ショートストーリー『バラ色の時間』
麻井祐人
ショートストーリー『バラ色の時間』
彼女と過ごす時間はとても楽しく、
時間なんてあっという間に過ぎてゆく。
朝、待ち合わせ場所に現れる彼女は、
少しだけ息を弾ませていて、
「ごめん、待った?」
なんて言いながら笑う。
待ってなんかいない。
むしろ、この瞬間をずっと待っていた。
カフェで向かい合って座り、
コーヒーを飲みながらくだらない話をする。
好きな映画の話。子どもの頃の思い出。将来の夢。
どれも不思議なくらい噛み合って、
まるで昔から一緒にいるみたいだった。
街を歩けば、彼女は時々、袖をつまんでくる。
「ねえ、あれ見て」
無邪気に指差す横顔に、胸が締めつけられる。
ふと、彼女がこちらを見る。
「ねえ」
「ん?」
少しだけ、いつもより近い距離。
彼女は微笑んで――ふと時計を見ると、
すっと、距離を戻した。
「レンタル彼女のご利用、ありがとうございました。
代金は90分、1万円になります」
彼女は変わらない笑顔のまま、軽く手を振る。
「次のお客様がいるので、失礼しますね。バイバイ」
背を向けて歩き出す。
その後ろ姿は、さっきまでと何も変わらないはずなのに、
もう、別人みたいだった。
俺は立ち尽くしたまま、
――あの時間は、借り物だ。
90分、1万円の人生。
……次は、延長するか。
あとがき
一応コメディです。たぶん、ちょっと切ない話でもあります。
youTubeでレンタル彼女の密着取材を見ていて、
「これショートショートにできるんじゃないか」と思って書きました。
襟を直されたり、袖をちょっとつままれたり、
そんな些細なことで「もしかして」と思ってしまうあたり、
男ってほんと単純だなあと改めて思います。
たぶんその“もしかして”だけで、
人は少しだけ幸せになれたりするのかもしれません。
ショートストーリー『バラ色の時間』 麻井祐人 @rhmkutrfghki0oo
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