転生した凡人は天才に憧れ努力を続ける

霜月雹花

第一章

第1話 【二度目の人生・1】


 俺の名は、アルフ。

 特別な血筋でも無く、特別な才能も無いただの農民の息子として生まれた。

 幼少期、自分は強いと思っていた。

 生まれた村では喧嘩に負けなしで、大人相手にも勝てる腕力を持っていた。

 魔物が村に来た時だって、俺は先頭に立って魔物と戦って村を守った。

 その時の高揚感から俺は、冒険者を目指す事にした。

 18歳の時に村を出た俺は、一番近くの街へと来た時、ふと自分はそこまで強くないのかも知れないと感じた。

 その疑念は徐々に真実へと近づき、冒険者を始めて1年が経った頃、俺は未だ最低ランクから一つ上のランクで生活をしていた。


「子供の頃は自分が強いと思ってたんだけど、まさか凡人とはな……」


 次第に精神が病んでいき、酒に逃げる事もある日があった。

 それでも俺は冒険者を続けていた。

 それはいつの日か才能が開花すると、そんな淡い期待を寄せながら生活をしていた。

 そうして冒険者として30年の月日が経ち、俺は凡人ながらなんとか最高ランクから二つ下のランクまで上がる事が出来た。

 しかし、既に老いが始まって来て徐々に体の痛みも取れなくなってきた。

 そんな時、街に魔物の大群が押し寄せてくると報告を聞いた。


「逃げても一緒だろ……まあ、良い。人生最後は人の為に命を賭けるか」


「アルフ。お前は逃げないのか?」


 その問いかけをしてきたのは、同じく老いた冒険者のクリフ。

 家庭を築き、妻と子を持っている。

 だからだろう先程の報告を聞いて、直ぐに体が動いていた。


「誰かが少しでも足止めしないと、あの大群は街の人を食い殺すだろ? 経験だけはいっちょ前にある老兵の俺は犠牲に丁度良い。それに戦えるのは俺くらいしか今は居ないからな」


 この街には普段であれば多くの冒険者が居た。

 しかし、今の時期は別の街で祭りがあり、そちらに多くの冒険者が向かっている。

 また更に新たなダンジョンが発見され、そこにも冒険者が向かっていて残っていたのは俺と友が一人だけだった。


「もし、クリフが生き残って街が無事であったなら俺の名を広めてくれ。それが俺にとって最高の報酬だからな」


「ああ、約束する。だがもし叶うなら、生きて再会したいな」


「ハハッ、そんな事が出来るのは俺みたいな老いた老兵では無く、物語に出てくるような英雄達だけさ! ほらっ、早く行け。家族が待ってるだろ」


「……すまない。生きて会おう友よ」


 クリフからそう言われ、俺は建物の外に出た。

 街に残っていた兵士達も逃げる街の人達を守る為、同行しているようで全ての人達が街から去っていた。

 街の人達が逃げる方向とは逆に進む時、俺は久しく感じてなかった高揚感を感じていた。


「自分が死ぬかも知れない時にこんな気持ちが芽生えるなんてな……魔物共覚悟しろよ。こちとら経験だけは沢山ある凡人だ!」


 そうして、俺と魔物の戦いが始まった。

 数が多い魔物の大群を一匹でも多く街に近づけさせない為、俺は広範囲に対して【威圧】をぶつけた。

 暴走気味の魔物でも自分に当てられた【威圧】が弱ければ、苛立ちそれを出してる生命体に襲い掛かる。

 これは俺が3年目辺りに気付いたやり方で、強い【威圧】だと魔物を逃がす為に俺は敢えて弱い【威圧】の出し方を学んだ。


「——!」


「ハハッ、そうだそうだ。こっちは弱い人間だぞこっちに来い!」


 魔物共は俺の弱い【威圧】を当てられ、激高した様子で襲い掛かって来た。

 そんな魔物達に対して、直ぐにやられてしまったら折角集めた意味が無い。


「【我が身よ堅くなれ】」


 短縮詠唱による【身体強化】の魔法。

 本来【身体強化】は詠唱無しで使用できる者が多いスキルだが、俺は詠唱をするやり方で使っていた。

 最初、学んだ際に無詠唱では中々発動出来ず苦労した俺は、敢えて時代に合わない詠唱を入れて発動した。

 すると、そのやり方が俺には合っていたのか強力な【身体強化】を実現出来た。


「いッ! ったくない!」


 【身体強化】をしていても、俺の肉を噛みちぎる魔物が居た。

 その痛みに一瞬、魔法が途切れそうになったが意識を持ち直して魔法を持続させた。

 そうして俺の近くまで寄って来た魔物達に対し、一匹ずつ確実に仕留めて行った。

 戦いながらも俺は周囲を見渡し、街へと近づこうとしてる魔物が居れば【威圧】を向けて俺の方へと向かわせた。

 数百数千、何体倒したかもう既に分からない。


「最期にしては良い仕事をしたな~……」


 周囲にあるのは魔物の死体。

 しかし、未だ大群は現れ続けている。

 街の方からの援軍は無く、全員が逃げているのだろう。


「それでいい。犠牲になって、一人でも多く生きてさえいれば俺の命の価値は高くなるからな」


 秀才でも無く天才でも無い、ましてや何かしら特別な血筋でも無い。

 才能は無く、ただひたすら地味な力を研ぎ澄ませて来た。

 輝かしい栄光も実績も一つも無い凡人が、最後に沢山の人の命を救えた。

 英雄譚にも冒険譚にもならないだろうが、歴史の一行には名前を残せそうな偉業を凡人の俺が行えた。


「ただそれだけで、俺は俺の命を犠牲に出来る。だからもっと来い! 歴史に名を遺す最後のチャンスなんだ。もっともっと俺が倒し、多くの命を救い。俺の名を後の世に残してやるッ!」


 俺は戦い続けた。

 一匹でも多くの魔物を倒し、街を救って人々を救う。

 そうして俺は、魔力を失っても体を動かし続けた。


「……やれば、出来るな」


 数万の大軍を倒した。

 日暮れ時から戦いが始まり、気付けば既に朝日が昇って来ていた。

 魔物共は朝日が昇ると、やって来ていた方へと戻っていった。

 俺はその魔物共の背中を見つめながら、俺は地面に倒れ空を見つめた。


「ハハッ、クリフ。俺の名を広める約束。ちゃんとやるんだぞッ!」


 右腕は噛みちぎられ、腹部にも大きな傷を負い血を大量に出血した。

 俺はその傷を見て、生き残るのは不可能だと察した。


「アル! アルフ! 何処に居るんだ返事をしろ!」


 意識が遠くなる中、クリフの声が聞こえてきた。

 返事をしようにも、もう気力も無く俺は目を閉じた。


————


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