月明かりと鏡

高山昇

銀の四角

それは、人間たちの暮らす現世の、とある大陸に広がる果てしない大草原で起きたことだった。

何の前触れもなく、虚空に銀色の四角が現れた。

光を冷たく弾きながら、それは周りの空間をゆらりと波打たせ、大気を軋ませる。やがて、耐えかねた空間がガラスのように音もなくひび割れた。

——そして、砕けた。

星屑のような光の尾を曳いて、無数の銀の破片が四方へ散っていく。あるものは現世の街へ。あるものは見知らぬ次元へ。あるものは、生と死の境のあわいへ。そしてあるものは、忘れられた夢ばかりが降り積もった、遥かな積層の世界へと。

破片が落ちた先には、小さな「歪み」が生まれた。鏡の奥が揺れ、井戸の底が光り、夜の窓がほのかに波打つ。それは、現世の子供たちを別の世界へと吸い込むいくつもの入口だった。

そしてもう一つ。

破片が散ったその日から、忘れられた世界を塗りつぶしていく黒い染みが、どこかで静かに、けれど確かに滲みはじめていた。

草原に風が渡る。

割れた銀の四角のことなど、もう誰も覚えてはいなかった。


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