挿話参拾壱/愚者の末路

露衣土ろいど討伐軍の別働隊は崖の上からの攻撃には十分に注意を払いながら、れいの谷の底を流れる氷河の上を露衣土城へと向かっていた。


すると突然に崖の上の方から、大小の岩の塊が別働隊に向かって落ちてくる。


やはり露衣土軍は此処で仕掛けて来たのであった。


このまま落ちて来る岩の塊を放っておいたら、別働隊は壊滅状態になってしまうだろう。


しかし別働隊には四天王の一人である崩墟ほうきょが居た。


崩墟が大地の魔法で降り掛かって来る岩を全て砂へと砕く。


別働隊の者達は砂塗れにはなったが、死者はおろか一人の怪我人すら出さずに済んだ。


そして燿炎ようえんが崖の上に向かって声を張り上げる。


崙土ろんどだろう!隠れていないで出て来いよ!」


すると崖の上に数人の人影が姿を現した。


燿炎はすぐさま崩墟に指示を出す。


「崩墟。頼んだ!」


崩墟は大地の魔法で人影がある部分の崖を切り崩して、敵を氷河へ叩き落とそうとした。


そして露衣土軍であろう人影達は切り崩された崖に乗ったまま、氷河に激突する寸前に切り崩された崖を砂へと砕き、衝撃を和らげて着地しようとする。


しかし、それまで氷河であったはずの、その場所が氷から水に溶かされていた。


凍浬とうりが魔法で氷河の氷を溶かしたのだ。


敵であろう人影達は皆、そのまま砕かれた砂、諸とも水の中へと沈み込む。


そして一人の男が水の中から頭を出す。


その瞬間に水は再び氷河へと戻った。


凍浬が魔法で凍らせたのである。


頭を出した男は燿炎にとって、顔見知りの崙土であった。


崙土の部下達は全て氷河の中で氷漬けになった様だ。


そして燿炎が徐に頭だけになった崙土に話し掛ける。


「久しぶりだな。崙土」


「た、助けてくれ」


崙土は必死に助けを請うた。


燿炎が崙土の顔を覗き込む様にして言う。


「心配するな。久しぶりの再会なんだ。少し話をしようぜ」


「話って何を話するんだ?」


崙土は顔を引き攣らせながら言った。


皮肉を込めて、燿炎が崙土に声を掛ける。


「お前は今、司令官をしているんだってな」


「それが、どうかしたのか?」


崙土は皮肉を言われても、惚ける外はなかった。


更に皮肉を続ける、燿炎。


「随分と出世したもんだな」


崙土はどう返答したらいいのか判らずに言葉が出て来ない。


それを見て燿炎が言葉を続ける。


「露衣土はやり方に問題はあれども、己の信念に基づいて戦っている。しかしお前はどうだ!?」


「どうだ!?とは、どういう事なんだ?」


崙土は燿炎の言う事を測りかねて訊き返した。


今度は白地な嫌悪感を顕にして、燿炎が言う。


「お前は己の立身出世の為に多くの人々を踏み潰して来たよな」


「そ、それは誤解だ」


動揺を隠せずに吃ってしまった、崙土。


今度は燿炎が崙土に訊き返す。


「どう誤解なんだ!?」


「俺は露衣土様のお考えに心を打たれて、露衣土様の為に、と」


崙土がそこまで言った時、燿炎が話を断ち切る。


「まあ、いい」


「お、俺を殺すのか?」


崙土が声を震わせながら燿炎に訊いた。


再び崙土に訊き返す、燿炎。


「殺して欲しいのか?」


「いや、助けてくれ」


崙土は必死になって燿炎に助けを請うた。


「昔のよしみだ。すぐに殺しはしないさ。凍浬、頼む」


燿炎は崙土にそう応えながら、凍浬にも声を掛けた。


崙土は凍浬の魔法で残った頭も凍らされて生きたまま氷河の一部となった。

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