4-2


「ってことで! 命気プラーナの特訓だぜ!」

「押忍!」


 ここはインペリアルジャパン本社ビル内の本社警備部、と言う名の、道場である。近代的なオフィスビルに似つかわしくない、畳敷きの道場の片隅で、今日も申し訳程度のデスクとパソコンが、なんとも所在しょざいなさげに佇んでいた。


 そんな道場の中央で、ペラペラの安物ジャージいう大変ラフな格好で特訓の開始を宣言した、部下であるはずの千尋ちひろさんに対して、思わずその弟子のように返事をしてしまう俺である。




 工場襲撃犯の撃退……、というか、破壊王獣レオリアがマジカルセイヴァーを一瞬で一蹴してしまった事件は、つい昨日の出来事だ。


 一応、マジカルセイヴァーの面々は、本日全員学校に来ているのを確認しているので、どうやらみんな大きな怪我もなく、無事らしい。


 全員かなり暗い顔をしていたが、なにも知らないフリをしている俺には、彼女たちを慰めるような言葉もかけられず、かなり困った思いをしたりもした。


 それはともかく、俺は本日からしばらくの間、悪の組織ヴァイスインペリアル最高幹部の一人、破壊はかい王獣おうじゅうレオリアこと、巨大複合企業インペリアルジャパン本社警備主任、獅子ケ谷ししがや千尋ちひろさんの手ほどきを受けて、集中的に命素の特訓を受けることになっている。


 千尋さんがしばらく本部に居なかったために、命素については、魔術と比べてもかなり遅れてしまっている。その分を一気に取り戻すため、ということのようだ。




「いやー、ちょっと急な用事ができちゃってさー。オレのせいで統斗すみとの特訓が遅れちゃって、悪いと思ってるんだよ!」


 そう言うと千尋さんは、自身の後ろに置いてあったカバンから、ゴソゴソと何かを取り出した。


「ってことで、はいこれ! お詫びってわけじゃないけど、お土産ってことで!」

「えっ、いいんですか?」


 千尋さんが差し出した、なにやら長方形の茶色い紙袋を受け取った俺に、彼女は、とても良い笑顔を見せてくれた。


「もちろんだって! 早速、開けて見てくれよ! いやー! どうしても統斗の喜ぶ顔が見たくてさー!」

「すいません……、なんだか気を使わせちゃったみたいで」


 ニコニコしている千尋さんを見ているだけで、なんだか、こちらまで嬉しくなってしまう。俺は遠慮なく、そのお土産を開けてみることにした。


 一体なんだろう? 結構重いな……。

 俺は、若干ワクワクしつつ、袋からその中身を取り出した。


「ぶはっ!」


 そして、思い切り噴き出した。


 袋の中から出てきたのは、あられもない姿の女性が表紙を飾っている淫らな雑誌……、ぶっちゃけ、エロ本が入っていた。しかも複数冊。


「どうかな? 一生懸命、統斗のこと考えながら選んだんだけど」

「一体なに考えてるんですか……」


 千尋さんが、このエロ本の山を買っている場面を想像してしまい、思わず頭が痛くなってきた。きっと今みたいに、ニコニコ笑いながら買ったんだろうなぁ……。


「だって、統斗くらいの年した男の子って、そういうの絶対好きだろ? いやー、オレってば、男がどういうプレゼントで喜ぶとか、あんまり分からないからさー!」


 そりゃまぁ、エロ本に興味がない男子高校生というのは、もう相当にレアな存在だとは、思うけども。


 思うけども、だからといって臆面おくめんもなく、他人へのプレゼントとしてエロ本を用意するって、破壊王獣レオリアこと獅子ケ谷千尋さん……、この人も、まったく、よく分からない人である。


「それじゃ、これに着替えてくれよ!」


 プレゼントを渡し終えて、なにやら満足気な千尋さんが、再び背後のカバンから取り出したのは、彼女が今着ているものとは、色違いのジャージだった。


 俺はまだ、学校の制服姿のままなので、これから身体を動かす特訓をするとなると、確かにジャージなど、動きやすい服装に着替えた方が良いだろう。


 俺は素直に、千尋さんからそのジャージを受け取った。

 さて、そいうわけで、これから俺は、着替えないといけないわけなのだが……。


「……あの、更衣室はどこですか?」

「えー? ここで着替えればいいじゃん!」


 千尋さんが、なかなか厳しい無茶ブリをしてきた。


「いや、流石に恥ずかしいんですが……」

「大丈夫だって! オレしか見てないから!」


 いや、だから、それが恥ずかしいんですが。


「着替えてくれないと、オレが無理矢理着替えさせちゃうぞ!」


 次の瞬間、千尋さんはあっという間に、俺に抱きついて、強引に制服を脱がせようとしてきた。


 千尋さんの柔らかい部分が、過度に密着することでドキドキすると同時に、俺はまるで肉食獣に捕獲されたような原始的な恐怖を感じていた。


 まずい。喰われる。別の意味で、ドキドキする。


「分かった! 分かりましたよ!」


 俺は本能からの警告に素直に従い、千尋さんの無茶苦茶な提案を飲むことにした。


 この場での生物的な強者は、間違いなく、疑いようもなく、千尋さんなのだ。

 俺は、身の程をわきまえた男なのだった。


「ひゃっほう! 統斗の生着替えだー!」


 小躍りして喜ぶ千尋さんの目の前で、俺は泣く泣く、着替えをするハメになったのだった。




 妙にギラギラとした千尋さんの視線にさらされながら、俺はジャージに着替え終えたのだが、正直、恥ずかしいというより、なんだか恐ろしかった……。


「き、着替えました……」

「よし! それじゃ次は、ストレッチだな!」


 妙にテンションが上がっている千尋さんが、再び俺に抱きついてきた。


 いや、確かに準備運動は大切だと思うんだけど、ストレッチって、こういうものだっけ?


「ほらほら! おいっち、にー、さんしー! にー、にー、さんしー!」


 一瞬で俺の背後に回った千尋さんは、俺の身体に自分の身体を密着させると、そのままストレッチ運動を開始した。


 背面に感じる千尋さんの、鍛え抜かれながらも柔らかい、その見事な肉体の誇る、素晴らしすぎる弾力を存分に感じてしまい、思わず身体が熱くなってしまう。


「命気ってさー、身体の中心……、っていうか、へそだな、へそ! そこら辺から、こう、ぐわー! っと吹き出してくる感じなんだよ」


 千尋さんがプニプニと、俺の背中に色々と押し付けつつ、俺のへそ辺りを撫で回しながら、命気の説明を始めてくれた。まぁ、全然要領を得ないというか、ひどく漠然ばくぜんとした説明なんだけども。


「オレには、よく分かんないんだけど、けいとかマリーの話を聞くと、命気も魔素エーテルと大体同じ感じだと思うんだよなー。あっちは、使うのに色々面倒なこと多いけど、命気の方は、自分で出してるものだから、なんというか、本人の、やってやるぜ! って気持ち一つで、簡単に頑張れるというか、融通が効くというか……、まぁ、魔素と比べると、やれることも、単純になるみたいなんだけど」


 どうやら、命気は魔素よりも簡単に扱える代わりに、用途の幅は、魔素より格段にシンプルになってしまう、ということらしい。


 しかし、複雑な手法を使って魔素を操ることで、ようやくその効果が起動する魔術に比べると、命気の方は、使えさえすれば、後は自分の感覚だけで自在に使えるようなので、その点は大きなアドバンテージに思える。


 なんてことを、俺は千尋さんに全身まさぐられながら、なんとか考えていた。


 正直、身体中で感じている女性特有の柔らかさから気を逸らすために、必死で色々考えてるだけだというのが、正解だけど。


「命気を使う上で、大切なのは、いかに自分の超感覚を上手に扱えるかだなー。命気で幾ら身体能力を強化しても、超感覚の方を、ちゃんと使えないと、宝の持ち腐れになっちゃうし」


 俺の耳元をくすぐるように、千尋さんが呟いた。


 超感覚。

 第六感をも超えた、原初の本能。脳で考える前に、心で答えを知る力。


 確かに、この人智を超えた能力を駆使しなければ、人智を超えた動きなんて、まず不可能だろう。


「後はー……、基本だけど、体力と根性だな! 命気で強化するにしても、やっぱり元が強い方が、効果が大きいし、根性されあれば、どんなピンチでも、心の奥底から命気が沸いて出てくるし!」


 確かに……、というか、そもそも命気での強化とか関係無しに、今の俺は、身体を鍛えておいた方が良いだろう。一応、悪の総統なんてやってるわけだし。


 そして、命気が自分の魂から湧き上がる力である以上、根性があった方が良いというのは、ただの単純な根性論というわけでもない……、か。


 俺は、千尋さんの魅惑的な胸の感触を、背中で存分に味わいながら、これから、もっと頑張ろうと、決意を新たにするのだった。


「よし! ストレッチ、おしまい!」


 最期にもう一度、思い切り俺の事を抱きしめると、千尋さんは、ようやく俺から離れてしまった。


「いやーしかし、ストレッチだけでも、結構身体って熱くなるもんだよなー」


 確かに、俺の身体も熱くなっていた。


 いや、千尋さんにずっと密着されていたから、というわけではなく、身体の芯の方から、なんだかポカポカと温まるような感じがする。


 俺がストレッチの効果に、軽く感動していた、その時だった。


「いやー、熱い熱い」


 なんて言いながら、千尋さんは、その安っぽいジャージの前を、あっさりと開けてしまう。


「ぶはっ!」


 俺は、再び千尋さんのせいで、思い切り噴き出してしまった。


 千尋さんのジャージの下は、シャツなどではなく、直に下着だったからである。


 いわゆるスポーツブラというやつなのだが、少しサイズが小さいのか、千尋さんの大き目のバストのラインが、くっきりと出てしまっている。微妙に汗に濡れたスポーツブラが貼り付いた、魅力的な膨らみから、俺は視線が外せない。


 なんというか、素晴らしいエロスである。


「おっ! なんだー、オレの胸が気になるのか? それならそうと言ってくれよー」


 俺の不躾ぶしつけな視線に気が付いてしまった千尋さんは、豪快に笑いながら、その黒いスポーツブラを下からめくり上げるようにして、あっさりと脱ごうとしてしまう。


 下乳が、見えた。


「って、ちょっと待った!」

「なんで?」


 思わず上げてしまった俺の声に、一応反応してくれた千尋さんが、その動きを止めてくれた。なんとか大事な部分は出ていない、というギリギリのところで腕を止めたまま、とっても不思議そうな顔をして、こちらを見ている。


「なんで? はこっちの台詞ですよ! なぜここで、胸を出すような流れに?」

「統斗が見たいかなー、と思って」


 いや、見たいか見たくないかで言えば、確実に見たいんですけどね?

 俺だって、健全な男の子ですからね? 

 魅力的な女性の身体に、興味ないわけがないんですけどね?


「い、今はいいです……」

「そっか。それじゃ見たくなったら、いつでも言ってくれよな!」


 千尋さんは、眩しい笑顔を俺に見せると、ようやくブラを元に戻してくれる。


 だが、ジャージの前は豪快に開けたままなので、刺激的な光景であることには、なにも変わりがなかった。




「それじゃ、始めるぞー!」


 道場の中央で、ある程度の距離を保って向かい合うと、千尋さんが、特訓の開始を宣言した。


 準備運動も終わり、いよいよ命気の特訓も本番、となるのだが……。


「始めるって、なにをどうすればいいんですか?」

「とりあえず組手、っていうか、オレに、好きに攻撃してくれればいいよー」

「好きに攻撃って……、その、型を教えてもらう、とかはしないんですか?」


 俺の中の格闘技のイメージと言えば、まず型の稽古を行う、みたいな感じだった。 習った型を通じて、その武道の動きの基礎学ぶというか、なんというか……、そういう、ぼんやりとしたイメージだけど。


「あぁー、型ねー。……別に、そういうのが悪いって言いたいわけじゃないし、その重要性も分るんだけどさ、オレたちの戦い方だと、ちょっと意味が無くて、オレは、そういうの、全然知らないんだよね」


 千尋さんは、少しだけ困った顔をしながら、可愛らしくその頬をかいている。


「意味がない?」

「オレたちの一族の戦い方である、獣身じゅうしん闘法とうほうは、超感覚に従って戦うのが、基本なんだよ。各々が持つ、自分だけの超感覚を頼りに、自分ができる最高の動きをする。だから、誰かに教えられて身体の動かし方を覚えるよりも、自分で自分の動かし方を見つけた方が、良いんだよ」


 つまり、命気を使っての戦闘方法は、誰かに教わるようなものではなく、自分の力で見つけるしかない、ってことか。


「ってことで! とりあえず、どーんとオレにぶつかって来い! 実戦こそ、一番の近道だぜ!」


 まぁ、そういうことなら、素直に千尋さんの言葉に従うことにしよう。

 そもそも俺は、彼女に教えを乞うている立場なわけだし。


 俺は集中して、自らの超感覚を研ぎ澄ませる。

 目の前の相手を、ただ打ち倒すための答えを得るために。


 深く深く、どこまでも深く集中して、超感覚を……、超感覚を……。

 

 超感覚を…………。


「……なんか、全然勝てるビジョンが思い浮かばないというか、俺の超感覚が、全力で逃げろ! と叫んでいるんですが」


 超感覚を通して認識した千尋さんは、まさしく怪物だった。


 怪物というか、化物というか、絶対に乗り越えられない壁というか、あらがえない絶望というか、まぁ、なんというか、そんな感じだった。


 確かに、千尋さんの身体は見事に鍛え抜かれた、素晴らしい肉体だ。しかし、その見た目以上のプレッシャーを、俺の超感覚は、鋭敏に感じとってしまっている。


 正直、恐ろしい。


「あぁー……、じゃあ、ルールを変えようか?」

「ルール?」


 完全にビビってしまった俺を見て、千尋さんがある提案をしてくれた。


「うん。単純な殴り合いじゃなくて、ゲームってことにして、統斗の超感覚の緊張を解こう」


 つまり、これは勝負ではなくゲームなので、もしかしたら、なんとかなるかもしれないし、別に死ぬようなことにもならないから、頑張ろぜ、俺! やってやろうぜ、俺! と自分に言い聞かせろ、というわけだ。


 正直、ありがたい。


「じゃあ、これから十分じゅっぷん間、オレからは手を出さないから、その間に一度でも、統斗がオレに触れたら、そっちの勝ち、触れられなかったら、負けってことで」

「了解です」


 鬼ごっことか、ドロケイみたいな、まるで子供の遊びみたいなルールだが、これくらいの方が、自分を納得させやすいと思った俺は、一も二も無く同意する。


「それじゃ、勝った方が負けた方に、一つだけなんでも命令できる、ってことで!」

「って、なんですか、それ!」

「大丈夫、大丈夫! そんなに無茶な命令はしないから! はい! それじゃ、スタート!」


 迂闊うかつに同意してしまった俺に、千尋さんがかなり危険なルールを追加してしまったが、俺が拒否する前に、突然ゲームは始まってしまった。


 俺の超感覚は、一応これがゲームであると納得してくれたのか、これから一体、どう動けば良いのか、その答えが魂の奥底から湧き上がってくるような手応えが、確かにあった。


 こうなったら、やるしかない!


「あぁもう! それじゃ、行きますよ!」

「はいはーい」


 呑気に返事をする千尋さんに向かい、俺は不意打ち気味でタックルを仕掛ける。

 しかし、それはあっさりと見切られ、千尋さんにひらりと躱されてしまう


「くっ!」


 勢い余って、思わずたたらを踏んでしまった俺だが、無理やり身体を捻じ曲げると、バックハンドで拳を振り回し、千尋さんに向かって、一撃を放つ。


「余裕ー、余裕―!」


 しかし、そんな苦し紛れの一発が届くはずもなく、千尋さんは俺の拳をミリ単位で避けると、眩しいくらいに笑って見せる。


「この!」

「遅い遅い!」


 体勢を立て直し、今度は正面から仕掛けてみるが、その全てが見切られ、躱され、避けられる。


 しかも、凄まじく余裕で。


 俺は千尋さんに触れればいいだけなのに、ただそれだけが、まったくできない! 


 千尋さんは目の前に居るのに、まるで、空気を相手に戦ってるようだ。

 手応えが、まるで無い。


「ちょっと!」

「鬼さんこちら―」


 千尋さんは、そんな無様に足掻く俺の頭上を、軽い跳躍だけでひらりと飛び越すと、見事な着地を決め。俺の背後に回ってしまう。


 ハッキリ言って、このゲームの勝者は、もう分かったようなものだが、諦めるわけにはいかない。


 俺は死力を振り絞り、必死で千尋さんに喰らいつくのだった。




「ぜぇ! ぜぇ! ぜぇ! ぜぇ!」


 はい、無理でした。


 俺は。なんとか倒れないように膝に手をつきながら、その場で荒い息を吐くのが、やっとだった。やばい。心臓が、超痛い。


「おーい? 大丈夫かー?」


 一方、千尋さんの方は、息を乱すどころか、汗一つかいていない。

 まったく余裕の表情である。


 これでも千尋さんは、かなり手を抜いてくれていたのだ。


 彼女は、まだ人の目で追える範囲の動きで、人の動きで、俺の相手をしてくれていたので、一応、本当に一応だが、俺の方にも、勝機はあった。


 思いっきり手加減してくれた千尋さんの動きに、俺の超感覚は、どう動けば良いのか伝えてくれるのだが、俺はその動きを、実践することが、できなかった。


 単純に俺の身体能力が、自分の超感覚についていけないのだ。

 そりゃ、逃げろって叫ぶわ、俺の超感覚。


「勝負はオレの勝ちだな! じゃあ、罰ゲームだ! 統斗! ちょっと手を前に出してくれる?」

「……は、はい。これで、いい、ですか?」


 ゲームと言えども、ルールはルールだ。

 敗者は、勝者の言うことを聞く。そういうルールなのだ。


 俺は、なんとか呼吸を落ち着けると、言われた通り、右手を前に突き出した。


「よしよし。それじゃ、えい」

「……へ?」


 そして、千尋さんは俺の右手をひっ掴むと、その手の平を、自らの左乳房へと、押し付けた。


 分かりやすく言えば、自分のおっぱいを、俺に掴ませた。


「んな!」


 落ち着けたはずの呼吸が、再び荒くなってしまう。

 

 俺は予想外の事態に、完全に固まってしまった。

 千尋さんの胸に、スポーツブラの上からだが、その手の平をめり込ませたまま。


「そんで、こうしてくれ」


 千尋さんは、自らの胸の上で固まったままの、俺の手の平を上から握ると、そのまま揉むように動かしだした。


 俺の手の平に、見事な張りがある乳房の、素晴らしすぎる弾力が、暴力的なまでに伝わった。


 やべぇ! なんだこれ! なにこの触り心地! 

 なんかちょっとだけ、先っぽの方に硬い部分とかあったりして!


「そうそう、そのまま続けて、……あん!」


 初めて感じる、その魔性の感触に、完全に心奪われた俺は、千尋さんが自らの手を離した後も、殆ど無意識に手を動かし、その胸を揉み続けてしまうのだった。




「あっ、あっあっ、……あん!」

「……はっ!」


 俺が理性を取り戻すことに成功したのは、果たして、どれほどの時間が経った後だったのだろうか?


 まぁ、そう長い時間では無い……、と思い込むことにした。


 俺は慌てて、千尋さんの胸から手を離す。


「――あぁん! ……むー、もう終わり?」


 なんだか、凄い色っぽい瞳で、愛らしく唇を尖らせた千尋さんに、俺はドギマギしてしまう。


「ち、ち、ち、千尋さん! いっ、いっ、一体、なにを!」

「なにって、罰ゲームだよ、罰ゲーム」


 敗者に自分の乳揉ませるって、どんな罰ゲームなんだよ!


 なんて、さっきまで長々と、その胸を揉み続けていた張本人である俺には、言えなかった。


「ちぇー! もう終わりかー! それじゃ、もう一回、勝負な! ルールは、さっきと一緒で!」

「えっ? ちょ千尋さん?」

「よし! じゃあスタート!」

「ちょっと、待ってくださいよ!」


 こうして、どっちが勝者なんだか分からない、謎のゲームは、俺が家に帰らなければならない時間になるまで、延々と繰り返されたのだった……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る