6-11
「……こうして見ると、やっぱりデカいな」
いや、デカいなんて言葉じゃ、まだ足りない。
間近で見た怪獣は、まるで小島がそのまま動いているような、大迫力だ。
コテージを飛び出した俺たちは、戦うための姿に、その身を変えた。
マリーさんは、自らが生み出した英知の塊を装備した、無限博士ジーニアに。
そして俺は、俺専用のカイザースーツに身を包み、悪の総統シュバルカイザーに。
それぞれ変身を終えた俺たちは、それぞれの方法で、海上の目的地へと急いだ。
デモニカは、
ジーニアも、背部のクレイジーブレイン君の蜘蛛のような足が引っこみ、代わりに出てきたロケットのようなパーツで空中を飛行している。
レオリアは、身体に
そして俺は、空中に足場となる魔方陣を断続的に作り出し、その上を飛び移りながら目的地へと向かう。
各々が各々の方法で急いだ結果、俺たちは海岸からかなり遠く離れた場穂で、怪獣と接敵することに成功したのだが……。
「……これ、一体どうすればいいんだ?」
大きいのは分かっていたが、モニターで見るのと、こうして直に確認するのとでは、その印象はケタ違いだ。
あんなにも巨大な物体が、生きて、動いているという事実そのものが恐ろしい。
背筋に震えがくるような、生物として根源的な恐怖を感じる。
「確かにデカいけど、見てるだけってわけにもいかないぜ!」
海上を走り回り、怪獣と一定の距離を保っていたレオリアが声を上げ、俺を鼓舞してくれる。
確かに、こうしている間にも、怪獣は真っ直ぐ陸上を目指し続けている。
大きさにビビって見てるだけじゃ、ここまで来た意味もない……、か。
「よし! 始めるぞ!」
俺の号令に、悪の組織ヴァイスインペリアルの最高戦力が即座に応える。
「はっ!」
デモニカが空を飛びながら、空中に大量の魔方陣を展開して、それぞれから大砲のような魔弾を打ち出す。
高威力の魔素の塊が、凄まじい速度で怪獣の表皮を、背中の甲羅を突き破る。
しかし、幾ら大量に魔方陣を展開しても、それで同時に攻撃できるのは、大きすぎる怪獣の極一部だけだ。致命傷には、程遠い。
「喰らえ!」
レオリアが海上を駆けながら、怪獣が水面から伸ばしてるタコのような、クラゲのような巨大な触手を、命気を込めた拳や足で直接攻撃する。
凄まじい破壊力の拳が、蹴りが、まるで大樹のように太い、
だが、千切れた触手はすぐさま再生し、より太く、より強くなって、激しく暴れ出した。どうやらあの怪獣は、規格外の回復力も持っているらしい。
「攻撃開始~!」
ジーニアが高速で空を飛行しながら、クレイジーブレイン君から伸ばした砲門でレーザー光線を照射する。
極限まで収束された光の束が、無慈悲な殺傷力を発揮し、怪獣の四肢を切り裂く。
ところが、幾らレーザーを照射しても、怪獣が巨大すぎるあまりに、レーザーの威力が減衰してしまい、完全に貫くことができない。
「くそ!」
その様子を見ていた俺は、攻撃する場所を急所に絞る。
爆発するように仕込んだ魔方陣を怪獣の頭部に展開すると同時に、足場にしていた魔方陣を蹴り出し、俺は怪獣に向かって、蹴りの体勢で突撃した。
そして、俺が怪獣に激突する寸前、仕込んでおいた爆発性の魔方陣を起動し、怪獣の頭部に傷を付ける。
怪獣がその回復力を発揮する前に、その傷に向けて、命気を込め、カイザースーツの性能を最大限に活かした、渾身の蹴りを打ち付ける!
「どうだ!」
俺の足が、怪獣の頭部の傷にめり込み、そのまま突き進む感触は、確かにあった。
「うわっ!」
だが、俺の蹴りが頭部を突き破る前に、直進を続ける怪獣の勢いと、怪獣の内部の異常な強固さに、俺は弾き飛ばされてしまう。
俺は慌てて、空中に再び足場の魔方陣を展開すると、体勢を立て直した。
「マジかよ……」
俺たちの猛攻を受けた後も、いや受けている間も、巨大な怪獣は、まるで何事もなかったかのように、悠然と直進を続けている。
俺たちの攻撃は、足止めにもならなかったのだ。
「質量って~、パワーよね~」
今度は怪獣に対して、クレイジーブレイン君から撃ち出したミサイルなどで攻撃しながら、空を飛んでいるジーニアが呟く。
「攻撃を止めると、その瞬間に回復されてしまいますね。致命的なダメージは望めなくても、継続的に攻撃を続ける必要がありそうです」
デモニカが、冷静に魔方陣で攻撃を続けながら、状況を確認する。
「図体がデカいから、攻撃は当てやすいけど、逆に手応えがないなー。全然効いてる気がしないって感じ?」
レオリアが怪獣の背中にを駆け回り、やたらめったらに破壊を繰り返しながら愚痴っている。
どうやら三人とも、まだまだ余裕があるようだ。
ここは、総統である俺が弱音を吐く訳にはいかない。
「――
今の俺では、火力が足りない。
俺はカイザースーツを魔素で満たし、デモニカのおかげで手に入れた、超大な魔術の力を行使する。
俺の声に応えて、カイザースーツが姿を変えた。
スーツの全身を金字の魔術文字が覆い、スーツの節々に、魔素によって生成された宝玉が組み込まれ、スーツ頭部に生えている二本の角が、まさしく悪魔のように雄々しく伸び、背中のマントの上には、金色の光輪が三つ、まるで後光のように輝く。
「シュバルカイザー・マギア!」
スーツのモニターの端に、制限時間が表示される。
残り時間は
「レオリア!」
「分かった!」
俺の声を聴いただけで、一瞬で俺の考えを察してくれたレオリアが、大きくジャンプして怪獣から離れる。
「こいつでどうだ!」
俺はレオリアが離れた瞬間、空中に最大規模で展開した魔方陣から、極大の雷を怪獣に向かって解き放つ。
海中に浮かんでいる怪獣相手ならば、電気が拡散し、かなり広範囲に効果があるはずと踏んだのだが……。
「くそ! 少しは動きくらい止めろよ!」
雷は直撃し、怪獣の背面は、かなりの広範囲に渡って、裂けたり焦げたりしたのだが、対象は依然、直進を止めたりはしない。
海面に着地したレオリアは、即座に再び怪獣の背中に戻り、俺が与えた破壊痕を更に殴り、蹴り、
他の二人も、それぞれ攻撃を続けている。俺も手を止めるわけにはいかない。
怪獣の身体中から伸びている無数の巨大な触手が、自分を攻撃している俺たちに、まるで虫を払い落とすかのように振るわれる。
「ふっ!」
俺は、背中の三つの光輪のうち、二つをチャクラムのように飛ばし、怪獣の触手を切断しつつ、残り一つの光輪を使い、魔素を揚力と推進力にすることで、空を飛びながら奴の頭上を目指す。
移動しながらも、大量の魔方陣を展開し続け、魔弾による攻撃を繰り返すことで、相手の回復を阻害する。
「今度こそ!」
怪獣の頭上に辿り着いた俺の背中に、飛ばしていた二つの光輪が戻る。
揃った三つの光輪全てから、魔素をジェットエンジンのように吐き出し、それを最大の推進力として、加速する。
スーツの各部に生成した、魔素の塊である宝玉の力を解放し、自らの身に纏うと、俺自身が、魔素の砲弾になったかのようだ。
俺は加速に加速を重ね、怪獣の頭上から真っ直ぐに、今度は俺自身が雷になったかのように、奴の頭を貫く!
「――っ!」
攻撃は、成功した。
俺は見事に、怪獣の頭部を貫いた。
だが、手応えが、まるでない。
最初にこの頭部に攻撃した時に、俺を弾き返した異常な強固さを感じなかった。
俺はまるで素通りするかのようなスムーズさで、怪獣の頭を貫き、そのままの勢いで、海中へとダイブしてしまう。
「んなっ!」
ありったけに加速した勢いそのままに、俺は一気に海の底にまで沈んでしまう。
カイザースーツのおかげで、水圧も気圧も問題ではないが、この状況は、単純にまずい。動きが制限されてしまう海中では、制限時間の無駄遣いだ。
俺は慌ててマギアモードを解除すると、通常のカイザースーツへと戻る。
海中から確認したが、やはりあの怪獣は、巨大だ。
正直、気力がかなり萎えそうだったが、諦めるわけにはいかない。
どうやら海中にも、魔素は十分に存在しているようだ。
俺は浮上するための魔方陣を展開し、急いで海面へと向かう。
「あぁ、くそ!」
海から浮上し、再び空中に魔方陣で足場を作って、先程の自分の攻撃が与えたダメージを確認するが、やはりもうすでに、頭部が殆ど回復してしまっている。
「一体なんだったんだ?」
俺は、自らの超感覚を研ぎ澄ませ、更にスーツの機能をフルに発揮して、怪獣の内部を探る。
頭部が突然柔らかくなったというか、妙に硬かった部分が、突然無くなったかのような感触に、俺は違和感を覚えていた。
「……ん?」
俺の超感覚が、怪獣の内側を移動する違和感を捉え、それに追従するように、カイザースーツが確実に、そのなにかを補足した
というか、本当になんなんだ、アレ?
「総統~、大丈夫~?」
怪獣への攻撃は続けたまま、ジーニアがこちらに近づいてきた。
丁度いい、俺が見つけたアレについて、彼女の意見を聞こう。
「ジーニア! なんかあの怪獣の中を移動してる、直径二メートルくらいくらいある球状の物体を見付けたんだけど、なんだか分かるか?」
俺はジーニアに言葉で伝えると同時に、カイザースーツの機能を使って、今も続けてトレースしている情報を、彼女に転送する。
ジーニアは、その眼鏡に映し出された情報を読み取ると、瞬時に導き出された推論を伝えてくれる。
「おそらくだけど~、あの怪獣の制御ユニットだと推察するわ~。怪獣は獣がベースだから~、製作者の思惑通りに動かすつもりなら~、なんらかの制御装置が必要になるのよ~」
「制御装置ってことは、それを壊せば……!」
そうか、あの怪獣は見た目は生物でも、もはやその中身は、改造に改造を重ねた、超兵器なのだ。
「そうね~、あれだけの巨体になるまで改造してるってことは~、この制御ユニットも、ただの行動命令プログラムじゃなくて~、あの怪獣の生命活動そのものを制御してる可能性も高いわね~」
つまり、この制御ユニットとやらを破壊できれば、あの怪獣を倒せるかもしれないってことか!
「でも~、今はこの制御ユニット、あの巨大な身体の、奥深くに隠れちゃってる上に~、内部をかなりのスピードで動き回ってるから~、ピンポイントで狙うのは、ちょっと難しいかも~」
そう、問題は、なんとか見つけた敵の弱点が、今は手が出せない位置にある、ということだ。
「それにしても~、あんな巨大な怪獣の内部から~、よくこの大きさの、移動してるユニットを見つけられたわね~。総統すご~い!」
「いや、それはただの偶然……」
手放しで褒めてくれるジーニアに、思わず謙遜しそうになる。
だがその瞬間、俺の脳裏に、ある疑問が浮かんだ。
ただの偶然? 本当に?
あの時、俺が怪獣の頭を攻撃したのは、他の部位にデモニカたちが攻撃しても、効果が薄かったのを見たからだ。
つまり、あの時怪獣は、頭部以外を、すでに攻撃された状態だったわけだ。
あの制御ユニットは、攻撃された箇所から逃げるように動き、頭部に移動したんじゃないのか?
その後、俺の一撃がヒットしたことで、まだ攻撃を受けていない、より安全な怪獣の内部、奥深くへと移動したのではないか?
確かに俺の攻撃は、偶然頭の方に移動してきた制御ユニットに、偶々当たっただけなのかもしれない。
だけど、制御ユニットが頭部に移動してきたことには、ちゃんと理由があるんじゃないか?
確証は、なにもない。
ただの、俺の思い込みかもしれない。
だけど俺の超感覚が、それが正しいと、それが正解だと告げていた。
俺は、この感覚を信じる。
「ありがとう、ジーニア!」
「えっ、あっ、うん~、どういたしまして~?」
俺はジーニアに礼を言うと、急いで魔方陣の足場を飛び移り、デモニカの
「デモニカ!」
「総統! どうされましたか?」
様々な効果の魔方陣を展開して、怪獣への攻撃を続行しているデモニカに、俺はあるお願いを……、いや、命令を下す。
「デモニカ、攻撃は一時中断。海中の魔素に干渉して、海流を操り、渦を作って、あの怪獣の動きを止めてくれ」
「渦……、ですか? しかし、相手があれほど巨大ですと、動きを止めていられる時間は、それほど長くありませんよ?」
「大丈夫だ。動きを止めてくれたら、それでかたをつけられる」
俺の考えを実行するには、まず怪獣の動きを止めないとならない。
じゃないと、正確に状況をコントロールできないのだ。
「頼んだぞ! デモニカ!」
「――了解しました!」
俺の命を受け、デモニカが自らが契約した悪魔……、淫魔のリリーから、その力を引き出す。
デモニカの身体の内側から、青い炎が溢れ出し、その身を包み込む。
まるで炎の繭に包まれたようになったデモニカの、周辺の空間に亀裂が走り、そこから黒く、捻じ曲がった手足と、赤い瞳の頭部が生えた。
悪魔元帥デモニカが、その契約を交わした悪魔の力で、人智を超えた大規模魔方陣を、一瞬で広域展開する。
「……ッ!」
青白い炎を纏った黒い悪魔が、その腕を振るうと、小島ほどもある巨大な怪獣を、すっぽり包み込むように魔方陣が展開され、即座に、その効果が発揮される。
「よし!」
海流が渦を巻き、怪獣の動きを絡めとったことを確認した瞬間、俺は叫ぶ。
「――
俺の声に応じて、カイザースーツが自らの強化パーツを、空間を切り裂いて、呼び出した。両腕に巨大なハサミが装着され、両足には姿勢制御のためのスラスターと化し、前面に分厚い装甲を追加し、背面には巨大なブースーターが複数装備される。
「シュバルカイザー・マシーネ!」
スーツに表示された残り時間は、三分。
先程使用したマギアモードの反動が、まだ完全には収まってないようだ。
とは言っても、こうして殆ど間を開けずに、次のモードが使えるだけでも、十分以上にありがたいんだけど。
「ジーニア! 今デモニカに、あいつの動きを止めてもらった! ジーニアはデモニカの分まで、対象の表層を攻撃してくれ!」
俺は通信を使ってレオリアに指示を出しながら、マシーネモードの飛行能力を最大限活用して、高速で飛び回りつつ、搭載されているあらゆる兵器を使用し、最大火力で攻撃を行う。
「――了解~!」
俺の指示を受けて、ジーニアも全力を出す。
彼女の周囲の空間が大きく切り裂かれたかと思うと、ジーニアが操る機械のパーツが、更に溢れ出てきた。新たに出現したパーツがジーニアの元に集い、結合し、組み合わされ、彼女の新たな力となる。
まるで機械の十字架に
「行っくわよ~!」
彼女の気の抜けた声からは想像もできない、まさしく辺り一面を焼き払うような苛烈な攻撃が、怪獣を襲う。
「ジーニア! これも使ってくれ! それと、こいつの頭は、狙わなくていい!」
俺はジーニアの様子を確認すると、マシーネモードとしてカイザースーツに装備されていたパーツを全て、彼女に向けて射出する。
「分かったわ~!」
俺が送った強化パーツが、ジーニアが操るナノマシンにより分解、再構成され、彼女の一部となったことを確認すると、俺はマシーネモードを解除する。
マシーネモードのパーツを取り込んだジーニアが、更に火力を上げて、怪獣に攻撃を続ける。
「よっと!」
再びノーマルのカイザースーツに戻った俺は、魔方陣の足場を使い、怪獣の背中へと飛び移る。
「よう総統! オレはどうすればいいんだ?」
怪獣の背中は、今やジーニアの凄まじい攻撃により、地獄のような有様だったが、そんな中でもレオリアは、涼しい顔で俺に指示を仰いだ。
「レオリア! 昨日の、山の一部を吹き飛ばしたっていうのは、本当なのか?」
「オレはイマイチ覚えてないんだけど、まぁ、あれくらいなら朝飯前だぜ!」
レオリアは、俺に笑いながら答えてくれる。
それだけで、俺は自分の考えに、自信が持てた。
「よし! それなら、俺が合図したら、最高にキツい一発を、こいつの背中に、思い切り叩き込んでくれ!」
「――了解!」
俺の指令を聞き、レオリアが迅速に準備を行う。
レオリアの全身に、その無尽蔵にも思える命気が漲り、彼女の全身を覆っている獣毛が逆立つ。溢れ出んばかりの命気が眩く輝き、収まった時には、レオリアの全身の獣毛が、純白に染まる。
全力を出したレオリアが、恐ろしいほどの殺気をその拳に込めて、静かに俺の合図を待つ。
「オレの方は、いつでもいいぜ!」
「任せたぞ! レオリア!」
俺はレオリアをその場に残し、最後の締めへと向かう。
「――
俺の声に、俺の命気に、カイザースーツが反応し、その姿を変える。
スーツのヘルメット部分が、まるで獣のような形状に変化し、全身に虎を思わせる金色の縞模様が浮かぶ。背部が獣のように盛り上がり、マントを吹き飛ばす。
最期に両手足に生えた、凶悪な形をした巨大な爪を打ち鳴らし、俺は吼える。
「シュバルカイザー・ベスティエ!」
制限時間は、すでに一分を切っている。
マシーネモードを強制解除してから、まだ時間が経っていない上に、無理な連続使用を行ったのだ。むしろ、制限時間がまだ残っている分だけ、幸運だと思えた。
「シッ!」
どちらにしても、時間が無い。
俺は全身の命気を高め、一気に加速すると、この獣の爪を使って、縦横無尽に周囲を切り裂く。
目標は、ジーニアの攻撃を受けながらもまだ残っている、怪物の触手や手足だ。
「――よし!」
ベスティエモードと命気の力により、今の俺は、人外の速度で動くことができる。
僅かにだが制限時間を残し、俺は、全ての触手を切り裂くことに成功した。
同時に、ジーニアのおかげで、怪物の背中はもはやボロボロの酷い有様だ。
「今だ! レオリア!」
俺の叫びに、レオリアが呼応する。
「よっしゃー! ――どっせーい!」
全力のレオリアの、渾身の一撃が、怪獣の巨大な背中に撃ち込まれる。
怪獣は今、デモニカの魔術によって作られた渦によって身動きが取れない。
レオリアの山をも削り飛ばす一撃が与える衝撃を、上手く受け流すことができず、その破滅的な破壊力は、怪物の内部で荒れ狂う。
「――ここだ!」
表層は、ジーニアによってズタボロにされた。
内部は、レオリアの一撃によって強烈なダメージが受けた。
デモニカによって身動きはできない。俺の攻撃で、触手は全て失っている。
破壊された部位の再生までには、まだ時間がかかる、
そうなれば、怪獣内部にある動き回る制御ユニットが、逃げ込む先は一つだ。
俺は怪獣の背中を踏み台に、空中へと飛び上がると、あらかじめ展開しておいた魔方陣の足場を使い、怪獣に向けて、弾丸のように突撃する。
「うおおおおおおおおおおおお!」
俺は気力を振り絞り、必殺の気合を込めて、怪獣の、これまで意図的に攻撃することを避けたために、すっかり回復している頭部へと、最期の一撃を与える。
「よし!」
今度こそ、捉えた!
俺の足に、最初に攻撃した時に感じた、あの異様に強固な感触が再び蘇る。
最初は、向こうもこちらへと向かって移動していた上に、俺も無策でそれに正面からぶつかってしまったために、弾かれた。
だが今度は、デモニカによって怪獣の動きは抑えられている上に、俺はベスティエモードと命気によって、最大限の加速と、最大限の硬度を持って、最大限の威力で相手にぶつかっている。
これなら!
「――っ!」
果たして、俺の目論見は成功した。
俺の一撃は、確かに怪獣の制御ユニットを打ち砕き、その勢いのまま、俺はこの巨大な怪物の身体を引き裂いて進む。
「
「統斗ちゃん、すご~い!」
「やったぜ、統斗!」
カイザースーツが、海上のみんなの声を拾い。俺に届けてくれる。
みんなは、今の俺が悪の総統シュバルカイザーと名乗らねばならないことも忘れたように、手放しで、心から喜んでくれている。
俺は、彼女たちのその声を聴いた時、その笑顔を見た瞬間、なにかが分かったような気がした。大切ななにかに、気が付けたような気がした。
「みんな……」
しかし、俺の言葉を向こうへ届けることは、できない。
どうやら、もう間に合わないようだ。
既に崩れ始めた怪獣の身体を突き抜けたその瞬間、モニターの隅で、ベスティエモードの制限時間が、ゼロへと変わる。
次の瞬間、カイザースーツが強制解除され、俺の全身を、とんでもない疲労感が襲い、一瞬で俺の意識を刈取ろうと、猛威を振るう。
俺は、無残にも自壊していく怪獣の残骸に巻き込まれながら、生身で、この荒れ狂う海中に、投げ出されるのだった……。
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