ギアフレンズ
維 黎
巡り廻る
三年B組。担任は金八じゃぁ、ない。念のため。
以上が紹介出来る俺の友達。あとの
「待て、おい。僕の名前が抜けてるじゃないか!!」
そう言って俺を指さすのが
ちょっと色白で華奢な感じなので実は――ってのに期待してたんだが。いや、一年間同じクラスで過ごして、今日で終わりだという今でも期待はしている。
「――なんだよ、その目は。変な想像してるんじゃないだろうな?」
「たぶん、あれだろ――もぐもぐ――笹木が――もぐもぐ――女子だったら――もぐもぐ――いいのにって、いつものあれだろ――ごっくん」
セリフの途中からアンパンだかクリームパンだかをかじりだした今崎。
食いながらしゃべるんじゃねーよ。ぽろぽろとこぼしやがって。しかも三口で終わりやがった。そもそもどっから出した、そのパン。ドラ〇もんか。
「
「笹木だよ! 皇族かッ!? 今までそんな呼び方、一度もしたことないだろッ!」
寺田のフリに素早く対応。だか返しが甘い。じょしだ――
「女子大でもないッ! ふつーの四年生だッ!」
俺の方をキッと睨みつけて叫ぶ笹木。やっぱり勘がいい。
ふいに、俺の視界を横切るように黒い何かが通り、笹木の方へ。
永田が卒業証書の入った証書筒をリレーのバトンのように手渡そうとする。
「笹木君。これ持って」
「?」
素直に受け取る笹木。
「――こう、振り上げて」
「?」
素直に振り上げる笹木。
「叫んでッ!! 『マジック・クリスタル・ぱわ――』」
「叫ぶかッ!!」
代わりに永田目掛けて証書筒を放り投げる笹木。
「アイタッ!!」
顔面ブロックをした永田が鼻を押さえてうずくまる。
なにやってんだか。
今日、高校を卒業したってのに相も変わらずな俺たちに思わず苦笑する。
俺たち五人はこの一年間ずっと一緒だった。
昼飯も誰かの机に集まったり、時には学食で同じテーブルで食ったり、文化祭なんかの行事ごとも同じ班になったり。
他のクラスメートとはあまりつるまず、五人だけ。まぁ、正確に言うと笹木だけは女子との仲が良くて、時々四人の時もあったが基本は五人で高三の時間は過ごして来た。
それぞれが良く言うと個性的、悪く言うと浮くような奴らの集まりが俺たちだった。
でもそれは、クラスに馴染めない同士が肩寄せ合った的な感じではなく、本当にウマが合ったんだ。なんか一緒にいるだけで、何もしなくても楽しいっつーか。
ダラダラどダべりながら歩いていると校門が見えてくる。
周りにはクラブの後輩らしき生徒たちと輪を作る奴、女子同士肩寄せ合って涙ぐむグループ。教師と談笑してる男子生徒たち。
校門を抜ければ本当に高校生じゃなくなる。
今崎は一郎して大学を目指す。
永田は東京へ行きたいらしい。しばらくはバイトでもしてやりたい事を探すそうだ。
寺田は地元で就職。
笹木は国公立の大学。勘のいい奴は頭も良い。
俺は家電量販店に就職が決まっている。研修後、どこに行くかはわからない。
校門を抜ければそれぞれ別の進路を歩く。
別に五人揃って「せぇ~のッ!」で門扉のレールを跨ぐでもなく、今までと変わらず普通に通った。
「じゃぁ、なッ!」
「おう!」
「落ち着いたら、どっかで会おうぜ!」
「またねッ!」
「元気でな!」
◇
「角田君!
「は、はいッ!!」
「ちょっと、こっち来て!!」
ふちなしの眼鏡をかけた中肉中背、二十歳過ぎくらいの青年が40代半ばの女性に呼びつけられ、慌てた素振りで駆け寄る。
「――もう、何回言ぅたらわかるん? 梱包する時は二重にして正面は上に向けてって言ぅたやん?」
「す、すいません。でも沖浜店だと――」
「余所のお店の話せんといて。ウチの店のやり方があるんやから、ちゃんとしてッ!」
「わかりました。やり直します」
「もう、ええよ。私がやったから。ほら、レジ、お客さん待ってるやん」
「え? でも俺、売り場の展示がえ――」
「何、言ぅてんの。販売員かてレジ入らなあかんやん。お客さん待ってるんやから」
「はい」
角田が呼ばれた時には、レジ係の担当はいたはずだが、説教を受けてる間に何かの理由でその場を離れたのだろう。
(――気付いたなら、先にレジ入ってくれてもいいだろうに)
そう思うがさすがに口には出さない。さっきの口調からして反論したら火に油だろう。
高校を卒業して就職。勤務先は四国だったが人員調整の為、二年半で急遽、大阪へ転勤。やっと慣れて来たところだったのだが。
この三年間、いくつも失敗をしてきたが大きなものはなく、それなりにやってきた。
職場での人間関係も当たり障りのない感じではあったが、良好と言っても良いと思う。
もっとも、学生の頃からあまり人と馴染むような性格でもなく、高三の時以外、以前でも以後でも気の置けない人間関係はなかった。
良いか悪いかで言えば、角田にとっては良いことなのだろう。最近の会社では新年会や忘年会などの飲み会などは少なく、365日営業の接客業ともなれば、昨今はなかなかない。一部、親しい内輪でやるのが精々だ。角田はその内輪に入ったことはない。
(――あぁ、もやもやするッ! あと半月の我慢だ! あいつらに会えるんだから)
幹事役の笹木から連絡があったのは先月の事。
結局、卒業してからなんやかんやで忙しく会うこともなかったから、久しぶりにみんなで会わないかと。
もちろん、角田は二つ返事でOKした。
◇
就職したとは言え、三年程度ではそうそう金に余裕があるわけでもなく、集まった店はふつーの何の変哲もない居酒屋。
まぁ、俺たちに料亭だのホテルのフレンチだのは似合わない。
他の連中はすでに集まっていて、一番遠いからってわけでもないが、店に着いたのは俺が最後だった。
予約した笹木の名前を出して店の店員に案内してもらう。
そこには三人の姿。
就職したとは言え、三年程度ではそうそう姿が変わるわけでもな――
「――って誰だ、お前ッ!」
力士かと思うほどにパンパンに膨れ上がった奴が一人。
いや、ツッコミは俺の役じゃないんだが。
「よう! 久しぶり! お前はあんまり変わらんな」
さも当然のように俺に声をかけてくる。
誰だかわからんが、お前はさぞ変わったんだろう。俺にパンパンマンの知り合いはいない。
「こいつ、今崎。今崎の奴、一番最初に店に来てたんだけど、俺も含めて会うなり全員、お前と同じツッコミしたよ」
そう言って説明してくれたのは、かなり垢抜けした感はあるが、すぐに寺田だとわかった。
それじゃ最後に残ったのが永田か。両脇に紙袋が置かれ白い筒状の物がニョキニョキと生えている。
「一人以外、みんなあんまり変わらねぇな」
座敷に上がった俺は、目ざとく見つけた空けてくれていたであろう席に座ろうとして――
「待て、おい。そこは僕の席だ。僕を抜いてみんな揃ったな的に腰を下ろそうとするのは止めろ。トイレに行ってただけだ」
テーブルに手をついて腰を下ろそうかという寸前、頭上から声が降って来た。
振り仰いでみれば笹木の姿。
「――なんだよ、その目は。変な想像してるんじゃないだろうな?」
「たぶん、あれだろ。笹木がワンチャン――もぐもぐ――やっぱり女子だったら――もぐもぐ――いいのにって、昔のあれだろ――ごっくん」
セリフの途中からアンパンだかクリームパンだかをかじりだした今崎。そして二口で食いやがった。進化してやがる。ってか、居酒屋に来てパン持ち込みで食うなよ。パンパンマンってそっちの意味か?
と、俺の目の前に白い筒状の物。
「笹木君。これ持って」
「何これ、ポスター?」
「微幼女戦士のトゥインクルバトンのように――」
「しないってのッ!」
ぽいっとポスターを永田に投げ返す。
その時、頭の後ろの方でカチリ、と何かがハマる音が聞こえた。
笹木に席を譲るため――もともと笹木の席だが――俺は立ち上がり向かいの座席へ移動する。
今崎、永田、寺田、笹木を見下ろす。
あぁ。
俺はこっそりと息を吐く。
他の誰かとじゃダメだったんだ。
こいつらとじゃないと。
5つの歯車が揃わないと綺麗に噛み合わない。
俺は回り出した何かに、頬が自然と緩んでいくのを自覚する。
―—了――
ギアフレンズ 維 黎 @yuirei
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