㊗️本編完結㊗️ Q. 魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?👉A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】

⭐️Koh⭐️

序章

第0話 近い未来の話〜王都魔法大会 決勝戦

 雨が降っていた。


 王都魔法大会、決勝戦。五千人を収容する大闘技場の石段は満席で、雨除けの魔法障壁の向こう側に、薄灰色の空が広がっている。


 闘技場の中央に、二人の少女が立っていた。


 一人は魔法学園でも歴代最高と謳われる才能の持ち主。

 すらりとした体躯に赤い長髪。脂汗をかき、息を切らせながらも、長い詠唱を続けている。


 もう一人は"才無し侯爵"と揶揄される小柄な少女だった。

 金髪のボブに、ぼろぼろの制服を泥で汚し、荒い息をついている。右足を引きずっていた。


⸻


「……才無し侯爵、まだ立ってるぞ」

「嘘だろ、あの才無しがここまで粘るとか……」


 観客席の学生たちがざわついていた。


⸻


 闘技場の中。


 小柄な少女は、正面を見つめていた。


 このままじゃジリ貧だった。右足はさっきのファイアランスの直撃で、もはやまともに動かない。


 ——結局、未完成のまま来ちゃった。でも、もうこれしかない。


 小柄な少女が、詠唱を始めた。


「——紅蓮の炎よ、我が手に集え——」


⸻


「……は?」

「……初級魔法ファイアボールの詠唱?」


 観客席がざわついた。赤い髪の少女も、一瞬だけ眉をひそめた。


⸻


「——渦巻く火球が、この手の前に——」


 掌の先に、ぽっ、と小さな火が灯った。


 初級のファイアボールにすらなれない、指先ほどの炎。


 小柄な少女が、その火を——上空に向けて、弾いた。


「これが私の、奥の手」


 小さな火が、ゆらゆらと宙を登っていく。あまりにも弱々しい。初級魔法にすら全く届かない出力。


⸻


 同時に——赤い髪の少女の詠唱が、完成した。


 超級魔法——フェニックス。

 巨大な炎の鳥が、爆ぜるように顕現した。


 大きな翼が開き、熱波が闘技場を薙いだ。周囲の雨が蒸発し、白い蒸気が渦を巻く。


 フェニックスが、小柄な少女に向かって飛んだ。


⸻


 正面からフェニックスが迫る。


 上空に、私の放った弱々しい炎が登っていった。


 その時⸻カッッ!!!


 白い閃光が、闘技場を焼いた。


 ボッッ!!!!!!


 遅れて巨大な爆風が、空気を引き裂いた。


 こちらに迫ってきていたフェニックスが、爆風に呑まれて押し潰された。

 爆風で、赤髪の少女の身体が吹き飛ぶのが見えたと同時に、私自身も吹き飛んだ。


 二人の身体が、地面と水平になり飛んでいき、両者ともに壁に激突した。


⸻


 会場が、一瞬だけ静まり返った。


 そして——爆発した。


「——なっ!? 無詠唱の爆裂魔法だと!?」

「なんだあの爆発のデカさは!?!?」

「だが、魔力をほとんど感じなかったぞ!?」

「そんなはずがあるか! あの威力だぞ!!!」

「身代わりのペンダントがあっても危険だ、医療班を呼べ!」


 審判が駆け寄った。医療班が走り出す。雨が強くなり、爆発の白い煙が流されていく。


 闘技場の中央には、誰も立っていなかった。


 二人とも、砂の中で倒れていた。


⸻


 審判の声が、闘技場に響いた。


「両者、戦闘不能! 決勝——引き分け!」


 一拍の沈黙。


 そして——五千人の歓声が、雨を押し返すように闘技場を満たした。


⸻


 観客席の最上段。


 老人は、闘技場の中で動かない小柄な少女をしばらく眺めていた。


 そして——かっかっかと、笑った。


「あそこまで教えても、世代一位にはなれんかったか」


 もう一度、笑った。


「かっかっか」


⸻


 ——この日の決勝が、最初のきっかけだった。


 ——これは、「才無し侯爵」と呼ばれた一人の小柄な少女が、やがて「魔術の始祖」「魔道具の母」と呼ばれるようになっていく——その物語。

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