楊貴妃メダカが泳ぐ、優しくて切ない食卓

 こちらの作品を読んでいるうちに、オレガノとトマトの香りが本当に漂ってくるようで、お腹が空くのに、どこか切なくなる不思議なお話でした。

 笹原くんの「温めたプラスチック容器のまま食べる白ごはん」という描写がすごくリアルで、白鷺由花先生の部屋の明かりやランチョンマットの温かさが、ただの食事以上の救いになっているのが伝わってきます。

 特に楊貴妃メダカの水槽が印象的でした。きれいで癒やされる存在なのに、会話が進むほど別の意味を帯びて見えてくる感じが巧みで、白鷺先生の軽やかな冗談の奥に、大人の寂しさや諦めが滲んでいて、「料理は魔法」という言葉が最後には少し違う響きに変わるのも好きでした。

 料理小説なのに、人の孤独や優しさまで丁寧に煮込まれているような一作でした。

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