挿話参拾参/憎しみが理解へ変わるまで

燿炎ようえんは久しぶりに露衣土ろいどとの対面を果たした。


それに拠り、今度は燿炎ようえんの頭の中で炮炎ほうえんが殺された場面が甦ってくる。


─────


「燿炎、まだ、判らないのか?」


炮炎が厳しい眼差しで燿炎に問うた。


「炮炎」


燿炎は炮炎の問いには答えられずに、それだけを言うのが、やっとだった。


そんな燿炎の様子を見て説得を続ける、炮炎。


「露衣土のやらんとしている事が真の平和に繋がるものではない事を」


「んー」


燿炎は言葉にならない呻き声を発するだけだった。


突然、話に割って入ってくる、露衣土。


「言いたい事は言い終わった様だな」


「止めろ!露衣土!」


燿炎は露衣土を制止しようと叫ぶ。


─────


いつも夢で見ていた場面であった。


燿炎の中で、なんとも言えない様な感情が沸々と湧き上がってくる。


兄の炮炎を失った哀しみ。


その炮炎を殺した露衣土を目前にして、憎しみが生じてきても当然ではある。


確かに以前の燿炎には露衣土に対する憎しみがあった。


それは否定出来ない。


しかし今のこの感情には不思議と憎しみの様なものは、もう無くなっていた。


だから、なんとも言えない様なものなのだ。


今、燿炎も露衣土もお互いに対して憎しみを抱いて敵対している訳ではなかった。


露衣土は精霊の星を統一する事が平和へと繋がると信じて、その妨げになる者は炮炎であろうとも、燿炎であろうとも、他の誰であろうとも排除するだけの事で、その結果として炮炎を殺す事になり、燿炎とも敵対する事になってしまっただけなのだ。


勿論、燿炎にとっての露衣土は幼馴染みと云う事もあって、長年、共に過ごしてきた事で、その様な露衣土の性格は十分に解ってはいた。


それでも炮炎が殺された時は露衣土に対して、憎しみを抱かずにはいられなかったのである。


その憎しみが露衣土に対しての疑問と云うものを決定的なものにし、露衣土の下を離れて反乱軍へと身を投ずる最大の要因にもなった。


そして反乱軍のリーダーとなって露衣土帝国軍と戦っていく内に、平和と云うものに対する疑問、戦う事に対する疑問、様々な疑問と向き合う事となって、それら多くの疑問が燿炎の内にあった露衣土に対しての憎しみを洗い流してしまったのかもしれなかった。


そして何の迷いも無く、いや、迷いはあったとしても、それを表には出さずに自分が信じた道を突き進む事が出来る露衣土に対して、尊敬の念すら抱く様になっていた。


露衣土は露衣土で真剣に平和へと向かっていたのだ。


真剣であるからこそ、己を貫く事も出来たのではなかろうか。


炮炎がそうであった様に、露衣土もまた、そうであったのだろう。


先ず炮炎が露衣土の想いに応える形で露衣土と対立をする事になった。


そんな炮炎の姿勢に露衣土が応えただけなのだろう。


今の燿炎には、それが十分過ぎる程、理解が出来る様になっていた。


そして自分もまた真剣に向き合わなければならない。


それが炮炎の死に対する報いでもあり、露衣土の想いを受け止める事にもなる。


そんな風に燿炎は思っていた。

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