第6話 涙と翼

 学園内では、ほまれ友音ともね波乃香はのかと一緒に過ごすことが多くなった。誉や友音が他の友達を連れてくることもあった。

 誰かと一緒に過ごしていると、私物が紛失することがずっと減った。一度や二度なくなることがあったものの、複数人で探せばすぐに見つかり、やがて紛失すること自体がなくなっていった。

 事態が収束しているように思えたある日のこと。

 授業の前に行ったトイレの中。用を済ませ出ようとドアに手をかけたが開かなくなった。ドアを強く叩くと、

「あ、叩いたぁ」

 気味の悪い声と共にクスクス笑いが聞こえてくる。

「ほらほらぁ、もっと暴れてもいいんだよぉ。男の子なんだからぁ」

「そーれーとーもー、元々なよなよしてるから乱暴なことはできないとか?」

「ありえるーっ。お手洗いも女子の使ってるしっ」

「てかぁここ女子トイレしかないけどねぇ!」

 どうやら何人かで個室のドアを押さえているらしい。

 ドアに身を寄せ、向こう側に声をかける。

「出して」

「はぁ!? だったらこの学園から出てけよぉっ!」

 向こうの誰かがドスの効いた声で叫んだあと大きくドアを蹴る。つかさは驚いてドアから飛び退いた。

 ドアの向こうから不満げな声色を隠す気もないような言葉が聞こえる。

「ホント。あの方の世話係とか、何勘違いしちゃってるのって感じ」

「誰もあの方と一緒に眠ることも、触れることすら許されないというのに……」

「一生そこにいろ! この男女!」

 各々捨て台詞を吐いたあとゲラゲラと笑いながら去っていった。

 声が聞こえなくなったのを確認してから、脱出を試みる。

 ドアを強く押してみたが動く気配がない。物でも置いてあるのだろうとふんで、仕方なくドアをよじ登り外に出る。

 ドアは、ご丁寧にモップでつっかえ棒をしてあった。

 授業は始まる時間だったので片付けずに教室に戻る。

 教室のドアを開けると、いつもは机に伏せている波乃香がむくりと起き上がった。半分も開いていないくらいの目がつかさを見る。つかさは慌てて目をそらした。

 教卓には既に先生が立っていて、息を切らせて入ってきたつかさに驚いて声をかける。

「どうしたつかさ。授業始めるぞ」

「いえ……なんでも……ありません」

 口数少なく応えて席に着こうとしたつかさを先生が引き止め、小声で囁く。

「悩みがあるなら言えよ。独りになっちゃ、ダメだ」

「分かってますよ」

 つかさはそう言って先生を振り払い席に着いた。

 つかさが席に着くまでの間もずっと、ヒソヒソ声が聞こえていた。


 そのまま上の空で一日過ごし、昼食もまともに喉を通らずシクシクと痛む腹部を抑えながら放課後を迎えた。

 放課後。つかさは、珍しくカフェでお茶をしようと波乃香に誘われた。天気がいいからとオープン席に座らされ、ミルクティーをすする。

 波乃香は、

「このカフェのティースタンドを使ったメニューを一度頼んでみたかったんだー。おやつに食べるのには量が多いけど、二人なら食べ切れるよね」

 とニコニコしながらスコーンを手に取り食べ始める。

 明るい様子の波乃香に、つかさは聞いた。

「波乃香ちゃんは気にならないの?」

 波乃香は口の中のスコーンを飲み込んでから言う。

「何が?」

 波乃香は不思議そうに尋ねる。そう尋ねられても、上手く言葉が出てこないつかさは黙ってカップに口を付ける。紅茶を一口飲んだが、口の中は乾いたままだった。そのままぼやく。

「やっぱり私、ここに来ない方が良かったのかな」

「ここっていうのは、学園のこと?」

 波乃香の質問に、つかさは俯いて頷く。波乃香が続けて尋ねる。

「どうしてそう思うの?」

「だって……。私全然、波乃香ちゃんの役に立ててない」

「そんなことはないよ。つかさちゃんは私のこと、一生懸命世話してくれている。夢渡りも、今まで一人でやっていたから気にしたことなかったけど、やっぱり一緒に夢を見る人がいるとすごく楽だよ」

 つかさは持ったままだったカップを置き、考えながら言葉を紡ぐ。

「でも、私……夢の中では引っ張ってもらってばかりで」

「それはお互い様だよ。つかさちゃんは、私のこと守ってくれている」

「そんなことない。まだまだだよ」

 落ち込み気味のつかさに波乃香は優しく応える。

「今はまだ、だよ。いきなり何でもできる人はいないから」

「でも……」

「でも、は無し」

 つかさはうまく返せなくなって押し黙る。その様子を見た波乃香は優しい声で聞く。

「どうしたの?」

「何も……」

「あったのね」

 優しい口調の、だが確信じみた波乃香の言葉につかさは焦る。

「あの……。言わなきゃ、ダメ?」

「ううん」

 波乃香の声に、つかさを責める気配はなかった。そっとカップを持ち、紅茶の立てる香りに微笑み静かに口を付ける。

 そして、はっきりとした口調で言った。

「つかさちゃんが頑張っていることも、とってもいい子だっていうことも、私はみんな知っているよ」

 風が吹いて、二人の髪と紅茶の水面を揺らしていった。波乃香は流れる髪を指で押さえて耳元にかき上げる。つかさがその様子を見ていたのに気づいて首をかしげながら微笑む。

 つかさは再び視線を紅茶に戻す。飲もうとカップを持ち上げて水面が揺れているのが見えた。だがすぐに、揺れているのは水面だけではなく視界全体だと気づいた。見えた瞬間に自分の頬に雫が流れるのを感じて慌ててカップを置き、手で顔を覆う。

「私、本当に……ごめんなさい……っ」

「どーしたのーつかさちゃん。落ち着いて……」

 突然泣き出したつかさに波乃香は急いで立ち上がる。つかさに近づきハンカチを渡した。ハンカチに顔を埋め嗚咽おえつを漏らすつかさの背中を優しく撫でる。つかさは申し訳なくなって波乃香に謝った。

「ごめ……ごめんなさい……」

「つかさちゃんが謝ることは、なあにもないよ」

「ぅぅ……」

「どーしたのー?」

「私……全然、学園のこととか、夢のこととか、少女のこととか知らなくて」

「うん」

「それで……波乃香ちゃんが、そんなすごい人だって、知らなくて……」

「私はすごくないよ?」

 つかさは首を振る。

「一番‘完全’少女に近いって言われてたり、ほかの人たちから憧れられていたり……」

「ほかの人……って、誰から?」

「分からない……顔見てないから……」

「どういうこと?」

「今日……トイレに閉じこめられて……なんでここに来たんだとか、波乃香ちゃんに同室の人はいらないとか」

「まぁ」

 波乃香がわざとらしく驚いて見せる。

「最初はどうしてそんなこと言われなくちゃいけないんだろうって思って……でも波乃香ちゃんがすごいっていうのは分かるし憧れてる人がいてもおかしくないなって考えたら、じゃあ私はなんなんだろうって思って」

「つかさちゃん」

「いくら世話係だっていっても波乃香ちゃんが自分でできるようになったらいらないしそうじゃなくても必要ないって言われたら」

「つかさちゃん」

 波乃香は、自分で不安を増長させていくつかさに呼びかけ質問をする。

「つかさちゃんは、私のお世話を任されてここに来たよね」

 つかさは黙って頷く。

「でも、これは私の想像なのだけれど。もしお世話を任されなくても、それどころか少女じゃなくても同じ部屋じゃなくても、つかさちゃんは自分のこと何にもできない子と出会ったら、やっぱり放ってはおけないと思うんだ。違う?」

「……私、そんなにいい人じゃない」

「そう?」

 波乃香が微笑む。続けてこう言った。

「じゃあ、ある日突然私のお世話役を解任されたら、素直に聞ける?」

「それは」

 つかさは、波乃香や波乃香と一緒に過ごした時間に思いを馳せ、応える。

「……無理だと思う」

「でしょう?」

 にっこり笑う波乃香に、つかさは口を尖らせて言う。

「そういうことは、自分のことがちゃんとできるようになってから、言ってほしい」

「はーい」

 だいたい、今渡してくれたこのハンカチもつかさが波乃香に持たせたものだ。

「波乃香ちゃん」

「なあに?」

「私、いてもいいの?」

「もちろん」

 波乃香の明るい声色に、再びつかさの瞳の雫が溢れ出した。

「あらあら」

 波乃香は困ったようにそう言ったが、つかさが泣き止むまでずっと寄り添っていた。


「今日はありがとう」

 その晩の夢の中で、つかさが波乃香にお礼を言う。

「まだなにも始まってないわよ」

「ううん。昼間のことだよ」

「それなら起きている時の波乃香に言った方がいいわ」

「どうして?」

 つかさの疑問に、波乃香は言葉を探しながら応える。

「ここにいる私とあの時の私は、なんと言うか、ちょっと違うのよ。同じ『波乃香』なんだけど」

「言っている意味がよく分からないよ」

「ごめんなさい。私も自分で言ってて分からなくなってきたわ……」

 いつも冷静でしっかりしている夢の中の彼女にしては珍しく自信がなさそうな返事をした。

 ふと、ある扉の前で立ち止まる。群青色の扉には黄色い三日月模様が描かれていた。二人は顔を見合わせ、扉を開ける。


 扉を抜けた先は、夜の草原だった。涼しい風の吹く草原には、二人の背くらいの大きさの岩が点在している。いくつかの筋雲の間から三日月が照らしていた。

 どこからか、すすり泣く声が聞こえる。人気のない草原を見渡すと、しゃがみこんでいる人影を見つけた。近づき声をかける。

「こんばんは」

 人影は白衣を着た少女だった。白衣の少女はゆっくりと顔を上げ、涙で溢れる目をこすりながら尋ねてくる。

「こんばんは。あなた達はだあれ?」

「私は波乃香、こっちはつかさ。あなたは、この世界の少女?」

「ええ」

 白衣の少女は立ち上がり頷いた。

「あなたの願いを叶えにきたわ」

「そうなの?」

「貴女の願いは何?」

「私の願い? それはね……」

 少女は俯き押し黙る。また泣き出したかもしれない、と思ったつかさが顔を覗きこもうとした瞬間、キッと睨みつけ鋭い声で叫んだ。

「あなた達を追い出すことよっ!」

 少女の叫びに呼応するかのように突風が吹き、月光の狭間から頭鳥胴獣(グリフォン)が現れる。

 少女は獣の背中に飛び移り空に舞い上がる。上空から羽ばたきによる強風を浴びせ、二人を吹き飛ばそうとしていた。

 つかさは慌てて波乃香を連れ近くの岩の影に隠れる。

「ちょっと! 波乃香ちゃんどーゆーことこれ」

「この世界にはガーディアンがいるみたい」

「ガーディアン?」

「少女を外敵から守る存在」

「私たちが敵だって思われてるってこと?」

「簡単に言うとそう」

 そんな問答をしている間に鋭利な羽がガーディアンの体から飛び出し二人の隠れている岩を砕く。

 間一髪で避け別の岩に隠れる。

「どうすればいいのっ?」

「とりあえず避ける」

「それは今やってるよ!」

 また攻撃を受け、それを寸前で避ける。

「少女に攻撃しちゃだめなの。ガーディアンはまだいいけど」

「でも避けてるだけじゃどうしようもないよー! いつもはどうしてたの」

「歌を歌ってた」

「歌っ?」

「少女の心を静めてガーディアンを消す歌」

「じゃあ早く歌って」

「心の準備が……」

「なら私が引きつけておくから、波乃香ちゃんは歌の準備をお願い!」

 つかさは早口にそう告げ飛び出していく。

「ちょっと! つかさ!」

 波乃香の制止を無視してガーディアンの前に躍り出る。

「ご機嫌よう。こっちだよ!」

「ちょこまかとぉ!」

 憤怒した少女はガーディアンから出た羽を一斉につかさに向ける。

「くっ!」

 殆ど避けることができるが、避けきれなかった羽のいくつかがつかさの服や皮膚を裂いていく。

 ガーディアンと少女は上空高くにいてどうすることもできない。ガーディアンが三日月を背に、一際大きく羽ばたく。抜け落ちた羽が舞い散っていた。

「翼……」

 ガーディアンがくちばしを上げ、エネルギーが集まるように光の球ができる。すぐに充填され、つかさめがけて放たれる。

 間に合わない、と波乃香が危惧した瞬間、光球がつかさに当たるその瞬間に、つかさの背中に一対の純白の翼が生え、つかさを覆う。光球を防いだ翼が開いて、中から現れたつかさが少女を見据える。

「何をぉっ!」

 防がれたことに腹を立てた少女がガーディアンに更なる攻撃を命じる。つかさは翼を羽ばたかせ舞い上がり、地上に攻撃がいかないように避け続ける。

「どいつもこいつも! したり顔で近寄ってきて私の心を踏みにじっていく!! 皆消えちゃええええ!」

 少女が叫ぶ。ガーディアンが小さな光球をいくつも出して四方に放つ。つかさも真似して光球を作り、全てにぶつけて相殺する。全て防がれてしまった少女の苛立ちが最大級に達していた。

 上空で二人睨み合ったとき、どこからか歌が聞こえてきた。波乃香の歌だ。

 歌は辺りを包むように広がって世界を震わせていた。少女の乗っていたガーディアンが光の粒に散って消えてしまう。

「きゃあぁぁぁ!」

「危ない!」

 落ちる少女をつかさが受け止める。

「セーフ……。怪我はない?」

「き、や、す、く、触らないで」

「ちょっと、暴れたら落ちる……」

 つかさから離れようとする少女を押さえて地面に降ろす。降りてきたつかさたちを波乃香が待っていた。

「ありがとう、つかさ」

「どういたしまして」

 安堵している波乃香に、少女が食ってかかる。

「どうして助けたのよ!」

 波乃香は全く気負いする様子もなく応える。

「あなたが呼んだから」

「呼んでない!」

「そう? でも、この世界の扉は開かれていた」

「あなた達が勝手に入ってきただけじゃない!」

「違う」

「違わない!」

 つかさは口喧嘩になりそうな二人の間に入る。

「ちょっと、止めなよ二人とも」

 白衣の少女に向き直り謝罪する。

「ごめんね、急におじゃましてしまって」

「ふん! ならとっとと出て行きなさいよ」

 少女は腕を組み、そっぽを向く。

「でもそれはできないんだよ」

「どうして」

「私たちはあなたを助けに来たから」

「助けなんていらないわよ」

「そう? でもあなたは、ずっと泣いてる」

 つかさは涙の伝う少女の頬を触れようとしたが跳ね除けられた。

「知ったような口きかないでよ。さっき知り合ったばかりで私の何が分かるの」

「分からないよ。だから教えて? あなたのこと」

「なんで教えなきゃいけないの」

「うーん……。あなたと友達になりたいから、かな」

「友達になってどうするの」

「ん? どうもしないよ。ただ仲良くなって、お話しするだけ」

 つかさは笑ってそう言うが、少女は小さく呟く。

「違う……」

 少女は二人を睨んで叫んだ。

「絶対に違う! 近付いてくるのは私を利用したい奴か誰でも良いから群れていたい奴ばっかり! 私が悲しかったり辛かったりしても、何もしてくれないどころか笑い物にしたり軽蔑したりする! そんな奴らは皆いらない!」

 少女の叫びを聞いて波乃香が言う。

「そっか……。あなたはずっと寂しかったんだね」

「分かったようなこと……」

「分からないよ。あなたのことは何も知らない。だから知りに来た。分かりに来た」

 波乃香が少女の手を取る。

「誰のことも、最初は分からない。だから知ろうと思う。分かりたいと思う。話してみて」

 波乃香にそう言われ、少女はしゃがみこんでしまった。

 それからしばらくつかさと波乃香は少女に寄り添い話を聞いた。話の内容は、「周りに親しく話せる人間がいない」とか、「誰も自分の悩みを分かってくれない」とか、「誰それが気に入らない」とか、そういった他愛ないことだった。

 少女は時々

「ちゃんと聞いてる?」

 と念を押してきた。その度に二人は

「聞いてる聞いてる」

 と相槌を打つ。

 だいたい少女の話が出尽くしたところで波乃香が尋ねた。

「本当に、あなたの話を聞いてくれる人はいない?」

「いないわよ……」

「本当にそう? だって、私たちには話せたじゃない」

「それは、これが夢だから……」

「そうだね。これは夢で、朝になったら消えてしまう幻みたいなものかもしれない」

 波乃香は少女の目を見て言う。

「でも、忘れないでいてほしい。私たちはちゃんとあなたと同じ世界に生きている。証拠は出せないけど、それは本当なのよ」

「本当……?」

 不安そうな少女につかさが応える。

「うん。だから、きっとあなたのことを分かろうとしてくれる人に出会えるよ」

「それでももし裏切られたら……?」

「そうだね、裏切られることも傷つけられることもあるかも。だけど必ずいるよ、分かり会える人。そういう人は、まず分かり合おうとしないと出会えないものなんだよ。それに」

 つかさは波乃香を見る。波乃香はつかさに微笑み返して、言葉の続きを紡ぐ。

「どうしても出会えなかったら……私たちがいる。呼んでくれたらいつでもあなたのところに来るよ」

「本当に?」

「本当だよ」

 二人の言葉に白衣の少女は笑って応える。

「分かった。じゃあ、ほんの少しだけ頑張ってみるわね」

 少女がそう言うと、白衣のポケットの中身が光りだす。少女が取り出したのは、黄色いガラスで三日月模様が描かれた懐中時計だった。

 白衣の少女は懐中時計を二人の前に突き出しながら言う。

「あなた達、本当はこれが欲しくて来たんでしょう?」

「そうよ」

 波乃香が返事をする。

「なのに助けたいなんて言って、白々しいったらなかったわ」

「あはは……。でも泣いているのを見たら、助けたいって思ったのも、本当だから」

 つかさがフォローする。

「ふん、まあいいわ。繋げてあげる。そもそも、繋げておかないとまたここに来れる保証が無いじゃない」

 少女と波乃香が手を重ね盟約を唱えた。


 世界から夢の狭間まで戻ってきて、波乃香がつかさの背にある翼を指差して言う。

「それ、仕舞えるかしら」

「ああ、ごめんごめん」

 つかさは意識を集中させて羽を折り畳む。背中で隠せるくらいまで畳むと、勝手に散って消えていった。

 翼の様子を見ていた波乃香が言った。

「つかさって変わってるわね」

「そう?」

「ええ、鱗が生えたり羽が生えたり」

「それは変わっていることなの?」

「ここは夢の中だから想像できるものは殆ど実現できるけど、それでも難しいことはある。その一つが自分を変えることなのよ」

 そう波乃香が言った。

 そして、目が覚めた。


 数日経った休み時間、何人かの少女がつかさの前に現れて謝罪の言葉を述べた。

 少女たち曰く、つかさの持ち物を隠したりトイレに閉じ込めたりしたのは自分たちで、人気のある波乃香のルームメイトに嫉妬したからやってしまった、今はすごく反省していてもう二度と嫌がらせはしない、ということだった。

 気にしてないから別にいいよ、とつかさが言うと、少女たちは波乃香に畏怖の視線を一瞬だけ向け、すごすごと去っていった。

 それから本当に嫌がらせの類は一切なくなったが、それからのつかさはなるべくお手洗いは寮で済ませるようにして、校舎内の、特に教室近くのトイレを使うことは二度となかった。

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