精霊の瞳
♢♢♢♢♢
「ルファちゃんのオススメだけあるね。この菓子とても美味いよ!」
広場のベンチでレフは破顔した。
「そう言ってもらえてよかったです。お腹満たされたみたいですね」
「う~んっ。お腹は満たされたけどォ、心がねぇ。なかなか最近満たされることなくってさあ」
「ココロ、ですか?」
「ま、そんな話はさておき。ルキオンの月かぁ。知らなかったよ、そんなふうに呼ぶものがあるなんて。星のことを月って呼ぶとはね」
「そうですね……」
「ルファちゃん、もっとあのおやじさんに聞きたかったようだけど。今調べてる奇現象のことと、なんか関係ありそうなの?」
「はい……」
「あのさ、そういう調査内容とかってアルとはしっかり確認し合ってる?」
「ええ、一応は」
「あ、なんか俺、変な質問ばかりでごめんな~」
「いえ……」
(あ、でも……。そういえばまだアルザークさんに言ってなかったことあったっけ)
ルファはうっかり忘れていたことを思い出した。
(私が襲われそうになったあの風の獣が魔に狩られたものだと。そうラアナが言っていたと、アルザークさんにまだ言ってなかった)
「そっか、確認し合ってるならいいんだ。あ、あと一つ、質問していいかな。一応これは星読みへの質問ってことで君の意見を聞いて、今後オレの仕事内容の参考とかにしたくてね」
「なんですか?」
(お仕事。レフさんの?)
「レフさんは確かアルザークさんと同業者で軍人さんなんですよね?」
「まあね。部署は違うけど」
「部署?」
「話すと長くなるから説明は後でね。まずは質問するよ、 いい?」
「は、はい」
なぜかレフが身体と顔を寄せてきたので、ルファは緊張しながら頷いた。
「近すぎる? ふふ。そんな縮こまらなくても。もっと肩の力を抜いてリラックスして聞いてくれる?」
「はぁ……」
「星読みはさ、夜空図から気象予報もやるんだろ? 聞きたいのは風についてなんだけどね。『不吉な風』が吹くときの夜空ってさ、やっぱ何か違うのかなぁ。夜空に前兆があったりするのかな?」
「不吉な風、というのは〈嵐〉とか〈竜巻〉とか〈突風〉などですか?」
「ん~、まあそういうのが一般だろうけど。でも俺の言う不吉な風は普通のものとは違うんだ」
「違う?」
大きな薄紫の瞳を瞬かせ、たくさんの疑問符が張り付いたようなルファの顔をしばらく見つめていたレフだったが、やがて微笑して視線を外した。
「たとえばさ、風って身体には感じるけどかたちが見えるわけじゃないよね。でも俺はね、風の中にあるカタチが見えるんだ。………獣のね。四季の獣、風の獣は君も聞いたことがあるでしょ? 風の中って表現はおかしいかな。奴らが風そのものなんだろうけど。視えるのは強く吹く風の中だけでね、今吹いてるような優しい風の中にはいない。そういう風は獣の吐息なんだって。俺はそう教えてもらった」
「教えて……? 誰にですか?」
「風の獣たちに」
「れ……レフ、さん……⁉」
ルファは驚きのあまり声を出すのがやっとだった。
「俺はね、ルファちゃん。俺は〈幻眼〉の所有者なんだよ」
こう言ってこちらを向き細められたその瞳の中にルファは見た。
本来レフの瞳の色である薄緑のその中心に、闇色の小さな点が二つ、よく見るとある。
(あれは? あれが〈幻眼〉の者である証拠なのだろうか……)
そんな不思議なレフの瞳をルファは間近で確認した。
「───レフさん。 それって『精霊の瞳』のことですよね?」
ルファの言葉にレフは吹き出すように笑った。
「それはまた綺麗な言い方だね。星読みらしいな。だが本当は違う。本来の呼び方は〈邪眼〉や〈忌眼〉で、ほかの国でもそれが多い。精霊の瞳、なんて古風だなぁ」
「でも、私は天文院の学び舎でそういう呼び方で教わったので」
「そっか。うん、まあそっちのお上品な呼び方のが俺も悪くないなって思うから、今度からその呼び名を使わせてもらおうかな。でさ、かれこれ一ヶ月くらい前だったかな、仕事の関係で西に滞在してたときにね、おかしな風を見て」
「あの! レフさん! ちょっとお話を止めてもらえませんか。私、気が動転して………」
「え? なんでなんで? 話、わかりずらい?どこで止めたらいいの??」
「えっと、あの。その……本当に『精霊の瞳』なんですよね?」
だとしたら彼は。
「レフさんは、エナシス王家の血筋……なのですか?」
恐る恐る聞いたルファに、レフはいつも通りの子供っぽい笑顔になって言った。
「ああ、ソコか。ん~、俺もいろいろ複雑でね。確かに大昔の話じゃエナシスの民は皆、精霊の瞳とやらを持っていて、その眼で天上界に存在する精霊とか聖獣とか?
あと、なんだっけ………そうそう、星霊主とか言う天界の王族みたいな人たちが見えたり話せたり、天上界に繋がる通路みたいなところを自由に行き来できたとか。それがエナシス王家のご先祖さま、なんて伝説があるけど。それってもうかなり古い話でしょ? 今のエナシス王家にだってそこまでの力を持つ者はもういないと聞いてる。その代わりにって言ったらなんだけど、この国には星読みが存在してんじゃないの? 天空の月星に祝福された者として。───ま、これは俺の勝手な解釈だけど。君たちの【魔法力】も精霊の瞳と似たような異能力じゃないのかな」
「それは……」
ルファはなんと答えていいのかわからなかった。
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