そしてそれを言ってあげました☆」
「それでここにいるあなた達…特にマ-ニャでしたっけ?」
「マ-ニャ…あなたをここに招待して
同じ目に合わせてあげると言ったら」
「みんな良い表情してくれましてね-」
「傑作でしたよ」
「はっはっはっは」
「ああ゛あ゛あ゛---!!!!!」
マ-ニャも絶叫をあげながらハイデルに突っ込んで行く
「ん-私が話してる時は静かにして下さい!」
「ネオダ-クファイラ!」
暗黒の光がマ-ニャを貫いた
俺はハイデルに返り討ちにあい動けなかった
そして精一杯の声でマ-ニャを呼んだ
「マ…ニャ…」
俺はなんて無力なんだろう…
目の前で大切な仲間が傷ついている…
しかし助けることも動くことも出来ない
絶望が俺を支配していた
そしてハイデルは高らかに笑っていた
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