モキュメンタリーミステリーの名手、六散人さんの、事件記者五十嵐慎哉シリーズ第3弾です。3作目ですが、五十嵐記者がペーペーの頃のファーストエピソードとなります。
事件は、とある女子高生が屋上から飛び降り自殺をしたところから始まります。その事件を取材し、ひっかかりを覚えた新米記者五十嵐は、調べを進めるうち、同じような飛び降りの事件が過去に2件発生していること、そして、それら女子生徒の飛び降りには、とある美貌の男性教師が絡んでいることを、突き止めるのです。
ここからの取材と推理の積み重ねが圧巻でした。必ずしも五十嵐君は、「切れ者」と言った風情はでなくて、飄々として取材を続けていくのですが、その親しみやすさから、協力者も多く現れ、どんどん核心に近づいていくのです。刑事コロンボ的なイメージでしょうか。
全体に、ストーリー構成もトリックもよく考えられた良質のミステリーだったと思います。また、それぞれのキャラクター造形が個性的でよかったです。五十嵐君もそうですし、悪役も邪心のあまりいっちゃってて魅力がありました。
これはよい作品だと思います。
お勧めですよ!
本作は、神戸日日新聞社会部の記者、五十嵐公平が担当した最初の不可解な事件を解き明かす物語である。
学校を違えて連続する女子高生の飛び降り事件の真相を追う五十嵐記者。
尋ねるほどに錯綜する証言と、解けない複数の疑問。
やがて浮かび上がる、歪んだ愛憎の相関図。
彼は丹念な取材と情報整理能力で犯人へと迫る。
五十嵐記者には常軌を逸した推理力はない。
卓越した特殊な技能があるわけでもない。
取材の過程に華々しい理論の飛躍もない。
彼が用いるのは、丹念な聴取と証言の収集。
多数の述懐を整理し、普通の視点からの違和感を再考し、関連点を繋ぐ。
あたりまえで地道な行程だ。
だが、そこに退屈など微塵もない。
モキュメンタリティーならではの実在感と臨場感が、読む者へ犯人までの距離を生々しく感じさせるからだ。
読む者は、五十嵐記者の犯行を再検証する過程に同行する。
物語に没入し、少しづつ謎を解く。
オーソドックスにして、格別な謎解きの道行。
その楽しさは無類。
是非とも多くの方に体験していただきたい。
本作は、その価値がじゅうぶんにある物語なのだから。
「学校」という場所の特殊性。そこで起こった異常な事件。それを紐解いていく過程がとてもスリリングで強烈に引き込まれました。
記者の五十嵐が若い頃に遭遇した事件。とある学校で女子生徒が飛び降りる事件が多発する。
彼女たちの身には何が起こったか。
学校という場所が持つ閉塞性だとか、思春期ならではの特殊な心理とか、この世代やこの場所には一種異様な「ルール」や「原理」というものが存在する。
一体そこでは何が発生し、彼女たちは死にいざなわれることになったのか。
関係者たちの証言によって、次第に浮き彫りになっていく闇。
果たして、本当に怪しいのは一体誰か。
中心にいると思われる人物の怪しさや、それだけでは割り切れない「何か」が漂う不穏な状況。
そんな中で五十嵐が執念の調査によって真相に辿り着く。
クライマックスの緊迫感も手に汗握るもので、読後に強烈な満足感を味わわせてもらえる作品でした。
作者渾身の『事件記者、五十嵐慎哉シリーズ』
第三作目にしてエピソード零の、この
モキュメンタリー・ミステリー。
大学を出たばかりの五十嵐記者が、と或る
高校で起きた女生徒の転落死事件に小さな
引っかかり を覚えて様々な角度から取材し
調査、推理して行く。この主人公の五十嵐。
気になる事はトコトン調べなければ気が
済まないタイプ。彼はこの転落死事件にも
違和感を覚えて調査して行く。
余りにも美しい事から災いの元になって
しまった高校教師と、彼を巡る醜い争い。
高校という教育の場であるからこその
逃避と隠蔽、そして更なる罠が…。
決して、一筋縄では読めない。
それは何よりもこの作品自体に複雑に絡んだ
糸のあり得ない程の 重み があるからだ。
その分、読み応えがあり、五十嵐記者同様に
あれこれ推理を巡らしてしまう。
神戸の街の様子や、当時の実際の時事にも
触れる事で リアリティ が増す。しかも
只、一方的に流されるモキュメンタリーとは
違って、要所々に主人公、五十嵐記者の
独白が挿まれる事で、読者を置き去りには
しない。謎を追う臨場感と、その背景に
横たわる モノ までも鮮やかな手順で描き
出されるところは、五十嵐記者が天下の
『神戸日日新聞社会部』に属している事から
頷ける。
ネタバレに繋がる事はナシだ。
兎に角、読んでみるのが最善。
これはモノ凄いミステリーである。
ここ一、二年で急速に普及した叙述形式であるモキュメンタリー。無関係に見える情報を繋ぎ合わせてストーリーを編み上げる叙述は、繋げる前に、繋げる情報を選ぶところから騙し合いが始まります。
複数の事件にまつわる複数の記述。無関係な情報が多い中に埋め込まれた重要な情報。それを探し当てることは、事件捜査においても、新聞記者の取材においても、核心です。
新聞社に新卒入社した主人公は、記者としてのイロハをたたき込まれる中で、砂から砂金を探すように情報を探して学んでいきます。主人公の体験と歩調を合わせて読者も学んでいきます。
後のシリーズに繋がるファーストエピソード、ここに開幕。