主人公・信之介のキャラクターが特に秀逸で、彼は吸血鬼退治の専門家でありながら、駆除すべき存在である天野を守ることに迷いがない。
その判断は感情的な甘さではなく、血痕の有無や行動パターンの論理的な分析に基づいており、読んでて納得できる形で示される。少年漫画的な熱さと、医療従事者らしい冷静さが共存するキャラクター造形が見事。
天野との関係描写もうまくて、「昔のように手を繋いで駐車場まで駆ける」「眠るまで手を握る」といった、ロマンスとしてはかなり控えめな行動が、二人の距離感を雄弁に語る。
過剰な告白や劇的な展開にたよらず、ごく小さな仕草の積みかさねで感情を伝える筆致は品があって、読んでて心地よい。
タイトルとあらすじから受ける印象とは裏腹に、中身はかなり骨太なハードボイルドサスペンスでした。
特に、ヒロインの天野が吸血鬼になってしまったタイミングで、同時に吸血鬼による殺人事件が起きる構図が効いています。
「守りたい存在が、そのまま容疑者でもある」という状況の中で、信之介が天野が犯人ではない証拠を一つ一つ積み上げていく過程がとても印象的でした。
読んでいて、名探偵コナンの工藤新一のセリフ
「カッコなんかよくねーさ!きっとその時は、疲れてボロボロになってるよ…その人が犯人じゃない、ありとあらゆる可能性を必死に探しまわった後だろーからな…」
を思い出しました。
派手な推理ではなく、地道に“違う可能性”を潰していくことで真実に近づいていく、その泥臭さがこの作品の魅力だと思います。
あの欲望全開で突き抜けたタイトルから、これほどまでに骨太で重厚な物語が展開されると、一体誰が予想できたでしょうか。
一見すると煩悩の赴くままのコメディを思わせる看板ですが、その実態は、怪異現象に対する精緻な科学的解釈と緻密なロジックによって構築された、超本格派のハードボイルド怪異サスペンスです。
ファンタジーという枠に留まらず、上質なハードSF作品にも通じる圧倒的な読み応えを誇っています。
吸血鬼と化してしまったヒロインの過酷な運命もさることながら、事件の裏に潜む真犯人は誰なのかというミステリー要素が非常に秀逸で、一度読み始めればそのシリアスで知的な展開から目が離せなくなります。
作者様の悪戯心に溢れた、最高にタチの悪い(褒め言葉です)トロイの木馬です。
ぜひ騙されたと思ってページをめくってみてください。そこには極上のサスペンスが待っています。