ギアフレンズ

維 黎

巡り廻る

 三年B組。担任は金八じゃぁ、ない。念のため。

 今崎いまざき ふとし。名前とは正反対でガリッガリな奴。だけど大食いってのは、もはや様式美。

 永田ながた 洋治ようじ。身体の半分が幼児向けアニメで出来ている将来がちょっと心配な奴。残りの半分は魔法少女が占めている。――訂正。かなり心配な奴。

 寺田てらだ しん。子役の頃から活躍している俳優——と名前の読みが違うが同じ漢字の同姓同名な、それ以上でもそれ以下でもない奴。

 以上が紹介出来る俺の友達。あとの同級生クラスメートは知らん。名前を覚えるのは苦手だ。


「待て、おい。僕の名前が抜けてるじゃないか!!」


 そう言って俺を指さすのが笹木ささき 未来みらい。なんか知らんが異常に勘のいい奴。『未来』という名前は男女兼用なので一応言っておくと笹木は男。

 ちょっと色白で華奢な感じなので実は――ってのに期待してたんだが。いや、一年間同じクラスで過ごして、今日で終わりだという今でも期待はしている。


「――なんだよ、その目は。変な想像してるんじゃないだろうな?」

「たぶん、あれだろ――もぐもぐ――笹木が――もぐもぐ――女子だったら――もぐもぐ――いいのにって、いつものあれだろ――ごっくん」


 セリフの途中からアンパンだかクリームパンだかをかじりだした今崎。

 食いながらしゃべるんじゃねーよ。ぽろぽろとこぼしやがって。しかも三口で終わりやがった。そもそもどっから出した、そのパン。ドラ〇もんか。


きさきは春から女子大生かぁ。羨ましいねぇ」

「笹木だよ! 皇族かッ!? 今までそんな呼び方、一度もしたことないだろッ!」


 寺田のフリに素早く対応。だか返しが甘い。じょしだ――


「女子大でもないッ! ふつーの四年生だッ!」


 俺の方をキッと睨みつけて叫ぶ笹木。やっぱり勘がいい。

 ふいに、俺の視界を横切るように黒い何かが通り、笹木の方へ。

 永田が卒業証書の入った証書筒をリレーのバトンのように手渡そうとする。


「笹木君。これ持って」

「?」


 素直に受け取る笹木。


「――こう、振り上げて」

「?」


 素直に振り上げる笹木。


「叫んでッ!! 『マジック・クリスタル・ぱわ――』」

「叫ぶかッ!!」


 代わりに永田目掛けて証書筒を放り投げる笹木。


「アイタッ!!」


 顔面ブロックをした永田が鼻を押さえてうずくまる。

 なにやってんだか。

 今日、高校を卒業したってのに相も変わらずな俺たちに思わず苦笑する。


 俺たち五人はこの一年間ずっと一緒だった。

 昼飯も誰かの机に集まったり、時には学食で同じテーブルで食ったり、文化祭なんかの行事ごとも同じ班になったり。

 他のクラスメートとはあまりつるまず、五人だけ。まぁ、正確に言うと笹木だけは女子との仲が良くて、時々四人の時もあったが基本は五人で高三の時間は過ごして来た。

 それぞれが良く言うと個性的、悪く言うと浮くような奴らの集まりが俺たちだった。

 でもそれは、クラスに馴染めない同士が肩寄せ合った的な感じではなく、本当にウマが合ったんだ。なんか一緒にいるだけで、何もしなくても楽しいっつーか。

 ダラダラどダべりながら歩いていると校門が見えてくる。

 周りにはクラブの後輩らしき生徒たちと輪を作る奴、女子同士肩寄せ合って涙ぐむグループ。教師と談笑してる男子生徒たち。

 校門を抜ければ本当に高校生じゃなくなる。

 今崎は一郎して大学を目指す。

 永田は東京へ行きたいらしい。しばらくはバイトでもしてやりたい事を探すそうだ。

 寺田は地元で就職。

 笹木は国公立の大学。勘のいい奴は頭も良い。

 俺は家電量販店に就職が決まっている。研修後、どこに行くかはわからない。

 校門を抜ければそれぞれ別の進路を歩く。

 別に五人揃って「せぇ~のッ!」で門扉のレールを跨ぐでもなく、今までと変わらず普通に通った。


「じゃぁ、なッ!」

「おう!」

「落ち着いたら、どっかで会おうぜ!」

「またねッ!」

「元気でな!」





「角田君! 角田かくだ 健太郎けんだろう君!」

「は、はいッ!!」

「ちょっと、こっち来て!!」


 ふちなしの眼鏡をかけた中肉中背、二十歳過ぎくらいの青年が40代半ばの女性に呼びつけられ、慌てた素振りで駆け寄る。


「――もう、何回言ぅたらわかるん? 梱包する時は二重にして正面は上に向けてって言ぅたやん?」

「す、すいません。でも沖浜店だと――」

「余所のお店の話せんといて。ウチの店のやり方があるんやから、ちゃんとしてッ!」

「わかりました。やり直します」

「もう、ええよ。私がやったから。ほら、レジ、お客さん待ってるやん」

「え? でも俺、売り場の展示がえ――」

「何、言ぅてんの。販売員かてレジ入らなあかんやん。お客さん待ってるんやから」

「はい」


 角田が呼ばれた時には、レジ係の担当はいたはずだが、説教を受けてる間に何かの理由でその場を離れたのだろう。


(――気付いたなら、先にレジ入ってくれてもいいだろうに)


 そう思うがさすがに口には出さない。さっきの口調からして反論したら火に油だろう。

 高校を卒業して就職。勤務先は四国だったが人員調整の為、二年半で急遽、大阪へ転勤。やっと慣れて来たところだったのだが。

 この三年間、いくつも失敗をしてきたが大きなものはなく、それなりにやってきた。

 職場での人間関係も当たり障りのない感じではあったが、良好と言っても良いと思う。

 もっとも、学生の頃からあまり人と馴染むような性格でもなく、高三の時以外、以前でも以後でも気の置けない人間関係はなかった。

 良いか悪いかで言えば、角田にとっては良いことなのだろう。最近の会社では新年会や忘年会などの飲み会などは少なく、365日営業の接客業ともなれば、昨今はなかなかない。一部、親しい内輪でやるのが精々だ。角田はその内輪に入ったことはない。


(――あぁ、もやもやするッ! あと半月の我慢だ! あいつらに会えるんだから)


 幹事役の笹木から連絡があったのは先月の事。

 結局、卒業してからなんやかんやで忙しく会うこともなかったから、久しぶりにみんなで会わないかと。

 もちろん、角田は二つ返事でOKした。





 就職したとは言え、三年程度ではそうそう金に余裕があるわけでもなく、集まった店はふつーの何の変哲もない居酒屋。

 まぁ、俺たちに料亭だのホテルのフレンチだのは似合わない。

 他の連中はすでに集まっていて、一番遠いからってわけでもないが、店に着いたのは俺が最後だった。

 予約した笹木の名前を出して店の店員に案内してもらう。

 そこには三人の姿。

 就職したとは言え、三年程度ではそうそう姿が変わるわけでもな――


「――って誰だ、お前ッ!」


 力士かと思うほどにパンパンに膨れ上がった奴が一人。

 いや、ツッコミは俺の役じゃないんだが。

 

「よう! 久しぶり! お前はあんまり変わらんな」

 

 さも当然のように俺に声をかけてくる。

 誰だかわからんが、お前はさぞ変わったんだろう。俺にパンパンマンの知り合いはいない。


「こいつ、今崎。今崎の奴、一番最初に店に来てたんだけど、俺も含めて会うなり全員、お前と同じツッコミしたよ」


 そう言って説明してくれたのは、かなり垢抜けした感はあるが、すぐに寺田だとわかった。

 それじゃ最後に残ったのが永田か。両脇に紙袋が置かれ白い筒状の物がニョキニョキと生えている。


「一人以外、みんなあんまり変わらねぇな」


 座敷に上がった俺は、目ざとく見つけた空けてくれていたであろう席に座ろうとして――


「待て、おい。そこは僕の席だ。僕を抜いてみんな揃ったな的に腰を下ろそうとするのは止めろ。トイレに行ってただけだ」


 テーブルに手をついて腰を下ろそうかという寸前、頭上から声が降って来た。

 振り仰いでみれば笹木の姿。


「――なんだよ、その目は。変な想像してるんじゃないだろうな?」

「たぶん、あれだろ。笹木がワンチャン――もぐもぐ――やっぱり女子だったら――もぐもぐ――いいのにって、昔のあれだろ――ごっくん」


 セリフの途中からアンパンだかクリームパンだかをかじりだした今崎。そして二口で食いやがった。進化してやがる。ってか、居酒屋に来てパン持ち込みで食うなよ。パンパンマンってそっちの意味か?

 と、俺の目の前に白い筒状の物。


「笹木君。これ持って」

「何これ、ポスター?」

「微幼女戦士のトゥインクルバトンのように――」

「しないってのッ!」


 ぽいっとポスターを永田に投げ返す。

 その時、頭の後ろの方でカチリ、と何かがハマる音が聞こえた。

 笹木に席を譲るため――もともと笹木の席だが――俺は立ち上がり向かいの座席へ移動する。

 今崎、永田、寺田、笹木を見下ろす。


 あぁ。

 俺はこっそりと息を吐く。

 他の誰かとじゃダメだったんだ。

 こいつらとじゃないと。

 5つの歯車が揃わないと綺麗に噛み合わない。


 俺は回り出した何かに、頬が自然と緩んでいくのを自覚する。



―—了――

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