挿話参拾/宿命の男達

虎士郎こしろうは黙ったまま天竜てんりゅうを睨み続けている。


表情に変化はない。


ただただ睨んでいるのである。


「さて、とっとと終わらしちまうか」


独り言の様に天竜が言った。


「抜きな」


続け様に天竜が虎士郎へ声を掛けた。


虎士郎はそう促されて、ゆっくりと刀を抜いて構える。


天竜も虎士郎の動きに合わせる様に、ゆっくりと刀を抜いて構えた。


数瞬の静寂が二人を包み込む。


そして、その静寂が二人を縛り付けようとした、その時、その静寂を振り払うかの様に天竜が言う。


「例の奴で来な」


ー例の奴ー


隠岐流剣術の必殺剣である月影つきかげの事である。


虎士郎はすぐさま、それを理解した様だ。


普通なら、そう相手から促されると警戒する事もあってか、中々に自分からは動き辛かったりもするのだが、虎士郎は違った。


天竜の言うままに、すぐさまを繰り出す。


一気に間合いが詰まって行った。


虎士郎の剣先が天竜の喉元へと伸びて行く。


しかし天竜は避けようともしない。


微動だにせずに虎士郎を睨んでいた。


虎士郎の剣先は、すぐ、そこまで来ている。


それでも天竜はまだ微動だにしない。


ついに虎士郎の剣先が天竜の喉元を貫いた。


その瞬間に天竜が動く。


天竜は物凄い速さで刀を振った。


恐らく普通の人間には捉える事が出来ないであろう速さで。


一瞬にして目の前の虎士郎の胴を真っ二つにしてのけた。


虎士郎の下半身は地面に転がって、血溜まりを拡げている。


上半身は天竜の喉元を貫いた刀を握ったまま、ぶら下がっている状態だった。


胴の切断面から大量の血が垂れて、その下にも血溜まりを拡げている。


すでに虎士郎は絶命していた。


その表情は天竜に向かって来た時と何の変化も無く、その目は天竜を睨んだまま、いや、見詰めたまま、なのかもしれない。


そして天竜は、と言うと、満足げな表情を浮かべながら虎士郎を睨んで、いや、優しく見詰めている様だった。


そして、そのまま右斜め前方へと倒れ込んだ。


天竜もまた、すでに絶命していた。


二人は虎士郎の刀で繋がれたまま、向き合う状態で横に倒れ込んでいる。


天竜はその気になれば、虎士郎にを出させずに闘いを進めていく事は出来たであろう。


しかし虎士郎を斬る事が出来なければ、いつまで経っても決着は着かないのだ。


そして、そうする事で虎士郎がバテるのを待つ事も出来たのであろうが、それもまた自分が先にバテる可能性も考えると、その様な不確定要素に自らの命を預ける気にはなれなかったのである。


だから自らの命を盾にしてでも虎士郎を斬る事のみに専念したのだ。


そして見事にそれをやってのけたのである。


虎士郎は虎士郎で天竜の刀を避ける事は出来たであろう。


しかし天竜の刀を避けようとすれば、繰り出したを引かなければならない。


虎士郎もまた、自分が斬られる事を承知の上で天竜を斬りに行ったのである。


まるでお互いが、こうなる事を望んでいたか、の様な結末であった。


もしかしたら二人は二人共、自分を斬る事の出来る者を求めて、人を斬り続けていたのかもしれない。


そして二人は二人共、その求めるものを同時に手に入れたのではなかろうか。


こうして向き合って、見詰め合ったまま倒れ込んでいる姿を見ると、恋人同士が見詰め合っている様にも見て取れるのである。


長年に渡って追い求めてきた、愛しき運命の恋人に出会った様な。


まさに、そんなものを感じさせる様な二人の姿であった。


そして二人を繋ぎ留めていたのも、現在の姿と同じく『剣』であったのである。


─────


此処に、

こうして、

二人の類い稀なる剣士、

いや、

『人斬り』

が、

闇へと還る事になったのである。


           ☆壱章/人斬り☆

                    完

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