置いて行かれた者の怒りと哀惜が面影を貫く
- ★★★ Excellent!!!
本作は地方都市で暮らす自死遺族の子どもの心理を活写した作品です。
心理の吐露。
ただそれだけで物語として成立している優れた作品です。
語り手の抱く感情の量は、かつて父の勤めていた会社の社長宅への訪問で、一気に蓄積されます。
自らが社会階級の下位にいるという意識。
容貌への羞恥。
周囲の無理解。
立場や人格によっては社会性や礼儀正しさや親切や善意。
そんな〝良き事〟とされる行為が語り手の自意識を苛む暴力となるのです。
細やかな日常描写の積み重ね。
それは体面を装う振る舞いにより行き場のない怒りが蓄積する過程の表現でもあるのです。
白眉は、その怒りの吐露。
そして、激情だけでなく衝動の過ぎた後の余白。
微かな温もりの慰めの描写です。
すでに無い父の温もりとまだ掌にある小さな温もり。
その対比が読む者の胸を打ちます。
人間の心情を深く描く優れた文芸作品です。
どうぞご一読ください。