学園の王子様なクール系白狼獣人ちゃんが、俺だけにはヘソ天幼児退行モードで甘え倒してくる。ついでに監禁される。【俺にだけ愛が重すぎる獣人娘ちゃんとラブコメするシリーズ⑭(全4話)

黒鉄の蓮根術師

第1話:クールビューティな学園の王子様が、俺の足の間でヘソ天して腹を撫でろとねだってくる

 白狼獣人のハクアは、完璧な王子様だ。


 白銀のウルフカット。涼しげな蒼い瞳。通った鼻筋。背が高くて、姿勢が良くて、制服の着こなしが雑誌のモデルのようにキマっている。

 腰から伸びる白い尻尾はふさふさで、歩くたびに優雅に揺れる。頭の上の三角の耳は常にぴんと立っていて、油断がない。


 一学年下の後輩。だが、学校での存在感は俺の何倍もある。


「ハクア様ー! おはようございまーす!」

「おはよう。今日も元気だね」


 低く澄んだ声で、にこりと微笑ほほえむ。口元だけの、計算された笑み。それだけで廊下を歩く女子たちがきゃあきゃあ騒ぐ。男子も見惚みとれている。

 落とし物を拾えば「ありがとうございます、ハクア様」。道を譲れば「さすがハクア様」。息をしているだけで「ハクア様の呼吸、美しい……」。もはや宗教だ。


 授業中は窓際の席で頬杖をつき、風にそよぐ白い髪を指で払う。それだけで隣の席の女子が失神しかけている。体育では獣人ゆえのスーパー身体能力で、涼しい顔のまま最速タイムを叩き出し、「別に本気出してないけど」と言わんばかりの表情で水を飲む。白い喉が動くのを、ギャラリーが固唾を飲んで見守っている。


 誰に対しても平等に、クールに、スタイリッシュに。完璧な「王子様」を演じ切っている。


 ——演じ切っている、と知っているのは、たぶん俺だけだ。


 放課後。北棟三階の空き教室。元々は美術準備室だったが、今は使われていない。鍵は美術部の顧問が管理しているはずだが、ハクアがどこからか合鍵を調達してきた。

 ドアを開ける。ハクアが先に来ていた。窓際の椅子に座って、夕日を浴びている。白い髪が金色に染まっている。立ち姿だけで絵になる。


「来たね、先輩」


 クールな声。蒼い瞳がこちらを向く。


「遅れてごめん。掃除当番で——」


 ドアを閉めた。

 瞬間、ハクアの空気が変わった。

 ぴんと立っていた耳がぺたんと後ろに倒れる。凛としていた背筋が崩れて、猫背になる。蒼い瞳がうるうると潤んで、まん丸になる。尻尾がぶんぶんと振れ始める。


 そして——


「せんぱいーっ!」


 飛びついてきた。全力で。体重を預けるように俺の胸に顔を埋めて、腕を腰に回してぎゅうっと締め上げる。白狼獣人の腕力は洒落にならない。加減されてるだろうが、ちょっと痛い。


「ちょ、ハクア、痛い痛い」

「やーだー、離さないー」


 声が違う。さっきまでの低く澄んだ声が消えて、甘くて高い、幼い声になっている。


「せんぱい今日もかっこよかったー。お昼ごはんの時、三年の廊下通った時にせんぱいの声聞こえたのー。うれしかったー」

「聞こえてたのか。普通に喋ってただけだけど」

「せんぱいの声、すきー」


 ぎゅう。抱きしめる力がさらに強くなる。尻尾が扇風機みたいに回転している。


 これが、ハクアの「もう一つの顔」だった。


 王子様モードのハクアは、完璧だ。誰に対しても平等で、クールで、スタイリッシュ。だが、その完璧さは——後付けで作られた仮面だった。

 自分の外見に求められるイメージと役割。白狼獣人の凛々しい容姿。周囲の期待。それに応え続けるために、ハクアは「王子様」を演じている。毎日。毎時間。毎分。


 その精神的な負荷は、想像を超えるものがあるらしい。

 で——その負荷を解消する手段として、ハクアが行き着いたのが、「先輩の俺の前でだけ幼い妹みたいに甘える」ことだった。


「せんぱい、なでなでしてー」

「はいはい」


 白い髪を撫でる。耳の付け根を掻いてやると、喉の奥からくるるると音が鳴る。狼が信頼する相手の前で出す音だ。

 ハクアは俺の胸に頬を押し付けたまま、ずるずると床に崩れ落ちていく。最終的に、俺の足の間にうつ伏せで寝転がった。腹を上に向けて、手足をだらんと投げ出す。


 ヘソ天。犬や狼が、信頼する相手にだけ見せる絶対服従のポーズ。

 学園の王子様が、俺の足の間で腹を丸出しにして寝転がっている。白いブラウスの裾から覗く細い腹。白い肌に、白い産毛。尻尾がぱたぱたと床を叩いている。


「おなかなでてー」

「……お前、これ誰かに見られたら終わるからな」

「見られないもん。鍵かけてきたもん」

「いつの間に」

「かけたのー。えへへー」


 得意げに笑う。この笑い方は、廊下で女子を失神させている王子様のそれとは、天と地ほどの差がある。目がまん丸で、口が半開きで、尻尾がちぎれそうなほど振れている。狼ではなく犬だ。完全に室内犬。

 腹を撫でると、ハクアの脚がびくんと跳ねた。


「きもちいー……せんぱいのおてて、あったかいー……」


 目を閉じて、幸せそうに笑っている。白い睫毛が夕日に透けている。口元がゆるんで、ちいさな犬歯が覗いている。学園中を震え上がらせているクールビューティの犬歯が、今はただ可愛い。

 撫でる手を止めると、不満そうに目を開けて「もっとー」と催促する。手をまた動かすと、満足そうに目を閉じる。こんな美少女を手のひらの上で転がしているようなシチュエーションは背徳感がすごい。いや、転がしているというか実際に目の前で転がっているのだが。


「せんぱいー」

「ん」

「せんぱいのこと、だーいすき」

「はいはい」

「はいは一回ー!」

「はい」

「えへへー」


 尻尾がぶんぶんぶんぶん。高速回転。

 皆がうらやむ王子様が、俺の足の間でへそ天をしながら腹を撫でられて「だーいすき」と言っている。


 この落差には、いまだに慣れない。

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