身体は女だけど心が男の俺が18歳の誕生日に男湯に入り、男どもの視線を釘付けにした件

七月七日

第1話(1話完結)

 その違和感は、ずっと俺の心を押し潰し続けていた。


 通った幼稚園は、トイレが男女共用で、入り口から見て右側に和式と洋式の個室が並び、手前二つは低いドアがついていて、先生が上から見える状態だった。奥の二つは大人用だけど、子どもが使っても問題なかった。


 左側は小便器が並んでいて、その手前は手洗い場だった。


 オムツが取れた三歳の時、男の子たちが立っておしっこをしているのを見て、自分もしてみたいと思った。


「女の子はこっちよ」

 付き添ってくれた先生からそう言われた時、駄々を捏ねて困らせた。


「立っておしっこしたい!」

「うーん、女の子にはおちんちんがないからね、できないのよ」

 おちんちん、パパにもついてるやつだ。


「何でおちんちん、ついてないの?」

「ユウちゃんは女の子だからよ」


「何でユウは、女の子なの!」

 わぁわぁ泣きわめいた覚えがある。


 パパとお風呂に入る時も、パパにくっついている何かが不思議だった。


「わぁ!引っ張っちゃダメだよ、ユウ! ママ〜!ユウが上がるよぉ〜」

 パパが慌てて、俺をお風呂から追い出した。


「え、もう? ちゃんと洗ってくれた?」

 ママがバスタオルを持ってお風呂にやってきた。


「あ、ああ、一応な」

 柔らかかったパパのがちょっと硬く大きくなったような気がしていたが、大人になってからその理由が分かった。


 それ以来、パパは一緒にお風呂に入ってくれなくなった。


 小学校高学年で、集合・べん図を習った。黒板ではラーメンが好きな人とカレーが好きな人の集合を円で表して先生が説明していたけど、俺はノートに違う図を描いた。


 男の集合を円で表し、女の集合を別の円で表すと、二つの円は交わることはない。だけど、俺は交わるんじゃないかと考えた。


 その二つの交わりに自分はいる。女であり、男でもある。


 中学校の制服は女子はセーラー服にスカートだった。小学生の間は、スカートを履かなかったので、ここでも違和感が拭えなかったが、我慢した。それが学校の決まりだったから。


 男の子の真似をして、自分を僕と呼び始めたらママとパパから怒られたから、家では今まで通りユウと呼んだ。


 性自認とか、性同一性障害とかいう言葉を知り、それらに関する情報を本やネットから得た。自分の違和感はこれだとはっきりと分かった。自分は女ではないんじゃないかという表面上の意識だけでなく、深層心理にも深く根ざした違和感だ。


 違和感の原因が解明され、その後の自分の生き方に道筋が見えて、全てが解決に向かうだろうと感じていた。


 高校生になったら、制服のスカートはもっと短くなった。女の子達はウエストを折ってどんどん短くして行ったが、俺は規定の長さのスカートの下にジャージを履いた。


 十八歳、十八歳になったら、自分の判断で何でも出来る。それまでの辛抱だ。


 高校三年の夏の終わり、ついに十八歳の誕生日を迎えた。


 俺は、成人になった誕生日にすることを決めていた。それは、男湯に入る事だ。


 俺の住んでる街は温泉街で、番台のない小さな共同温泉が幾つもある。

 入り口で規定の料金を料金箱に入れれば、女の身体をした俺が、男湯に入っても咎められることはないだろう。


 以前、身体は男だけど心が女と主張する男が女湯に入って大きな騒動になったことがあった。


 そいつは女たちに叩き出されたらしい。


 その逆はどうなのか。それも検証したかった。


 その温泉に行くのは小学生ぶりだった。

 女湯に入りたくなかったから、行かなかった。


 十八歳になった今、騒がれても自分で責任を取るつもりだ。


 脱衣所に入ると、知った顔のおじさんがいた。フルーツ☆スキャンダルという怪しげなお店を経営している原田さんだ。


「えっ、ユウちゃん、ここは男湯だよ」

 壁に取り付けられた扇風機に当たりながら、原田のおじさんは、お風呂上がりの真っ赤にのぼせた顔で、服を脱ぎ始めた俺から目が離せないでいる。


「知ってる。俺、心は男なんだ」


 俺は、育ちすぎた胸をサイズの小さいブラジャーで押さえつけていた。

 何の躊躇ためらいもなくそれを外すと、こぼれ落ちた巨乳を隠すことなく、男物のボクサーパンツも下ろして籠に放り込み、持ってきたタオルで下だけ隠して浴室のガラス戸を開けた。


「なぁ、ユウちゃん。セッションしようよ、相談に乗るよ!」

 セッション。原田さんの口癖だ。


 その声を無視して浴室に入ると、先客が四人いた。中年から老人のおじさんばかりだ。カランの前でひげを剃っていた男が二度見した。泡だらけの顔でポカンとこっちを見つめている。


 浴槽にかって、お喋りに興じていた二人の老人がお喋りをやめた。一人は、外国人妻を持つ山本さんだ。もう一人は知らない顔だった。


「えっと、ユウちゃんだよね、ここは混浴じゃないよ」

 山本さんがそう云うと、背中を向けていた四人目の男が振り向いて目を見開いた。


「知ってる。俺、男だから」

 掛かり湯をして、三人の男が見つめる中、湯舟に浸かった。髭を剃っていた男も入って来た。


 ここの温泉は地味で退屈そうな飲み物みたいな色をしている。具体的に言うと灰色に近いブルーだ。


 泉質は硫黄泉、効能は皮膚病、美肌・美白効果、血行促進、関節・筋肉の緩和等、と書かれたプレートがカランが並んだ壁の上方に貼ってある。


 反対側の壁には、タイル絵がある。頂上が二つある特徴的な山が遠景に、手前には親子の鹿が草をんでいる様子が描かれている。


 そういえば、ここは鹿の湯という名前だったな。由来を知りたいと思った。


 ゆっくりと肩まで湯に浸かると、おっぱいが浮かんだ。不透明で濁った硫黄泉は、湯の中が見えない。浮かんだおっぱいは男どもの視線を釘付けにしていた。


 ガラッとガラス戸が開いて、更に二人の客が入って来た。

 一人はさっきの原田さんだ。


「いや〜、服着てたらまた汗かいちゃって」

 的外れな言い訳に、笑いが起きた。原田さんも湯舟に入って来た。


 もう一人は体格のいい白人だった。

 デカい。形成するならあれくらいデカくしたい。

 湯舟が狭苦しくなったので、その白人と入れ違いに湯から上がった。


「アレェ、ココ コンヨク ダッタデスカ⁈」

 湯舟から出た俺が女の身体をしているのに驚いて、カタコトの日本語で白人が云った。


「違う。俺、身体は女だけど、心は男だから」

 洗い場で仁王立ちして三度目の主張をした。


「オゥ!ヨァ ザ ラスト サメライ!」

 意味不明だったが、サムライをネイティブが発音するとサメライになるという事は分かった。


 ミッションは終わった。

 俺は今日から時間をかけて男になっていく。



『身体は女だけど心が男の俺が18歳の誕生日に男湯に入り、男どもの視線を釘付けにした件』:了


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身体は女だけど心が男の俺が18歳の誕生日に男湯に入り、男どもの視線を釘付けにした件 七月七日 @fuzukinanoka

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