浄土真宗の教えを、極端に叩き潰して解釈すると、
「そのものが何者だろうと、『南無阿弥陀仏』と唱え続けていれば、過去は清算され、罪は許され、極楽浄土に向かうことが出来るのだ」と、寺の坊主が申しておりました。
人間だけでなく、生き物というものは読んで字の如し生きている以上、逝く日が来るのであり、それがいつのことか分からない。
であるから、人は心に、少なくとも生きている時間を後悔したり、辛い思いをしないように『唱え言葉』が必要ということですな。
マクラが長くなりました。
どこかの国、今ここに一人の貴族がまさに旅逝かんとしています。
妻に看取られながら。
死にゆく夫に、まだ告げていない秘密がありました。
今日の今日まで言い出せずに、この日を迎えてしまうことになりました。
……夫の方にも秘密がありました。
その上で、彼は冷たい病の床で静かに微笑むのです。
これは、人が人を愛する『理屈』が語られている物語にございますが、
そんな壮大な物語をこの文字数でよく書き上げたと賞賛したくなります。
濃厚な短編。
是非、ご一読を。
死の床にある夫マティアスと、その傍に寄り添う美しい妻アンネリーゼ。
ふたりの時間はまもなく、絵のように美しく終わりを迎えようとしていた。
しかしアンネリーゼにはこの期に及んでも夫に伝えることのできない秘密があった。
彼女の本当の名前はアストリッド。
その名をもつ彼女は、本来マティアスとは結ばれることのない運命だった。
◇
本作品はある自主企画に向けて執筆された2000字の掌編です。
にもかかわらず、物語として驚くほどの厚みと重なりを持っているように感じました。
2000字というのは、設定を詳しく説明させるとそれだけで終わってしまうし、説明を省けば平面的なものとなってしまう絶妙な字数だと思うのです。
それをこんなにも見事に料理されるのは、短編の名手である作者様の面目躍如ですね。
おすすめ致します。
ぜひぜひ。
侯爵家の当主マティアス。
病に臥せていた彼は妻の名を何度も口にする。アンネリーゼ……と。
そのアンネリーゼには秘密があった。
詳細は実際に読んで確かめてもらいたいが、彼女にはどうやら悲しい過去があったようだ。
艱難辛苦を乗り越え、マティアスと幸せな日々を送っていたアンネリーゼ。
しかし、マティアスは今にも息絶えそうなほどの状態になってしまう。
そんな彼は病床でアンネリーゼにあることを言う……。
最初にタイトルを見た時、私は以下の疑問が頭に浮かんだ。
忘れ去られた呪文とは?
それが花開く時とは?
それらの答えは最後まで読めばきっと得られるだろう。
呪文が花開く時、大きな感動が待っているので、是非この夫婦のことを物語の最後まで見届けてほしい。
物語を最後まで読み終えた後、「この二人の時間が、出来ればもっともっと続いて欲しい」と願わずにいられなくなりました。
アンネローゼ、と呼ばれるアストリッド。
彼女は自分の居場所を確保するため、「アンネローゼ」という女性に成り代わる形で今の結婚生活を送ることを続けていた。
そして、夫のマティアスが病床に。彼女は必死に無事を祈ります。
見えてくるアストリッドの事情。そこから垣間見えるマティアスの本心。
もしも、これが別れになってしまったら、あまりにも悲しすぎる。もっと早くにちゃんと心から向かい合えていたら、アストリッドの心がどれだけ軽くなり、幸せな時間を送れたことか。
だからこそ、もっと時間をと、そう彼女たちのために祈りたくなる。そんな切実で素敵な場面を描いた物語でした。
床に臥した若き侯爵・マティアス。彼のそばに就きながら快復を願うアンネリーゼには、とある秘密があって――。
マティアスとアンネリーゼの純愛に心が洗われるかのようでした。アンネリーゼが抱えてきた「忘れ去られた呪文」が二人の関係性をさらに強固なものにしていく展開に心が暖まります。
アンネリーゼが隠し続けている過去とはいったいどんなものなのか。それに対するマティアスの反応やいかに――。
たった2000字という短い字数のなかでも、流石としか言いようのない筆運びでした。文章がとにかく流麗で美しい。いつものことながら凄い技術だと思います。
美しい文体で描かれる美しいラブストーリーに胸をときめかせたい方。是非ともご一読ください!