見えない恋

目取眞 智栄三

   プロローグ



 起床して、洗顔をする為に鏡で自分の顔を見る。

 カサカサの肌、沢山のニキビ。極め付けは、大きな隈に虚な目。

 嫌な顔だ。この顔のせいで私は……。



「相変わらずの嫌な顔ね? あんたを見てると、あたしの顔がどれだけ優れてるか実感出来て嬉しいわ。ありがとうね」

 教室に着いて真ん中の席に座ると同時に、今日も赤道あかみちさんがやって来て嫌味を口にする。

 実際その通りだ。赤道利花りかさんは180あるかないかの高身長で、艶のある長い茶髪。肌荒れもなく、顔立ちも整っている。私なんか足元にも及ばない。

 そんな彼女に、高校二年になった時から絡まれている。赤道さんは四組なのに、二組のこの教室までやって来て。

「……」

「何で何も言わない訳? 顔が可哀想なあんたに、あたしが話し掛けてあげてるのよ。ありがとうとか感謝の言葉は? ねぇ? ねぇ? ねぇ⁉︎」

 机をリズム良くバン! と叩き続け、苛立った表情で言う。

 これが私の毎日。周りの人は誰も助けてくれずに笑っている。

 私の気持ち悪い顔のせいだ。こんな顔じゃなく、綺麗な顔で産まれていたら、こんな惨めな生活を送ってなかったかもしれない。死にたいとも思った。

 でも、私は生きてる。

 

 こんな私を、大好きだと言っていつも助けてくれる幼馴染みがいるから。


 今日は風邪を引いて、学校にいないんだけど。



 *


 放課後。紅葉がヒラヒラ舞う中、私は学校を出て家に向かう。帰りのホームルームも終わったのに、学校に留まる理由もない。先輩後輩同級生関係なく、指を指されるだけだし。

『相変わらずの嫌な顔ね?』

 今朝の赤道さんの言葉が、頭を回る。

 嫌な顔なのは自分でも解ってる。私と赤道さんの顔が逆だったら、私が笑う立場だったのかもしれない。大笑いして、優越感に浸って馬鹿にしてみたい。

 ……最低だ。見た目も良くないのに、そんな妄想をする私の心が。

「こんな私なんか、消えた方が……」

 独り言を呟いて帰路に着く途中、駄菓子屋の前で足を止める。

 私の家の近くにある、何の変哲もない昔ながらの駄菓子屋。小さい時によくお菓子を買っていた駄菓子屋。

 ……うるまに、お菓子買おうかな。

 幼馴染みの体調が悪いのを思い出し、お見舞いの為久しぶりに店に入る。

 中に多くの駄菓子や、今も子ども達に流行ってるのか判らないけどスーパーボールのおもちゃが置いてあった。昔、見た時とあまり変わってない。変わったのは、商品の値段がちょっと上がった事くらい。

 ううん。他に変化した物……変な文章が書かれた紙が目に止まった。


『このグミは、食べたら死ぬまで透明人間になれるよ』


『グミ』としか記載されていない、一粒しか入ってなさそうな赤い箱。他の商品と距離をあけて、一箱しかない箱がその紙の上に置かれている。

 店主のおばあちゃんが、子ども達を笑そうと書いたのかな? そうじゃないと、こんな胡散臭い文章があるのは変だし。失礼だけど、馬鹿馬鹿しいとさえ感じる。

「……」

 その馬鹿馬鹿しい商品を、私は手に取る。

 これはただのお菓子だと解ってる。何の効果もないとも思う。

 だけど、


 本当に消える事が出来たら……。


 そんな僅かな希望を持って、私はそのグミを買った。うるまへのお見舞いのお菓子を、購入するのを忘れて。



 家に帰り、着替えもせず自分の部屋でそのグミの箱を開ける。

 小粒で丸く透明なグミ。透明になれると謳っているだけあり、硝子のように透けている。

 そして……。

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