あぁ無情 -⑤-「雑貨屋グリシーヌ」

 近場のカフェで食事をとり。サンドイッチを頬張りながら、ずっと抱いていた疑問をステラにぶつけてみた。


「魔道士と魔術師の違い、ですか?」

「うん。この世界ではどう違うのかなーって」

「そうですねぇ……話せば長くなるのですが」

「あ、簡単にお願いしマス」

「簡単に……」


 難しい事を言ってしまったのだろうか、ステラは小難しい顔をして考え込んだ。


「えーと。魔道士は、生まれながらに自然界から魔力を吸収し、詠唱や媒体無しに思うままに魔法を使う事が出来るんですが。魔術師は一般の方より生命力が高く、魔法に対する耐性はあっても、魔力を体内で生成、貯蓄する事が出来ず。魔法も使えません」

「魔法はモーション無しですぐに使うことが出来るって事でいいんだよな」

「ですです。なので魔術は逆ですね。魔術は力の源。つまり魔力の篭った石とそれと術式と呪文が揃ってはじめて発動するので」


 また魔道士にも個人差があり、力の出し方や、吸収できる量・スピードもそれぞれで、得意とする魔法の属性も異なるのだとも教えてくれた。


「なるほどなー。んで、さっき言ってた魔具ってのは……」

「あ、この杖みたいな物の事です」


 そう言って、ステラは腰にぶら下げていた、あの杖を取り出し、目の前に置いた。杖には水色と黄緑色、それと赤い小さな石がストラップとして付いていた。


「魔具というのは、魔石と術式を合体させた……なんでしょう。便利な道具です」

「ふわっふわしてるな」

「す、すみません。説明下手なんですよ……」


 そんな感じで、ふわふわした説明は続いた。


「柄の側面、ここに小さな陣が刻印されているの見えますか? この杖の場合。ここを握って、鍵となる呪文を唱えれば魔石が認識して、魔術展開出来るんです」

「ほー」

「でも魔具というものは消耗品なので、そう無茶は出来ません。低級魔具はどうしても元々の耐久値が低いので、一度壊れると修復は難しいです」

「へえ」

「あ、でも高位の魔具であれば、壊れる前に魔道士が魔力を移せば大丈夫なんですよ。その分高額の費用が掛かりますが。――ただ、完全に壊れてしまうと魔道技師にしか直せませんけど」


 魔道技師。そんなもんまでいるとは驚きだ。この説明で何となく分かるかと不安げな彼女。まぁ言わんとする事は何となく理解した。という事はステラは魔術師なんだなと、つい、思ったことを口にしてしまった。

 すると何故だかバツが悪そうに下を向き、少し黙ると小さく、呟くような声を出した。


「えと、その……。なんと言いますか。嘘を付いてもどうしようもないので言いますが。私、実は魔道士なんですよ。でも少々事情がありまして。……あ、で、でも私のような方は結構いるんですよ? 魔道士だけど魔術を主に使うって方は」

「へー」


 省エネモードみたいなものだろうか。先程の言いにくそうな反応が気になったので、これ以上は訊き辛く。とりあえず、飯をさっさと済ませて、俺と同じく日本から来たであろう異界人。シロウさんがやっているという雑貨屋に向かった。

 そしてそれは案外近くにあり、表通りにを奥に進み信号を二つ渡った所に建っていた。


「あそこがシロウさんの店ですよ」

「おぉ……結構雰囲気あるなぁ」


 歴史を感じさせる煉瓦の外壁には、蔓性の植物が伸び。なんとも趣があり、入口脇のアイアン製の看板にはブドウのような模様と、筆記体でglycineと刻まれている。


「ぐり……ぐりしね?」

「グリシーヌ。イリスの言葉で藤だそうです」


 中央の入口を挟む出窓はショーウィンドウか。大きな水晶の結晶や、多角カットされ吊るされた透明な石が虹色の輝きを放ち、窓をキラキラ照らしていた。


「こんにちはー」


 扉を開けると、ドアベルが軽快に鳴り響いた。

 店内は、ザ・雑貨屋という感じで。石鹸から髪留めやら、細々した物がディスプレイされており。壁一面には本が。そして吹き抜けで高い天井には大きなシャンデリアがぶら下がっていた。


「おや。これはこれは。彼氏さん連れで。お探し物ですか?」


 この世界では男を連れていればこう言われるのだろうか? カウンターに腰掛けていた男性が立ち上がり俺達を出迎え、そう言った。


 その人は見るからに日本人といった黒髪で。白い詰襟のシャツに藍染の着物。縞柄の袴姿という如何にもな格好をしていたのだが。目が完全に隠れた前髪に、伸ばしっぱなしのボサボサの髪の毛には、物を売る仕事なのに大丈夫なのだろうかと不安になった。


「こちらアスターさんと言う方で。シロウさんと同じ、異界の方なんですよ」

「なんと!」


 異界人と聞いた途端、その人は両手を広げ喜んだ。


「ようこそ異世界へ! 僕は桜庭藤四郎さくらば とうしろうです。これから大変だと思いますが、困ったことがあったら、何でも言ってくださいね」


 出された手に躊躇しながら、握手を交わす。

 意外とフレンドリーな人のようだ。


「こ、こちらこそよろしくお願いします」


 そして興奮冷めやらぬといった感じで、店の奥に向かってシオンと叫ぶと。白いセーラー服姿の少年が姿を現した。


「お呼びですか? ぬし様」


 まるで主従関係があるかのように、トウシロウさんの事を主様と呼ぶこの少年。

 二人はどういう関係なのだろうか。少し、いや、かなり気になる。


「僕はこのシオンと共に、この世界に飛ばされたんですよ」


 一緒に。とは言うが、シオンと呼ばれた少年の瞳と髪は薄い紫色で、どう見ても日本人とは言い難い。ハーフにしてはと困惑する俺に、シオンは会釈し、外側にハネた髪の毛がふわりと揺れた。

 あぁ、こういう所は実に日本人らしい。

 どうやらシオンは、不必要に喋るタイプでは無いようだ。会話の邪魔にならないよう、必要最低限。一言二言、空気を読んで発言しているように思える。


「さてと」


 ある程度挨拶も終えた所で、これから大変だろうと。背格好も似ている自分の服でよければ、袖を通していない服が数点あるのでどうかと提案された。


「いいんですか!?」

「えぇ、見ての通り、僕はこういった服が多くて。洋装はあまりしないんですよ。けどその……頼みもしないのに、実家からよく服が送られてきて、持て余してしまって」


 実家?


「あぁ、この世界に来た時から世話になっている人達で、今は親同然なんです」

「なる程」


 なんと察しがいいようで。

 聞いてもないのに答えてくれるとは驚きだ。


「ちょっと変な柄が多いので、寝間着替わりにでも使って頂ければ――余計なお世話でしたか?」


 余計だなんてそんな、大歓迎だと喜んでいると。まとめてくるので待っていてくれと、店の奥へ引っ込んでいった。階段を上がるような音が聞こえたので、二階に上がったのだろう。

 何となく、その方向をぼんやり眺めていると、ステラがシオンに声をかけた。


「扱いやすい、属性付きの魔具を見せてもらってもいいですか?」

「属性付き……ですか?」


 シオンには俺が使うという事を伝え、何点か見せてもらった。


「結構種類があるんだな」


 火属性のピアスに、水属性のネックレス。緑色の石があしらわれた指輪は風属性等々。シオンの解説付きで、カウンターの上にどんどん並べられていく。


「杖は……無いんだな」


 どうせ使うのなら杖を振り回してみたい。

 だってそのほうがファンタジーって感じがしてカッコイイじゃないか。とまでは口に出さなかったが、顔に出ていたのか。慣れれば杖も振れるようになると励まされた。


「マジか」


 それはテンションが上がるってものだ。

 ではどれにしようかという話しになり、最初は扱いやすい風か水はどうかと打診された。


「火は駄目か?」

「家を燃やさなければ大丈夫ですよ」

「あ、はい」


 その一言で全てを察し、悩んだ結果、水属性だという、銀のプレートに小さな青い石のついたネックレスを選んだ。


「着けていかれますか?」

「うーん。まだ怖いかなぁ」

「ではお包みしますね」

「よろしく頼む」


 俺は、梱包される様子を見ながら、シオンに元の世界に帰れる方法を尋ねるが、シオンは静かに首を振った。やはりそう簡単にはいかないらしい。


「でも……」


 シオンはポツリポツリと言葉を紡ぐ。


「自分と主様は、こちらに来てもう十数年になりますが……主様は毎日笑顔で楽しそうで。自分は、こちらにこれて良かったと思っています。帰りたくないというのは嘘になりますが……自分はここで主様と共に在りたいと思います」

「そうか……」


 そういう生き方もあるだろう。

 人それぞれで、俺如きがとやかく言う事では無い。


「あ、そうだ。トウシロウさんの名前ってどんな漢字で書くんだ?」

「藤です。花の藤。それに漢数字の四と――」

「なるほど。店の名前はそこからか」


 言い終わる前に、自己解決出来たので割り込んだ。シオンはそうです。と軽く頷き、梱包の終わった商品を俺に手渡した。


「おいくらですか?」


 ステラが財布を取り出し尋ねる。

 机の上の切られた値札をシオンがひっくり返し、値段を確認していると、


「差し上げますよ」

「え?」


 藤四郎さんが大きな紙袋を三つ携え戻ってきた。どうやらこのやり取りを聞いていたらしい。


「これから色々大変でしょうし」

「いいんですか!?」

「えぇ、どうぞ。あぁ、なんなら――」


 そしてなんと先程迷っていた指輪までくれるとも言い出した。


「あああありがとうございます!」

「良かったですねぇ」


 本当に、この世界の人達は良い人が多くて感謝が追いつかない。

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