いつもは現代ドラマを主戦場としている志乃亜サクさんの、SF短編です。
いやあ、これはスケールの大きな素晴らしい作品ですね!
読もう読もうと思って、積読になっていたのですが、読み始めたら一気に引き込まれました。
破天荒なアルと真面目な相棒ハックの対照的な二人が、ラピュタを彷彿とさせる天空の竜の宮殿を目指し、人類として初めて到達し記録する。そういう幻想的と言うべきSFが、ある事情で終盤にサスペンスへ転調するのがニクイ。そして最後はハードボイルド調の濃密なヒューマンドラマで幕。
壮大な構想が細部まで練り込まれ、文章も読みやすく、風景描写も心情描写も細やか。とても2万字とは思われない、大充実の短編でした。
絶対書けないけれど、わたくしも書けるものであれば、このくらいのものを書きたいものだ、と素直に思った名作でした。
これは間違いない。お勧めです。
高度千メドル以上は、竜の世界。
人間と竜の生きる場所が、明確に分かれた世界。
操縦士のアルと副操縦士のハックは、竜の骸を素材にして作られた飛行機、”紅三号“で空へと旅立つ。
目的は老竜が生を終える最期の飛行を追い、その先を記録として残すこと。
今後、国がその記録を元に竜の世界を侵食するために……。
現代でも、人間と他の生き物の生存圏は明確に分かれているものも多いです。
しかし、その境界を侵すのは、大体において人間のような気がします。
それがどれほどに世界のバランスを変えることかは考えず。
二人の飛行士は、無事に竜の棲まう空へ到達できるでしょうか。
そして老竜の最期の飛行を追えるのか。
未知の世界へ進む人間の高揚や葛藤。
身勝手なロマンと、突き進む傲慢。
迷いと、確かな絆。
そして、生と死。
多くのものが混在した二人の飛行は、どのように終着するのでしょうか。
読み終えた時の、言葉にならないこの感覚を、どうぞ味わって頂きたいと思います。
お薦め致します。
ブルース・ブラザーズという映画をご存知だろうか?
ムショを出所する小太りな兄貴。
ソレを迎えに来た、ヒョロっとしたノッポな弟。
2人はそろいの黒のソフト帽に黒のタイ。細身のブラックスーツにレイバンのサングラスといったスタイル。
この2人は、育った孤児院が潰れそうと知り、かつて一世を風靡したブルース・ブラザーズバンドを再結成し、ライブで一山当て、その金で孤児院を救おう考える。
劇中の会話。
愛用のブルースモービルで出発というとき。
兄のジェイクが尋ねる。
「準備はいいか?」
答える、弟エルウッド。
「ハイオク、満タン。
タバコ、ツーカートン。
そして、なぜかおれたちは、暗闇にサングラス」
「よし、行け」
端的な会話。
そのセリフの中にすべてが詰まってる。余計な説明はいらない。
会話の妙。
世の中のすべての物語は、
会話だ。
一人語りの物語?
ソレも、語り手と読者の会話。
会話なくして、物語は成り立たない。
志乃亜サク様のこのお作品。
主役の2人。アルとハックの会話が、スゴく良い。
端的な会話が、とても心地良い。
同じ会話劇の、パルプ・フィクション。
アレは、ギトギトしている。
コッチは、サラサラ。
淡麗辛口である。
このお作品。
案外長い。
二万字。
けれど、読むと、ぜんぜん長さを感じない。
彼女との甘い会話。
アレも、長さを感じないでしょう?
楽しい、おもしろい。
ソレは、長さなんて感じさせない。
ソレが、会話の妙というものだろう。
ぜひぜひ、お読みくださいませ🤗⭐✨
『未開のはずのジャングルに、鐘の音が響く』
そのような不可思議を言い表すために、『ジャングルベル』という言葉がある。
彼らが見たのは、まさにそのような光景だった……。
月は最初から人類に見えていた。
その月に人類が辿り着くために、アポロは十一号まで造られた。
彼らはどうやら、三号でそれを成し遂げたらしい。
ここは竜のいる世界線。
竜は、人類の頭上千メドル上空に生息しており、
そこに何があるのか、人類は未だに知らない。
そして、今まさに人類が超えられない死線、千メドルを目指す人口の翼も、竜の死骸でできていた。
今、誰も見たことのない景色に踏み込まんとする搭乗員二人は、何を見て、何を持ち帰ったのか……。
まるで古き良きジブリ作品を見ているかのような、幻想的な世界観。
是非、ご一読を。
飛行機に乗って窓から外を眺めたことはおありだろうか。雲の遥か下には恐ろしく小さな街並み。水平方向にはどこまでも続く大雲海。天頂方向には宇宙の色のような濃藍の空。そんな視界もひとたび雲へ突入すれば一瞬にして濃霧に消える。非現実的な光景が現実のものとして目の前に広がっているのだ。
あれを一度でも目にしたら、それを自分の筆に乗せて物語を書きたいと誰もが思うのではないだろうか。だが誰より強くそう思ったであろう一人、あの世界的なアニメ映画監督が山のように空飛ぶ船乗りの話を創ってしまったがために、そしてその出来があまりにも素晴らしすぎるがために、フォロワーは大変な苦労を強いられる。何しろ何書いてもラピュ◯とか紅の◯とかになっちゃうんだから。
本作はたぶんきっとそれも覚悟の上で、あえて空飛ぶ船乗りたちの物語に挑戦した野心作だ。どこまで独自の世界を描けているかは読者の判断に委ねたいが、その世界観を脇に措いてもなお、空飛ぶ船乗りたちの心情や互いの信頼が、軽妙な会話劇の中に圧倒的なリアリティで描かれている。それだけでも本作は独自の輝きを放っている。
私はすんごい映画を観たのでしょうか……⁉︎
違うか。いーや、それにしてもすっごいものを読んだ……!
読み終えて文字数を見てみてびっくりです。20000字。たった2万字。
2万字でなんという疲労感でしょう! そしてこの疲労感の、なんと心地よいことでしょう!
主人公たちは、竜の骨、皮、血を使ってできた飛行機に乗り、空の彼方「竜層」へ向かう──。
この内容(描写)に詰め込まれた緊張感、そこに湧いてくる高揚感、そしてまたそれを覆う緊張感。
もう大変です、くどいようですが「2万字」の短篇作品を読んだあとの感覚じゃないのです。
満足感は必ずしも文字数に比例するわけではないというのはここカクヨムで繰り返し学んできましたが、強烈に再確認しました。
映像はないはずなのに、それを見ているかのような没入感、臨場感。そして満足感。
この下手くそなレビューのように、「すごい作品に出会った!」としか言えなくなるような読後感をお約束いたします。
主人公たちが「竜層」へ飛び込んだ先のことについても触れたいのですが、こうも興奮したまま語ってもとっ散らかってしまうばかりですので、このあたりでおしまいにいたします。
極上のハードボイルドSF(……でいいはず!)、たっぷりどっぷり、お楽しみくださいませ。
ぜひぜひ!