• ひだまりファンタジア

  • ◆第1部 偽りの魔法使い
  •  第3章 ともだちが出来ました -①-「小一時間問い詰めたい」

 第3章 ともだちが出来ました -①-「小一時間問い詰めたい」

 今日はステラが仕事なので、俺は留守番をしている。

 何もしないのも暇だったので、鶏小屋を掃除したり家の中を掃除して早五時間。昼食時になり、気まずい空気の中、俺達は飯を食っていた。


「……」


 何故こうなってしまったのか、その原因は分かっている。


「いい加減機嫌直せって」

「……」

「悪かったって」

「……」


 無表情と言っていいのか分からないが、いつもムチャムチャ音を立て、ウメェウメェと生肉を貪り食っているのに、今は虚ろな目で皿を見て、俺の言葉に耳を傾けるわけもなく、ミスターは無言で肉を食べ進めている。


 事の始まりは、今朝。

 数日家を空けていたミスターが、やっと帰ってきた時の事だ。


『私は仕事だから、アスターさんとお留守番お願い。ご飯は作ってあるからそれを二人で食べてね。じゃぁいってきます』


 そう言って笑顔で出て行ったステラを、そのまま玄関先で見送った。

 その時、ミスターはただ呆然と突っ立っていて、いつもならギャーギャー喚くのに、おかしいな? なんて思っていた矢先。俺は思い出したのだ。

 一昨日、藤四郎さんの店の裏庭で伸びていたミスターを俺達はすっかり忘れており、今の今まで放置していた事を……


 大好きな飼い主に綺麗さっぱり忘れ去られていたのだ。俺なら立ち直れない。

 当のミスターは相当怒っているのか、はたまた絶望しているのか。虚ろな瞳で空を見つめていて、流石の俺でも心配になってしまう。


「……はぁ」


 そうこうしている内に、肉を食い終えたミスターは、深いため息をついて、おぼつかない足取りで自分の小屋に戻っていった。この気まずい空気に、俺はたまらず庭に出る。

 

「今日もひと雨降りそうだな……」


 相変わらずの曇天模様。

 気分転換に庭に出たものの、水遣り等はある程度終わらせていた為、これといってやる事が無い。無理やり仕事を探そうにも、できる事といえば、この数時間で散らかった落ち葉を掃くくらい。……やるか。



「これでよしっと……」


 ある程度掃いた所で顔を上げると、家の前を見知った顔が横切り、俺は慌てて、その人物を呼び止めた。

 

「シオン」

「?」  


 シオンは暫くキョロキョロ辺りを見やると、こちらに気が付き会釈した。こんな所で何をしているのかと訊ねると、配達を始めたのだと言う。


「店はナズナが居りますので、これからは新しいこともやってみようとぬし様が」

「あぁ優秀な自宅警備員だもんな」

「えぇ、頼もしい限りです」


 この時、俺は初めてシオンの微笑を見た。元々感情をあまり出さない奴だと思っていたが、こんな顔もしてくれるようになったかと少し嬉しくなった。


「あ、悪い呼び止めて。配達中なんだよな?」

「いえ、もう終わりました」

「そうなのか」

 

 ステラは居ないのかと訊かれたので、今は仕事で不在なのだと答えた。 


「それはそれはお寂しいですね……」

「子供じゃないんだから。別に平気だよ。それより時間、大丈夫なのか? 遅くなると藤四郎さんが心配するんじゃないか?」

「……失念でした。配達が終わったら連絡を入れるように言われていたのを思い出しました」


 そう言って、シオンはポケットから白い何かを取り出した。


「お、携帯。買ってもらったのか?」

「自分は不要だと申したのですが、配達に便利だからと主様に渡されました」


 真新しいシオンのパーソナルカラーである薄い紫色のストラップは、きっと藤四郎さんが選んだのだろう。シオンは配達に便利だからというが、俺は子供を心配する親心ではないかと思う。


「えっと……これを……こう……」


 慣れない手付きで操作する姿を見守っていると、シオンの指がピタリと止まる。


「どうした?」

「使用方法は聞いていたのですが……まだよく覚えておりませんで……」 

「あぁ何だ。貸してみろ、どうしたい?」

「接客中かもしれないので、めぇるを……」


 初めて見る機種だったが、元いた世界と大体同じような感じだった。


「ほれ」

「ありがとうございます。助かりました」

「あいあい」


 しかし、異世界で携帯を操作するとは。

 街中では何度か見かけていたが、ステラが持っていなかった分、尚更だ。


「そうだ、折角だし番号聞いてもいいか?」

「はい」


 そう訊くと、シオンは肩下げの鞄から名刺を取り出した。

 そこには店名や番号。住所は勿論の事、藤四郎さんの名前が記されていた。


「道に迷ったり、番号を訊かれた時はこれを渡せば良いと言われました」

「あぁなるほど」


 まぁ客商売なら当然か。しかし、俺はシオンの番号を訊きたかったんだが……まぁいいか。


「そういえば、魔術は使えるようになりましたか?」


 自分の所の魔具だったからか、調子はどうだとシオンに訊かれた。

 練習したのはあれ一度きりだが、一応身につけてはいたので、あのネックレスと、チェーンに通した指輪を首元から出して見せ、コツが分からないと素直に話す。


「これは……」


 しかし、その魔具を見た途端、シオンは顔を顰めてしまった。


「どうした?」

「……申し訳有りませんアスター様。どうやらこの魔具は粗悪品だったようで」

「粗悪品?」

「つい先日入荷したばかりだったのですが、この魔具から力を感じられません」


 それは、使えないという事だろうかと問うと、そうだと言う。本当に申し訳ないと謝り、新しい物と交換すると言うシオンに。折角貰った物だしこのままでいいと断った。それでも、でも……と気に病むシオン。


 そうこうしている内にシオンの携帯が鳴る。相手は言わずもがな藤四郎さんだった。シオンは耳に当て慣れてないのか、凄くたどたどしくて、俺も初めての時は距離感が掴めなかったな~なんて思い出にふけっていると、シオンがいきなり慌てだす。


「おっお待ち下さい主様っ、仰っている意味がわかりかねっ!」


 あまりの慌てっぷりに、どうしたのだろうと思っていると、電話を切られたのか、泣きそうな顔をしたシオンがこちらを向いた。


「ぬ……主様が、夕方まで遊んでこいと……」

「う、うん?」


 それがどうしたのかと不思議でたまらなかったが、理由はすぐに分かった。


「自分は……主様にとって不要な存在になってしまったのでしょうか……」


 この世の終わりが来たような顔で嘆くものだから、それがおかしくて笑いを堪えきれず吹き出してしまった。


「ないない。藤四郎さんはきっと、お前にもっと外を見て欲しいんだよ。それにさ、ナズナが来たからって、お前をすぐに切り捨てるような人だと思うか?」 

「主様はそんなお人ではありません!」


 と、少しムッとして答えたので、そうだろう? と同意する。藤四郎さんはそんな人では無い。あの人は本当に良い人だから。


「許しも出た事だ。何をするって事も思い浮かばないけど、俺もたまには童心に返って遊んでみるのもいいかもな」

「は……はぁ……」


 子供の頃、何をして遊んだだろう? よく思い出せないのは、多分アレだ。子供の頃、習い事が多くて、あまり遊んでいなかったからだ。まぁ、多少は分かる。道具を使わずに出来る遊び。鬼ごっこ。高鬼。ケイドロ……さて何をしようか。


 ただ、マジモンの鬼であるシオンと鬼ごっこなんて、速攻で終わりそうだし。そもそも俺とシオンでは体格差がある。そのへんも踏まえて出来る遊びは――


「シオンは小さい頃何して遊んでたんだ?」

「自分ですか? 蹴鞠や貝合わせと言った所でしょうか」

「いつの時代の話だよ……」


 まぁ鬼という位だ。見た目と年齢が違うのだろう。気にしたら負けなのかもしれない。


「ま、とりあえずどっか行くか」


 男の遊びなんて枝一本あれば何でも出来る。

 何とかなるだろう。


 ただ、流石に何も言わず外へ行くのはよした方がいいだろうと思い、小屋に引き篭ったままのミスターに声を掛けた。

 しかし思っていたのとは違う返答が返って来たので驚いた。


「お前にだけは頼みたくなかったが……もうお前でいい」

「喧嘩売ってんのか?」


 何を言っているのか理解出来なかったので説明を求めると、ミスターは怪訝な顔でつぶやいた。


「友達になってほしい」

「絶対嫌」

「ファァー!!」


 逆に何故いけると思ったのか。

 俺は小一時間それを問いつめたい。

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