名を喰らう獣と、名前を覚えられない探偵。

名前を食べる少女と、名前を覚えられない探偵。この一点だけで、もう物語は成立している。

推理ものの皮を被っている。だが中身はもっと獰猛で、もっと優しい。探偵の推理は当たらない。当たらないことを、相棒も読者も最初から知っている。それでも探偵は推理する。外れた後に何が起きるかは読んでほしい。この男の尊厳は毎話粉砕されるのに、漆黒のコートだけは決して脱がない。その矜持が可笑しくて、少し眩しい。

コメディの渦中に、ふと静かな二行が沈んでいる瞬間がある。全てを知る獣が、一人の人間の温度を必要としている。その構造が、笑いの底に敷かれた祈りのように効いている。

そしてプロローグの空気の切り替え。穏やかな日常が、一音で凍る。笑わせてから刺す。刺してから、また笑わせる。読者の感情を振り回すのではなく、振り回されることを楽しませる筆致。

名を喰らう獣と、名前を覚えられない探偵。この二人がいる限り、事件は解決する。解決の仕方がまともであるかは、保証しない。