圧倒的な物語である。
銀色に刺す冬の雨は一向に降り止まず、
調理台の上に上がる赤鱏の、今まさに
解体される冷たい肉。一度も抱き上げる事の
出来なかった 嬰児 の記憶が
甦ってくる。
存在しない 過去 は、手慣れた手順で
解体されて完全なる 無 へと固定されて
ゆく。その、生々しくも静謐なる過程は
一体、何を齎すのだろう。
次から次へと腑分けされて行く冷たい肉の
感触は、いつしか記憶の波間へと。
大海原の底へと流されて行く。
冷たい水の記憶。
夢かうつつか。
みるみるうちに凍りついて結晶化する。
完全なる 無 への旅立ち。
哀しみは凍結して世界を覆う。
厳かに、静かに霞んでゆく世界の果て。