その光は救いか?日常を異界へ変える極上の「喉越し」——
- ★★★ Excellent!!!
暗闇に沈んだ街、唯一の救いに見える自販機の光。しかし、その光こそが「終わり」への入り口だとしたら――。
本作『誘蛾灯』は、本来ならば安心の象徴であるはずの明るさを、闇そのものよりも恐ろしい「毒」として描き出します。
最上の美しい所作で読者を奈落へと誘うホラーの名手、二ノ前はじめ氏の静謐な筆致から立ち上る、日常を侵食する恐怖が際立つ傑作です。
得体の知れないナニカから逃げてきた主人公の前に現れたのは、刺青の男と、文明の残滓。喉を鳴らして飲み物を飲み干す男の姿に、読者は一時の安堵を覚えるかもしれません。しかし、読み進めるうちに気付くはずです。足元に転がる不自然な空き缶の数、そして、光の縁で蠢く「ナニカ」の正体に。
「座りなよ。ここは安全だから」
その甘い誘い文句が、これほどまでに残酷で不気味に響く物語が他にあるでしょうか。喉を潤すこと、足を止めること……生身の人間なら当然抱く本能的な欲求が、この世界では致命的な「罠」として牙を剥きます。
出口のない闇を駆け抜ける疾走感と、一歩間違えれば「光という名の檻」に囚われてしまう緊迫感。読み終えた後、夜道で見かける自販機の明かりが、いつもとは違う毒々しい色に見えてしまうはずです。
――それはそうと……そこの貴方、お飲み物はいかが?