9-9


「えー! まだこいつらの相手しなきゃダメなの? めんどくさーい!」


 イエローが疲れたような顔で不満を漏らすが、その気持ちは痛いほど分かる。


 この俺たちの周囲で蠢く、不気味な雨水人形の特性を考えれば。


「マジカル! ウォーターアロー!」


 先手必勝。

 魔法の弓を生み出したマジカルブルーが、高密度に凝縮された水の矢を放つ。


 水に水がぶつかる格好となったが、密度と速度の差で、ブルーの放った水の矢の方が、水で形成された人形の方を、あっけなく撃ち抜く。


 水人形は半透明なため、その核となっている金種きんしゅの破片の位置の特定は、容易たやすい。


 ブルーは、その見事な射撃の腕で、正確にその小さな破片を射抜いて見せたのだが、破壊され、バラバラになり、地面に散らばった破片が、再び辺りの水をかき集め、水人形として再起動する。


 結果として、ブルーの攻撃により水人形は、その数を増やしたと言えるだろう。


「この! この! このこの!」


 のたり、のたりと愚鈍な動きで近づいてくる雨水人形をイエローが迎撃し、ブルーに近づけさせないように頑張っているが、どうにも数が多すぎる。


 幾ら一体一体がそれほど強くはないと言っても、あれでは、そのうち押し切られてしまうかもしれない。


 あの水人形を完全に倒しきるには、核となっている破片を、もう活動できないレベルまで粉々に破壊してしまえばいいのだが、正直、この数とその再生力を考えると、果てしない作業に思えてしまう。


 正直、めんどくさい。


「はっ!」


 俺は、カイザースーツの機能をフルに活用し、視界に入っている全ての水人形の核に照準を合わせ、即座に小さな魔方陣を最大数展開し、それぞれから小さなレーザーを照射して、核を焼き切る。


「……ちっ!」


 レーザーの威力を、全て一定にしたのがまずかったのか、レーザーが命中するまでの距離によっては、焼き切れなかった破片も複数出てしまった。相手を構成している物質が、水というのも関係しているのかもしれない。


「ちょっと! 危ないじゃない! なに考えてるのよ、この真っ黒バカ!」


 まぁ、ブルーとイエローの方に群がっていた水人形の数は、一時的にせよ、大分減らせたので良しとしよう。


 しかしイエロー、いくらシュバルカイザーのスーツの色が黒くても、真っ黒バカはないだろう。小学生か、お前は。


「……ん?」


 レーザーによる攻撃の効果をセンサーで確認していた俺は、妙な違和感を覚える。

 その違和感は一瞬で膨らみ、確かな答えとなって、俺の中に浮かび上がった。


 ……とりあえず、試してみるか。


 俺は適当な水人形の足元に魔方陣を展開し、小さな竜巻を起こして、そのボディを形作っている水分を、全て吹き飛ばす。


 一瞬の暴風が収まった後には、それまで核として機能していた破片だけが、中空に浮かんでいた。その破片は重力に従って、当然だが、下へと落ちる。


 落ちた先の水も、すでに竜巻によって吹き飛ばられている。破片は渇いた音を立てて、倉庫の床へと着地した。


 そしてそのまま、なんの動きも見せない。


 なるほど……。

 俺はスーツのセンサーを使って、その地面に落ちた破片を分析する。


 ほどなくして、乾いていた地面の周りから再び水が流れ込み、落ちていた破片は、その水を使って、再び水人形を作り出した。


 そう、水だけで。


 確か金種の破片は、周囲の無生物を取り込んで、戦闘人形にするという兵器のはずだが、今回の人形は、全て雨水のみで構成されており、それ以外の無生物が接触しても、反応しない。


 この倉庫そのものが無生物なのだから、倉庫の床に落ちたのなら、それを素材とした人形になるはずなのに、あの破片は、水がやってくるまで動かなかった。


 本来なら、様々な無生物の混成体となってもおかしくないはずなのに、完全に水でしか構成されていない人形ばかりだったことに違和感を感じたのだが、どうやら、当たりだったようだ。


 その原因をカイザースーツに内蔵されている高機能センサーで探ってみた結果、どうも、破片が本来の効果を発揮しきれないのは、疑次元ぎじげんスペースのせいらしい。


 分析の結果、どうやらバラバラになった金種の破片の性能では、疑次元の壁を突破できず、範囲内の無生物への干渉が妨げられているようだ。


 そのため、疑次元スペースに守られていない無生物……、疑似元スペースの外から延々と振ってくる雨を、利用してるようなのだが……。


 つまり、これはチャンスということか。


 この疑似元スペース内では、雨以外を戦闘人形の素材にできないというのなら、少なくとも、こういう屋根のある場所内でなら、屋内の水分を全て蒸発させるなりなんなりしてしまえば、金種の破片は機能せず、この場の安全を確保できるはずだ。


 ついでに、入り口付近に、水分を即座に蒸発させる程度の炎でも用意してやれば、完璧だろう。


 では、早速……。


 なんて俺が考えた次の瞬間、屋内のはずの倉庫の上空から、土砂降りの雨が、滝のように降り注いだ。


 一体なにを言ってるのか、分からないと思うが、俺にも分からなかった。


 いや、ごめん、嘘だ。それは嘘である。


 なにが起こったのか、俺にはすぐに分かった。


 倉庫の屋根が、全て吹き飛んだのだ。


「やっほ~! 来ちゃった~!」


 俺の頼りにする仲間、無限博士ジーニアの手によって。



 うわーい! これで、さっきまで長々と考えていた俺の作戦は、台無しだーい!



 混乱してる場合ではない。落ち着かなくては、落ち着け、俺!


「ジーニア、どうした? なにかあったのか?」


 思わず動揺から声が震えてしまいそうだったが、カイザースーツが補正してくれたおかげで、なんとか威厳ある口調は守られた。サンキュー、カイザースーツ!


「分かったのよ~! 気になってたことが~! この雨の原因が~!」

「雨の原因?」


 ジーニアは嬉しそうに、巨大なクレイジーブレイン君を上手く操作して、空中をホバリングしている。


「そう~! この不自然な雨の原因~! 近頃この辺りって~、やけに雨が多かったでしょ~? ちょっと気象学的におかしかったから~、色々調べてたんだけど~、今回の豪雨で、ようやくその原因を見つけたの~!」


 マリーさんは自らの努力が成果を出したことを、心から喜んでいるようだった。

 しかし気象学って、そんなことにまで精通してるのか、マリーさんは。


「総統~! 監視者サーヴィランスシステムを起動してみて~!」


 監視者システムって、この前、体育祭で俺を盗撮してたとかなんとか、ローズさんたちが言ってた、あれのことだろうか?


 そう考えた瞬間、スーツ内のモニターに突然、鮮明な映像が表示される。どうやら俺の思考を読み取ったカイザースーツが、気を利かせてくれたようだ。


「……この映像は?」

「それは~、この倉庫街上空、四キロ付近の映像よ~」


 どうやらこれは、今まさにここら辺一体に豪雨を降らせている、積乱雲の真っ只中の映像らしい。マリーさんが操っているカメラを通しての風景のようだが、激しい雷雨の中だというのに、その映像は非常にクリアで、臨場感に溢れている。


「……うん?」

「あ~! 総統も気づいちゃった~?」


 その積乱雲の中央、まさに中心辺りに、なにか、巨大な人工物らしい物体が、確認できた。


 雷雨と暴風雨の中、まるで、その積乱雲の主のように鎮座するその円形の物体は、とんでもなく不自然だ。


「それが~、今回発見した~、雨雲を発生させてる装置ね~」

「雨雲を発生って……、気象兵器かよ……」


 マリーさんは平然としているが、その兵器の規模を考えると、俺はうめくしかない。


 雨を自在に降らせるって、それ、割と歴史的な発明なんじゃないのか?

 農家の皆さんとか、乾燥地帯の皆さんとか、なんだか世界的に色々と、革命が起きそうなレベルである。


 って、うん? この装置が、雨雲を発生させている?

 

「つまり、この装置を破壊すれば、この雨は止まるのか!」

「そういうこと~!」


 俺の思い付きに、マリーさんが太鼓判を押してくれた。


 雨が止まれば、現在この疑次元スペース内で唯一、戦闘人形を形成できる無生物、雨水の供給も止まるということだ。


 その後、残った水分を蒸発させるなり分解するなりすれば、このめんどうくさい消耗戦を、さっさと終わらせることができる。


 そうと分かれば!


 これからやることを決めた俺は、とりあえず、先程からうねうねとウザったい水人形を、魔方陣による爆発で吹き飛ばす。


 ちらりとブルーとイエローの方を確認したが、先程の俺のレーザー攻撃により、そこそこ水人形の数は減っていたので、どうやら、まだ余裕がありそうだ。イエローのつたないい近接戦闘技術でも、なんとかブルーを守り切れている。


 戦況的にも、少し余裕がある。これなら、俺がこの場を離れても、大丈夫そうだ。


「――英知えいち

「ヌハハハ! なにをしようというのかね!」


 俺が上空の積乱雲へと向かおうとしたその時、空から松戸まつど博士が飛んで来た。

 倉庫の屋根が消し飛んでいるので、その姿がよく見える。


「余計な真似は、しないでもらおうか!」


 松戸博士が手を振ると、倉庫の外から、大量の水人形が雪崩れこんできた。

 どうやら、俺たちの動きを封じたいようだ。


「うっわ~、うざ~い!」


 その様子を、同じく上空から見ていたマリーさんが、クレイジーブレイン君の一部をナノマシンサイズで切り離し、辺り一帯の水人形の核へと向かって、飛ばす。


 一見、巨大な物置のようにも見えるクレイジーブレイン君だが、その実態は、ナノマシンサイズな極小メカの集合体であり、マリーさんは常時、その全てを同時に操作している。


 そして、そのナノマシンサイズのクレイジーブレイン君には、あらゆる機械を解析、分解して、自身の一部にしてしまうというトンデモ機能があるのだ。


 つまり厄介な金種の破片も、そうやって取り込んでしまえば特に問題なく処理が可能というわけで……、あれ? これ別に、雨をどうこうしないでも、クレイジーブレイン君の機能だけで、全部終わらせられるんじゃね?


「あら~?」


 だが、話はそう簡単には、いかないようだ。


「ヌハハハ! 無限博士ジーニア! 貴様の兵器への対策なぞ、吾輩の頭脳をもってすれば、朝飯前よ!」


 松戸博士が、得意気に笑っている。


 おそらく、うちとブラックライトニングが戦った時の戦闘データでも取っていて、クレイジーブレイン君への対抗策でも練っていたのだろう。あの組織には、松戸博士直々に、色々と仕込んでたみたいだし。


「ふ~ん……」


 辺りをブンブンと飛び回りながら、高笑いを挙げている松戸博士を見ながら、ジーニアはニヤリと笑って見せると、クレイジーブレイン君によるホバリングを止め、自由落下して、地面へと激突しし、倉庫の床が大きな音を立て、破壊された。


 次の瞬間、クレイジーブレイン君の両脇から、まるで蜘蛛のような、金属製の脚が生え、その巨体を、ゆっくりと持ち上げる。


 そして、その長い脚を大きく薙ぎ払い、周囲の水人形を大量に吹き飛ばす。その瞬間、凶悪な電撃が、水人形に注がれのを確認できた。


 クレイジーブレイン君の脚により吹き飛ばされた水人形は、再生しない。

 どうやら、核になっている金種の破片が、一瞬で完全に、破壊されたようだ。


「対策が~、どうしたって~?」

「ぬぬぬぬぬ!」


 余裕の表情で笑って見せるジーニアに向かって、松戸博士は、心底悔しそうにうなり声を上げている。


 どうやら、やっぱり、俺がこの場を離れても、大丈夫そうだ。


「ジーニア! この場は任せたぞ!」

「はいは~い! お任せあれ~!」


 最高の笑顔を見せてくれるジーニアに、俺は安心すると、上空四キロ地点に向かうための、準備を整えることにする。 



「――英知充填!」



 俺の呼び声に応え、空間を飛び越えて、シュバルカイザーの強化パーツが現れる。


 巨大な蟹のハサミのような、腕パーツ。

 両足には、姿勢制御のためのスラスター。

 スーツ前面に、防御性能を飛躍的に向上させる追加装甲。

 背後には、飛行のための大型ブースター。


 その全てが一瞬で装着される。


「シュバルカイザー・マシーネ!」


 カイザースーツの限界を超えた性能を引き出す、この切り札には、そのリスクとして、制限時間が存在する。


 俺は即座に、マシーネモードの背面ブースターを起動し、脚部スラスターを上手く使用して姿勢を保ちつつ、一瞬で、音速近くまで加速する。


 発進する際の衝撃を、魔術で相殺して、周囲にいるジーニアやマジカルブルーたちへの被害を抑えることも、忘れない。


 俺が、上空四キロ地点、荒れ狂う積乱雲に突入したのは、それから僅か、十数秒後のことだった。


『総統~、様子はどう~?』


 積乱雲に突入した辺りで、監視者システムの映像が、雲の内部から、地上にいるジーニアのいる辺りの光景へと変わった。


 俺自身が積乱雲の真っ只中にいるというのに、映像は非常に鮮明で、音声もクリアだ。なかなか便利だな、この覗き見機能。


「……見つけたぞ!」


 積乱雲の内部で、激しい雷雨と凄まじい風に晒されながらも、マシーネモードの性能ならば、十分な余裕を持って飛行できる。


 目標の発見は、実に簡単だったと言ってしまってもいいだろう。


 積乱雲の中に入ってしまえば、その中心で高速回転している巨大な円盤状のメカは、まさしく一目瞭然だったからだ。


「……喰らえ!」


 俺は即座に、その目標に照準を定めると、マシーネモードの前面装甲に装備された超小型ミサイルを、複数発射する。仕事は早い方がいい。


 ジュースの缶くらいの大きさしかないミサイルだが、威力は十分だ。どれか一つでも直撃すれば、十分、この積乱雲を生み出している円盤を、破壊できるだろう。


 直撃すれば、だけど。


「あぁ! くそ!」


 撃ち出したミサイルは、雷雨にも暴風にも負けず、確実に円盤へと向かっていたのだが、直撃するかと思ったその瞬間、まるで渦に巻き込まれるように、大きく軌道を変えると、虚しく空中で爆発してしまった。


 まるで、あの円盤を守るかのように、あの周辺は、特に強烈な風が吹き荒れているようで、あの超小型ミサイルでは、推進力が足りなかったようだ。


 仕方ない。次はもっと、強力な攻撃で……


 と、俺が次の手に移ろうとした、その時だった。


『なるほど。あそこにある物体を、破壊すればいいんですね』


 監視者システムを通して、マジカルブルーの静かな声が、聞こえてきたのは。


『マジカル! ネイビーコンパウンド!』


 マジカルブルーの叫びに応えて、彼女が手にしていたシンプルな半月型の弓が、滑車とワイヤーが複雑に作用した、近代的な化合物弓のような姿へと変わる様子を、俺はスーツ内のモニターで、ライブ映像として、しっかり見ていた。


 どうやら、俺とジーニアの会話を聞いていたブルーは、なにか上空に、破壊しなければならないものがあるということを、察してくれたらしい。


『ウォータースナイプ! シュート!』


 マジカルブルーが、その凶悪な弓を引き、研ぎ澄まされた殺気と共に、矢を放つ。


「って、マジかよ!」


 超感覚が訴える警告に突き動かされ、俺は慌てて、マジカルブルーの攻撃の射線上から、その身を動かす。


 数瞬後、地上から放たれた極限まで圧縮された水の矢が、恐ろしい速度で俺をかすめ、真っ直ぐに円盤へと向かって行く。どうやら、さっき放った俺のミサイルの光を目印にしたようだが、彼女の狙いは、恐ろしい程に正確だった。



 中心部の暴風をものともせず、水の矢は、まるで吸い込まれるように、あっさりと円盤の中心を射抜く。



 ここまで僅か数秒、直線距離にして、約四キロを超える、見事な、見事すぎる、超長距離射撃だった。



 マジカルブルー必殺の矢を受けた円盤は、あっさりと爆散し、空中に霧散する。その爆風を受けて、雲は飛び散り、風は止み、嵐は収まった。



『ぐぬぬぬぬ! 貴様らよくも、気象きしょう掌握しょうあく超過ちょうかエンジン、超天ちょうてんを!』


 どうやらあの円盤は、松戸博士にとって自慢の一品だったようで、とても分かりやすく激怒している。いい気味だ。


 しかし、空で俺がやることは、もうなくなってしまった。ブースターとスラスターを制御して、俺は地上へと戻るために、舵を切る。




「許さん……! 貴様ら、絶対に許さんぞ!」


 監視者システムを使わなくても、声が聞こえる地点にまで戻った辺りで、怒り狂った松戸博士が、両手を振り上げるのを視認できた。


 次の瞬間、地上に残っていた水人形たちが、蠢くようにのたくり、集まるのも。


「あ、あれは!」


 大量の水と、金種の破片が、一か所に集まる様子を見て、マジカルピンクが驚きの声を上げたのが、確認できた。その隣には、レッドとグリーンもいる。どうやら、正義の味方は、全員無事だったようだ。



「ヌハハハハハハハ!」


 松戸博士の狂気の笑いと共に、この辺りに存在していた水人形が、全て集まり、融合し、一つになる。


 集合した金種の欠片が、互いに作用し、その機能を、最大限に発揮する。


 全長三十メートルくらいだろう。新たに生まれた巨大な水人形が、大きく吼えた。


 どうやら、自分から状況を分かりやすくしてくれたようだ。


 実にありがたい。


 俺は、マシーネモードの機能を使って、新たな強化パーツを呼び寄せる。


「この巨体! この質量! さぁ、蹂躙を開始せよ! 吾輩を怒らせた、愚かなぐ」

「はい、残念」


 松戸博士がなにやらわめいているようだが、それは無視だ。


 俺は、新たに呼び出した強化パーツ……、広範囲こうはんい殲滅せんめつ戦略用せんりゃくようレーザーキャノン砲に両腕を差し込んでドッキングすると、そのまま前進し、半身をめり込ませるようにして、接続を完了。


 即座に引き金を引いて、巨大な水人形の直上から、極太のレーザーを照射した。


 全長三十メートルの巨体を、すっぽりと覆い隠すほどの巨大なレーザーは、雨も止み、すっかり夜のとばりに包まれた倉庫街を、異常なほど明るく照らし出す。


 この前の慰安旅行における、怪獣戦のデータを活用して、ジーニアの主導で、巨大な相手を想定した兵器を、組織を上げて、新たに制作していたのだが、どうやら正解だったようである。


 まさに、備えあれば憂いなし、転ばぬ先の杖というやつだ。


 数秒も照射すれば、水人形の水分もすっかり蒸発、ついでに、集まっていた金種の破片も、全て消滅したのを確認した。


 これにて、一件落着。めでたしめでたし。


 俺は広範囲殲滅戦略用レーザーキャノン砲を外すと共に、マシーネモードを解除、上空からジーニアの近くに、華麗に降り立つ。



 倉庫街をしばらく、身も蓋もない静寂が包み込んだ。



「き、今日のところは、これくらいで勘弁してやろう!」


 しばらく絶句していた松戸博士が、そう叫ぶと同時に、その姿が空中で突然掻き消えた。どうやら、ワープかなにかで、逃げ出したようだ。


 松戸を逃がしてしまったのは残念だが、まぁ、あいつに一泡吹かせることができたので、よしとしよう。


「ジーニア」

「は~い」


 松戸博士も消えたことだし、もうこの場に用はない。

 俺とジーニアもワープ機能を作動させて、本部へと帰還することにする。


「待ちなさい! シュバルカイザー!」


 マジカルピンクが俺たちを制止するが、残念ながら、その要望には応えられない。


 今の俺には、マジカルセイヴァーと戦う理由がないし、それに、マシーネモードの上に、広範囲殲滅戦略用レーザーキャノン砲まで使ったことから、カイザースーツのエネルギー残量の方も、一気に心許なくなってることだし。


「……ふっ、せいぜい自分たちのを、見誤らないようにすることだな」


 なので、俺は適当に意味深なことを、芝居ががった口調で、ささやいてみる。


 ワープで消える瞬間、こちらをじっと見ているマジカルブルー、水月みつきさんの瞳が、なぜか印象的だった。




 無事地下本部に戻って、状況を確認してみれば、特にワールドイーターによる怪しい動きは確認できず、どうやらこちらは、平和そのものだったようだ。


 俺とジーニアは、それぞれ変身を解き、普段の姿に戻って、今回の戦闘の事後処理と報告を終えると、なぜか一緒に、お風呂に入っていた。



「いや~、やっぱり~、雨に打たれた後は、お風呂よね~」

「……そうですね」


 俺はカイザースーツのおかげで、豪雨の中でもまったく濡れなかったし、ジーニアとなっていたマリーさんも、バリアによってその身を完璧に守っていたのだから、雨に打たれるもなにもないと思ったのだが、まぁ、それは特に細かく追求するべき話でもないだろう。


 貸切の女性用大浴場は、なんとも贅沢に、戦闘で疲れた俺の身体を、ゆったりとほぐしてくれる。


統斗すみと様、お背中をおながししますね」

「統斗ー! 後で一緒にサウナ入ろうぜー!」

「はーい」


 俺は、一緒に風呂に入っているけいさんと千尋ちひろさん、どちらともなく返事を返す。


 実に幸せな時間だ。

 自分の心が、リフレッシュしていくのを実感できる。


 そういえば、あの憂鬱な雨の原因も破壊されたことだし、これから天気も回復していくだろうから、文化祭の日は、晴れるといいな……。


 文化祭本番まで、もう、あと少しまで迫っているのだから。


「統斗様のお背中、大きくて逞しいです……」

「かなり筋肉ついてきたよなー! いやー、良い手触りだ!」

「ずる~い! ワタシも統斗ちゃんをなでなでする~!」


 とりあえず俺は、迫りくる、人生初の、客前に出ての演劇という強敵と戦うために、今はなにも考えず、とっぷりと英気を養うのだった。


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