挿話拾弐/旅立ちの因

突然、露衣土ろいどの部屋に一人の男が飛び込んで来た。


そして男は炮炎ほうえんに声を掛ける。


「炮炎」


燿炎ようえん


炮炎が部屋の入口を方へ振り返って、男の声に応えた。


部屋に入って来た男の名は燿炎。


炮炎の実の弟でもあった。


続け様に今度は炮炎が燿炎へ声を掛ける。


「久しぶりだな。元気だったか!?」


「見ての通りさ」


今度は燿炎が炮炎の声に応えた。


露衣土は黙って二人のやり取りを見ている。


燿炎に同行の意思がないかを尋ねる、炮炎。


「一緒に来ないか?」


「一緒にって、」


そう言って燿炎は言葉を詰まらせた。


炮炎が燿炎を説得しようと試みる。


「このまま露衣土と共に力に依る制圧を続ける事で、本当の平和が訪れると本気で思うのか?」


「それは、」


燿炎は再び言葉を詰まらせた。


説得を続ける、炮炎。


「すでに露衣土は自らの手で正義を手放している」


燿炎は何も言えずにいる。


そんな燿炎の様子を見て、更なる説得を続ける、炮炎。


「いつまでも露衣土と共に力に依る制圧を続けても、その先に待ち受けているものは滅びしかない」


「確かに露衣土の手段には疑問を感じる事もある」


絞り出す様に燿炎は自らの迷いを炮炎に打ち明けた。


炮炎が燿炎に対する疑問をぶつける。


「だったらば何故?いつまでも露衣土の傍にいる?」


「それでも、他に正しい手段がある様には思えない」


自身の率直な想いを燿炎は炮炎にぶつけた。


そんな燿炎の想いを受けて、炮炎が語り出す。


「確かに何が正しいのかは俺にも判らん。しかし露衣土の手段が間違っている事だけは確かだ。我々は正しい事をしようとするよりも、間違った事をしない様にしながら、何が正しいのかを模索していくべきなんじゃないのか!?」


燿炎は再び何も言えなくなる。


更に語り続ける、炮炎。


「この世界は決して露衣土だけのものではないし、我々だけのものでもない。他にも大勢の仲間がいる。そんな仲間達と共に悩み苦しみ、時には笑い合って、一緒に成長していけばいいのではなかろうか」


「炮炎、」


思わず漏れる、燿炎の声。


炮炎が必死に語り掛ける。


「露衣土の様に自らの考えで世界を制限して、次々と仲間を排除していく手段では、いずれ自らを排除してしまう事にも為り得る。今ならまだ間に合う。まだ遅くはないんだ。まだ諦めるな!」


燿炎は返す言葉が見つからなかった。


そして今度は燿炎に同行を迫る、炮炎。


「俺と一緒に来い」


燿炎は言葉を出せないでいる。


炮炎が厳しい眼差しで燿炎に問う。


「燿炎、まだ、判らないのか?」


「炮炎」


燿炎は炮炎の問いには答えられずに、それだけを言うのが、やっとだった。


そんな燿炎の様子を見て説得を続ける、炮炎。


「露衣土のやらんとしている事が真の平和に繋がるものではない事を」


「んー」


燿炎は言葉にならない呻き声を発するだけだった。


突然、話に割って入ってくる、露衣土。


「言いたい事は言い終わった様だな」


「止めろ!露衣土!」


燿炎は露衣土を制止しようと叫んだ。


露衣土は燿炎の制止には構わずに、氷の魔法を使う。


いきなり炮炎の体が一瞬にして凍り付いた。


そして、すぐに凍らされた炮炎の体が粉々に砕け散る。


露衣土が大地の魔法を使い、地面を振るわせて振動波を生み出し、その振動波で凍った炮炎の体を砕いたのだった。


「炮炎ー!!」


燿炎は炮炎の体があった中空に向かって吠えた。

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