『転生した土方歳三、異世界で新選組を結成しようとする63 たまには休日にしようか』

海山純平

第63話 たまには休日にしようか

包帯を幾重にも巻かれた右腕を持て余しながら、歳三はベッドの上で仰向けになっていた。先日のクエストで狼男の群れを相手にしすぎた結果、肩の腱を痛め、村の治療院で強制的に安静を言い渡されたのである。天井の木目を数えることも三周目に突入し、指先はもぞもぞと寝具の上で意味もなく蠢いている。全身の筋肉が「動きたい」と悲鳴を上げているのが分かる。天然理心流の型が、瞼を閉じるたびに勝手に脳裏を駆け巡り、抜刀の間合いを無意識に数えてしまう自分に、歳三は苦笑するしかなかった。指先で布団の縁を握りしめては開き、握りしめては開きを繰り返す。まるで幼子が退屈を持て余すような仕草だが、本人にその自覚はまるでない。 「くそ、体が疼く……」 起き上がろうとした瞬間、扉の外からパックの声が飛んでくる。 「歳三ー、寝てないと駄目だよー! 元気があれば多少はなんとかなるけど、怪我はなんともならないからね!」 「分かっている、分かっているとも」 口では答えつつも、歳三の視線はベッド脇に立てかけられた木刀へと吸い寄せられていく。天井を見上げていたはずの瞳が、いつの間にか木刀の柄頭に釘付けになっていた。喉がごくりと鳴り、鼓動が少しずつ速まっていく。パックが部屋を出た隙を見計らい、そっと右手を伸ばす。指先が柄に触れた瞬間、肩に走った鋭い痛みに顔を歪め、声にならない悲鳴を嚙み殺した。 「ぐ、ぬぅ……!」 額に脂汗を浮かべながらも、諦めきれずに左手だけで素振りの真似事を始める歳三。しかし布団に足を絡ませて体勢を崩し、盛大にベッドから転げ落ちた。 「ぬわぁっと!?」 物音を聞きつけたパックが慌てて飛び込んでくる。 「もー! ほら見たことか! 大人しくしてないから!」 「これはその、寝相が悪かっただけだ」 「絶対嘘だ、それ」 呆れ顔のパックに引き起こされ、渋々布団に戻る歳三。しかしそれでも大人しくしていられるはずもなく、今度は枕を刀に見立てて素振りの呼吸だけを繰り返し始める。 「シッ、シッ……」 「歳三、口で言うだけなら剣術にならないよ」 「分かっている。だが体が納得しない」 それでも収まらない疼きに耐えかね、歳三は今度は足の指先だけで摺り足の稽古を再現しようと試みる。布団の中でもぞもぞと足先が動く様は、傍から見ればただ寝相の悪い病人にしか見えない。だが本人は至って真剣で、額には玉のような汗まで浮かんでいた。 「これくらいなら、寝たままでも鍛錬になる……」 「歳三、それただの貧乏ゆすりだよ」 呆れた声でパックに指摘され、歳三はぴたりと動きを止めた。バツが悪そうに咳払いをひとつすると、何事もなかったかのように天井へと視線を戻す。やがて往診に来た村の治療師が部屋に入ってくると、歳三はここぞとばかりに目を輝かせた。 「治療師殿、貴殿ほどの手際、実に見込みがある。お前も新選組だ」 「は、はあ?」 「規律は簡潔だ。士道に背けば切腹、勝手に組を抜ければ切腹」 「切腹!? そんな物騒な組織に入るくらいなら、大人しく往診だけしておりますが!!」 悲鳴を上げて逃げるように部屋を出ていく治療師を見送り、歳三は深々とため息をついた。肩の痛みがずきりと再発し、思わず顔をしかめる。無理をした報いが、じわじわと骨の奥に染み渡っていくようだった。 「……今日ばかりは、大人しくするか」 「そうそう、たまには休日にしようね」 パックがくすくす笑いながら布団を掛け直してくれる。その温かさに、歳三の強張っていた肩から少しずつ力が抜けていった。窓の外では夕焼けが柔らかく村を照らし、鳥の鳴き声がのんびりと響いている。こんな穏やかな時間も、悪くはないと歳三はふと思う。だが胸の奥では、早く傷を癒やして刀を振るいたいという闘志が、静かに、しかし確かに燃え続けていた。 「まあ、明日からはまた鍛錬の日々だがな」 「もー、歳三は本当に休むのが下手だなぁ」 パックの笑い声を聞きながら、歳三は仕方なく天井を見上げ、疼く体をどうにか押し殺すのだった。

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『転生した土方歳三、異世界で新選組を結成しようとする63 たまには休日にしようか』 海山純平 @umiyama117

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