第2話:はじまり
キーンコーンカーンコーン────
学校中にチャイムの音が鳴り響き、部活や帰宅で学生の声が響いていく。
そんな中、1人の少女はすやすやと寝息を立てて机で寝ていた。
寝ているにもかかわらず、瓶底のように分厚い眼鏡をかけ、長い前髪は寝ていることで少し流れているが、普通に生活する際は顔の半分以上が隠れるのではないかと思われるくらい長い前髪をしており、寝ている際も顔の半分も見えていない。
夕日が当たり、暑さと音で目が覚めた少女は顔を上げ、黒板上にある時計を見る。
17時。
はぁ、とため息をついてカバンを肩にかけ、髪を確認し、メガネを掛けて帰る準備を終わらせ、教室から出て歩き始めた。
「そういえば…………」
カバンのサイドポケットに手を入れて、”それ”の感覚を確認した少女は、これから行かないといけない場所を思い出して、進めている足取りが重くなっていた。
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”生徒会室”と書かれたプレートがついている重々しい大きな観音扉の前で例の物を取り出し、1ミリも出ない気合を無理やり出すように息を吐いて扉をノックする。
『どうぞ』
扉の向こうから声が聞こえ、見た目とは反して軽く開く扉を開けると、声の主は私の姿を確認すると同時に少し眉間にしわを寄せる。
「誰が来たの、
左側から聞こえたのは、メガネを掛けた、少し優しそうな声。だけど、その中にほんの少し棘を感じるのは気のせいではない気がする。
「これを」
私はそう言いながら手に持っていた白い封筒を目の前の人、紫翠と呼ばれていた人に渡そうとすると、メガネを掛けた人がヒョイッとそれを取り上げ、中身を出して読み始めた。
「これはどういうことなのかな」
……やっぱり、そうだ。
この人は優しい笑顔を浮かべているだけで、本心を隠している。面倒なタイプの人間で、私の一番嫌いなタイプの人間だ。
「文面のとおりです。本日、姉は体調を崩したので、生徒会をお休みする、という報告です」
私は今日の朝、姉に言われたことをそのまま繰り返す。だが、生徒会の人たちの表情は険しいままだ。
「そこを聞いてるんじゃなくて、どうしてこの手紙を君が持ってきたのかって聞いてるんだけど」
「……はい?」
予想外の質問に、私は変な声が出る。
「君と、
にっこりと笑いながらも、目の奥が笑っていない、この胡散臭い笑顔を浮かべるこのメガネ男は私に迫ってくる。
……そういうことか。
「関係も何も、私は身内で唯一同じ学校に通っているんです。──
「僕のこと、知ってるんだ」
……知ってるも何も、この高校にいれば誰でも知ってると思います。
「まぁ、そうですね」
「君は自分の事以外、何も興味がないと思ってたよ」
伊澄副会長は大げさに手を振りながら言う。
……それは失礼ではなかろうか。まぁ、人に興味がないことは事実だけど、自分が通ってる学校の主要人物は覚えてるっての。
「とにかく、咲蘭からの手紙ですので、渡したので失礼します」
「待て」
用は終わった、と生徒会室から出ようとすれば、生徒会長の鋭い声が響き、私は反射的に振り返る。
少しずつ近づいてくるその人と一定の距離を取るように同じように私も動く、が、後ろに行き過ぎて背中が壁に当たる。
生徒会長は私を逃さんとばかりに私の頭を挟むように壁に手をつき、きれいな顔を氷のように冷たくして見てくる。
こんなに近くで生徒会長が見られるのだ。他の女子生徒ならここで黄色い声を上げるか、鼻血を出したり気絶したりするのだろう。
しかし、こんなにときめきのない壁ドンは今後、経験することはないだろう。私はそうとしか思えなかった。
「咲蘭に、近づくな」
……は?
意味が、わからない。
「お前のことはどうでもいいが、咲蘭は生徒会の一員だ。生徒会を傷つけるやつは、たとえ身内であっても許さない」
「
メガネと長くて重い前髪越しに見ている生徒会長は完全に私を”敵”として認識している。
「私が、姉を、咲蘭を傷つける事はありません」
「あ、ちょっと……」
はっきりと言い切れば、生徒会長の動きがピタッと止まる。
伊澄副会長の声が聞こえた気がしたが、完全に無視をして、私はその隙に生徒会長の腕の間からするりと抜け、生徒会室をあとにした。
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「どう思う、紫翠」
「どうも何も、危険だ」
李織がいなくなったあと、生徒会室では李織のことを話していた。
”六道李織は何もできない落ちこぼれ。家族の咲蘭にさえ関わりを持とうとしない”
六道李織の話は有名だった。幼い頃は秀才と謳わえれていたが、今では落第者と言われるほど、秀才の2文字は過去の栄光となっていた。
「でも、噂通りの子じゃないと、僕は思うんだけどな」
「蒼紫」
蒼紫はいつものような取ってつけた笑顔でさっきの李織を思い出す。
長い前髪で顔が見えてない上に瓶底メガネをかけて更に表情が読めないあの子。
でも、僕の笑顔には口がかすかに歪んでいたのを感じた。
「噂が独り歩きしてる感じがするよね」
「……」
蒼紫の言葉に紫翠は言葉をつまらせる。
事実、紫翠も先の出来事でそう感じる部分はあった。
表情こそ見えなかったが、咲蘭との関係についてはっきりと言い切ったあの声は、嘘とは感じれなかった。
「あの子は、なんなんだろうね」
「……」
2人は、お互いに違う意味で、彼女に興味を持ち始めていた。
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