紋章にまつわるエトセトラ

七條太緒

第1話 フランスの紋章 フルール・ド・リスは百合じゃない?!

 はじめまして、の方もお久しぶりです、の方も。

 お越し下さりありがとうございます!

 『紋章にまつわるエトセトラ』開幕です。どうぞよろしくお願い致します。


§はじめに


 紹介文に記載している通り、このエッセイは私、七條が紋章について様々な書籍を読んだりインターネットで調べたりしたことをまとめたレポートエッセイです。

 たまに自分でもしかしてこれってこういうことなんじゃないのかな、とかいう推論を書くこともありますが、基本的には調べてわかったことを読者の皆さんと共有したいな、というのが主たる目的です。

 だって、紋章学ってすごい奥が深すぎるんです。底なし沼です。無限です。

 でも、同じくらい面白いんです。

 これ、紋章学者の森護先生も仰ってます。あまりに沼過ぎて匙を投げたくなった、でもすごく興味深いって。学者になる方もそんなふうに言うくらいなんですよね。

 学者でもなんでもない私が、どうにか『創作にまつわるエトセトラ』で鷲と獅子の紋章をどうにかこうにか追うことができたのは、読んでくださる皆様がいてくれたからだと思っています。


 そしてこのお話には、中世の歴史がたくさんでてきます。

 学生時代、ただただ暗記させられた記憶がある方結構いるんじゃないでしょうか。私もその一人でした。高校で世界史を選択したものの、まあとにかく流れを追ったり用語を理解する、人物や年号を憶えるのがメインだったイメージです。

 その頃も、中世はファンタジーの舞台という印象が強くて興味はあったんですけどね。まあ、とにかく詰め込むのがやっと、という感じでした。

 ところが。

 紋章をきっかけに中世の歴史を調べ直したら、すごい楽しいんです。

 学校では教えてもらわなかった、市井の人々の暮らしが垣間見えたり、権力争いをする王や貴族たちの思惑が見えたり、他にも色々と……。

 それまでは単なるオシャレなマークだった紋章のデザインに込められた意味がみえてくると、今まで見ていた景色にちょっと新しい色を加えることができるかもしれません。



§フランス王の象徴、フルール・ド・リスあるいはフラ・ダ・リ


 フルール・ド・リス(Fleur-de-lis)。

 フラ・ダ・リは上記のスペルを見てもらったらわかるかなあ、と思うのですが同じものを指しています。発音の加減ですね。

 ドイツの鷲とイングランドの獅子と並んで三大紋章の一つと言われています。

 百合の花、ともアイリス(アヤメ科)とも言われているお花の紋章です。

 

 どんな形かと言うとですね。

 矛先、もしくは剣を立てたようなものが真ん中にあって、下の方に横棒があります。剣に見立てると鍔にあたるようなところです。そこから左右に植物の葉のような形が出ています。……わかりにくいですよね、すみません。また画像を載せておきますので近況ノートをのぞいてやってください。


 で、この形はきっと見たら「ああ」と思われるんじゃないでしょうか。

 なんか、色んな所で見かけますよね。たとえば家を飾る壁の飾りや柵のデザインとして。もしくは小物や包装紙などでも見かけたことありませんか?

 

 恥ずかしながら、私、数年前までこれがフランス王の象徴だなんて知らなかったんです。チェックとかリボンとか、そういうのと同じ感覚だったんですよね。

 鷲や獅子と違って動物ではないですし、そもそもこれが何なのかよくわからないというのもありました。

 だって、これ花……に見えなかったんです。

 色々ヴァリエーションはありますが、先端が尖ってたりすると槍とか剣とかに見えますよね。でも、武器にしては飾りが多すぎるし。

 植物のシンボルとして一応紋章の世界では有名なのですが、その起源も正体も現在に至るまで解明されていないんです。これが何なのかを論じたものをまとめるだけでも数百ページに及ぶ本になる、と森護さんも書いておられます。


 ということは、何か分かんない、っていう私の素朴な感想もあながち間違ってはない気もします。


 で、ですね。

 何かわからない、という印象は持ちつつもフルール・ド・リスは百合だ、という記述も多いんです。直訳すると「百合の花」です。あちらこちらで「百合」と言われているのを見かけます。だから、てっきりフランス王の紋章は百合だと思ってたんですよね。

 そうしたら、以前あるカクヨムユーザーさまにフルール・ド・リスは百合ではなくカキツバタ(アイリス)だと教えて頂きました。

 えっ、百合じゃなかったんだ!

 でも、薄々は感じていました。だってフルール・ド・リスの形って、百合の花……には見えづらいんですもの。


§アイリス~虹の女神を由来に持つ花~


 【アイリス】

 アヤメ科・アヤメ属

 和名:文目(あやめ)

 英名・学名:Iris

 原産地:東アジア・ヨーロッパ

 花言葉:メッセージ、希望、変わりやすい

 特徴:春から夏にかけて開花する。一本の茎の先端に四片の花弁を持つ花を咲かせる。


 アヤメ科の花には、200を超える種類があるそうです。日本で有名なのはやはりアヤメ・ショウブ・カキツバタでしょうか。

 この三つ、未だに違いが覚えきれないんですよね……よく似ています。

 なかでも、ショウブは日本の在来種で江戸時代には盛んに品種改良がおこなわれたそうです。そしてちょうど5月のこの時期にショウブといえば端午の節句の菖蒲湯が思い浮かびますね。この菖蒲はお花の咲く花菖蒲とは別物なんですって。

お風呂に浮かべたり頭に巻いたりする菖蒲は、菖蒲科菖蒲属。花菖蒲はアヤメ科アヤメ属です。花菖蒲が大きな花を咲かせるのに対し、菖蒲は小さな黄緑色の花なのだそうです。

 

 さっそく寄り道してしまいました。


アイリスは、アヤメ科アヤメ属の総称として使われることも多いのですが、ここではヨーロッパ原産のアヤメ系の花をアイリスということにします。

アイリスで代表的なのはダッチアイリスとジャーマンアイリスです。どちらも花色がとても豊富です。ダッチアイリスは寒色系が多くてジャーマンアイリスは暖色も入っているようです。両者を合わせると、白・黄・青・紫・ピンク・赤・茶色・黒まであります。この色の豊富さからギリシャ神話の虹の女神”イリス”をその名に冠したのでしょうね。


 イリスは英語だとIrisでお花のアイリスと同じですね。ちなみに瞳の虹彩もIrisです。

 さてさて。この虹の女神。

 ギリシャ神話、原初の海神ポントスと大地の女神ガイアの孫娘にあたります。

 ポントスとガイアの息子の一人で海の驚異や奇跡の神タウマースと女神エレクトーラーの子どもです。姉妹はハルピュイア(ハーピー。いわゆる女面鳥身の伝説上の生き物です。でもこれが有翼の乙女と書かれると随分印象が違いますよね……)

 イリスはとっても足が速かったそうです。天と地を結ぶ虹ですものね。すごい距離を一気に疾走することができたのでしょう。

ゼウスがメッセンジャーとしてヘルメスを使ったように、ヘラのメッセンジャーとして活躍したのがイリスだったそうです。

「メッセージ」という花言葉はここに由来しています。あと、虹はすぐ消えてしまうことから「変わりやすい」というちょっとネガティブな花言葉にもなったようです。


 そして、アイリスは古くは紀元前2500年頃から栽培が始まっていたと推定されるのだそうです。それは、エジプトのスフィンクスの額や王の墓にもアイリスの紋様が描かれているからなのだとか。


 そんなアイリスのお花を見てもらうとですね。

 あ、なるほど!と手を打ちたくなるくらい説得力のある形です。百合じゃなくてどうみたってアイリスです。一説には黄菖蒲という話もありまして、これも納得です。

フランス王の紋章は青地に金のフルール・ド・リスのイメージがありましたので。


 じゃあ、フルール・ド・リスはアイリスで決まり!


 ……と言いたいところなのですが。これがそう一筋縄ではいかないんですよね。

さすがというかやっぱりというか、これぞ紋章学。

ということで、次回はフルール・ド・リスにどうしても重なりたい百合のお話をしようと思います。

 


〇参考文献・ホームページ

・紋章学入門 森護

・紋章のヨーロッパ 浜本隆志

・ヨーロッパの紋章 浜本隆志

・平凡社百科事典 堀中 明

・わたしの花図鑑 エイじー

 https://plantszukan.com/airisu/

・気になる話題アラカルト 風来爺

 https://usefultopic.com/archives/3195.html

・唐草図鑑 M_Nekoatama.

 https://www.karakusamon.com/iris.html

・Wikipedia アイリス、イリス、クローヴィス王、時禱書、フランク王国、フルール・ド・リス 各項目




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る