2話



 向君があたしを睨み付けて言ったけど、本当に何も知らないので首を振る。

 そしたら、嫌悪を隠しもせず舌打ちして自分のクラスに戻って行った。

「はい、出席取るぞ。赤道。赤道利花」

 担任があ行からクラスメイトの名前を読み上げるが、あたしの耳には入らない。そんな事はどうでもいいからだ。

 どうして向君は、あたしを嫌うの?

 どうして向君は、あたしを愛してくれないの?

 愛されないのは嫌だ。


 あたしを否定しないで。



 *


 結局。赤道は由利の事を何も知らず、無駄足だった。取り巻きの連中に訊いても、結果は同じ。

「何処に行ったんだよ、由利」

「早く戻って来てほしいね」

 昼休みの教室。スモークチキンサンドを食べながら呟くと、おにぎりを口にしながらノートに文字を書いている上江洲が相槌を打つ。勉強熱心なこった。

「ああ。一緒に遊びに行きたい所もまだたくさんあんのに。まだ、付き合うかどうかの返事ももらってないし」

「え? そうなの?」

 ペンを止めて、こっちに顔を向けられる。前にも言った気がするけど、俺の記憶違いか?

「残念ながらまだ。どうやったら、付き合えると思う?」

「あー、知らない。現状維持で良いんじゃね?」

「冷たいなお前」

 冷酷な友人の言葉にため息を出し、スマホを取り出す俺。

 由利がいなくなった事は当然ニュースになっており、何か目新しい情報がないかニュースサイトをチェックする為。

 しかし、これと言った事はない。コメント欄で由利を心配する声もあったが、男遊びしてるやら援交とかぶち殺したくなる書き込みもありサイトを閉じた。



 放課後。今日も由利を捜す為、ホームルームが終わってすぐに教室を出る。一秒でも早く由利を見つけたいし。

 しかし、それを邪魔する者が扉を開けた先に立っていた。

「あ、向君。今、良いよね?」

 ドアの前に、赤道が今朝見た笑顔で話し掛けてきた。良いよね? って、何俺が予定ないって決め付けてんだよ。

「忙しい。ドアの入り口に立つな邪魔」

「邪魔って酷いな。


 由利ちゃんの事、教えてあげようとしてるのに」


「⁉︎」



 *


「愛される子になりなさい」

 お母さんにそう言われてきた。

 その意味があたしには解らなかった。愛されるって何をすれば良いの?

 だけど、すぐに理解する事が出来た。

 お母さんとテレビを観ている時、「可愛くないなー、この子」とアイドルの女の子に呟くお母さん。

 そのアイドルがどんな見た目だったか、覚えていない。記憶にないくらい、よっぽど不細工だったかも。

 お母さんがその不細工に放った声に、あたしは容姿が酷いと馬鹿にされる。嘲笑される。そして、愛されない。

 愛されない奴は、存在を否定される。「死ね」と言われるのと同じなんだ。

 そう思って、あたしがあのアイドルと同じくらい顔が酷かったらと想像する。そして、お母さんやそれ以外の人に「不細工」と口にされる事も。

 そんなもしもの話に、あたしは胸が苦しくなる。動悸も激しくなった。

 その息苦しさから逃れる為に、その日からあたしは必死に努力した。可愛いって言われる為に、メイクも体作りも頑張った。


 馬鹿にされないように。

 嘲笑されないように。

 あたしの存在を否定されないように。


 そのおかげで、みんなから可愛いとか綺麗とか言われるようになった。たくさん友達も出来た。

 みんながあたしを愛してくれる。否定されない。こんな幸せな生活が、ずっと続くと考えていた。

 でも、一人あたしに可愛いって言ってくれない男子がいた。それどころか「由利の方が可愛い」ってあり得ない発言をした。

 不細工な女にあたしは負けたの? あの女のせいで、あたしは否定されたの? 

 許せない。許せない。許せない。

 何の努力もしてないくせに。あたしを否定させた事が本当にムカつく。

 けど、その女はいなくなった。理由は知らない。

 あたしはそれをチャンスと捉えた。あの不細工に執心している向君に、あたしの方が愛せるって言ってくれるように。ちゃんと生きる価値があるって口にしてくれるように。


「由利ちゃんの事知りたかったら、あたしの彼氏になってよ?」


 

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