左遷⇒軟禁された新米宝物庫番、【俺メンタルTUEEE】で呪物たちと超快適な10年休暇を満喫していたら、勝手に世界が救われる無自覚無双 ~安楽椅子英雄の宝物庫改革~

野菜ばたけ@『転テコ』1巻予約開始!

第一章:呪いの宝物庫番に任命されて始まるスローライフ ~鎧の同居人ができた~

第一節:軟禁された元宰相補佐、憎しみの権化を浄化する

第1話 まだ呪われてない? 大丈夫……?



「今日磨く宝物は……これ、鞭かな。ジール」


 隣にそう声をかけると、首なしの鎧がガシャリと音を立てた。


<そいつは、泣く子も黙る『処刑鞭』。罪人の絶望を吸った――>

「ふぅん? 随分と放置されてきたみたいだな。所々汚れてるけど、素材は革みたいだし、とりあえず柔らかい布で優しく拭くところかな」

<お前は、つくづく驚きや恐れを知らないな>

「驚いたり恐れる所ある?」


 言いながら、手元の鞭をもう一度見る。



 たしかに普通の鞭ではなさそうだ。

 なんかさっきからずっとオォォォオォォオォ……という、悲鳴と怨嗟が混ざり合ったような声が聞こえてきているし、禍々しい瘴気が出ている。


 でも、こんなのはもう幾つも見てきたし、たとえ見ていなかったとしても、急に俺の首を絞めに来るとかはない訳で。


「ちょっと変わってるけど、命に別状はなさそうだよ?」

<先日まで宰相補佐という文官職についていた人間が、何故命を危険の判断基準に置くのか>


 呆れたような鎧――この宝物庫に貯蔵されていた元呪物・ジールの声に、俺は「普通じゃない?」と言葉を返す。



 それでも手入れのために綺麗な柔らかい布を手渡してくれるあたり、見た目は中身空洞のリビングアーマーで、本来なら頭があるべき場所にユラユラと揺らめく火のような何かがある見た目のわりに、随分と面倒見がいい。


「磨いたら、今日も趣味の発掘をしようかなって思ってるんだけど」

<いつも通り、磨いたその呪物でか>

「うん。だってここ、宝物庫だよ? それ以外に選択肢、ないじゃない」

<そんな事はないだろう。今まで浄化してきた数々の呪物は、呪いが転じて祝福になり、今やお前の生活の彩(いろどり)になっている。願えばどれかが調達してくるんじゃないか?>

「俺の単なる暇つぶしに、わざわざそんな事をしてもらう必要まではないよ。それに、あるもので色々と考えるのが、楽しみの一つでもあるんだし」


 俺がそう言うと、ジールが小さく苦笑した。


<呪物や宝物を暇つぶし――仕事に忙しくて今まで持てなかった趣味探しに使うっていう時点で、既におかしな状態なんだがなぁ>


 そうかな。

 そんな事はないと思うけど。


 内心でそう独り言ちた時、今日のチャレンジ趣味を思いついた。


「今日はこの鞭で、魚釣りをしてみよう! ほら、ちょうどこの前、鏡門を磨いたところだし、あれと組み合わせてさ」


 言いながら、足元にすり寄ってくる猫を撫でる。


<僕のご飯を狩る~?>

「お前は別に魚じゃなくても、ケーキもオムライスも何でも勝手につまみ食いするだろ?」


 まったく、食い意地をはった猫だよね。

 まぁ、この子はそれを司る宝物なんだから、仕方がない事なんだろうけどさ。



 ――すべての事の始まりは、数カ月前に遡る。




 目の前で、厭にきらびやかな装飾が施された分厚い鋼の扉が閉まった。


「はははははっ! 出世頭と名高かった貴様も、その指輪に選ばれたのが運の尽き! お前のような周りに媚びを売って生きる小賢しい男には、その薄暗いガラクタ部屋がお似合いだ! せいぜい埃まみれの呪物どもに囲まれ、誰とも口を利けず、孤独に狂い死ぬがいい!」


 扉を隔てても尚聞こえてくる大きな高笑いに、思わず「また始まったか」とため息を吐く――裏で、「徹夜仕事よりマシだな」と安堵する。


 この扉の向こう側にいるのは、なんと我が国の王太子だ。

 そして、俺は宰相補佐……だった。

 本日付けで解任され、この宝物庫に軟禁される事が決定したけどね。



 別に、俺が何かヘマをしたから解任されて軟禁されることになった、とかではない。

 誰かに嫌われたせいでもない。


 いや、俺を嫌う人は少なからずいて何を隠そう王太子こそがその筆頭な訳だけど、そこは今回の件にはあまり関係がない。



 王太子は俺より七歳も年下。

 そもそも生きた年輪が違う上に、片や王太子、片やそれを補佐する宰相補佐――地位が上がっても未来の宰相でしかない俺たちは、本来なら能力を競う理由さえない。


 だが、国王陛下から「ルシェドを見習え」と何かにつけて比較されてきたせいか、城内ですれ違う時でさえ執拗に突っかかってきていた。

 今更俺が何をどうしたところで、あの嫌がらせが改善される事はなかっただろう。


 が、そんな事は何一つとして関係ないのだ。



 こうなっている原因は、右手の中指に嵌められて抜けない、この指輪だ。


「まさか俺が選ばれるとは」


 遠ざかる笑い声を聞きながら、俺は一人そう呟いた。

 苦笑気味なのは、今のこの状況が久しぶりに想定外の事態だからだ。



 俺は最初、宰相補佐になるつもりはなかった。


 普通の文官として入城して、ひょんな事から宰相に見出された。

 補佐役に抜擢されたのは、完全なる不可抗力だ。


 最初は忙しいし慣れない仕事もやれと言われて、正直に言って死ぬかと思った。

 けど、人間、十年も同じ仕事をやっていると、激務にも段々と慣れてくる。


 まぁそのせいで「涼しそうに仕事をしやがって、癇に障る」と王太子に目を付けられ、本来なら俺の仕事じゃない事にも引っ張り出されて処理する羽目になったんだけどな。


 でも、それも色々とやらされ過ぎて、そろそろ王太子の仕掛けてくる事にも想定外を感じなくなってきていた。

 これからは、比較的平穏に生きていけるかも。

 そう思ってたんだけど、コレである。



 嵌められているこの指輪の名は、この国の人間なら誰もが知っている。


 選定の指輪。

 そして、またの名を――呪いの指輪。


 誰もが子どもの頃に聞かされる物語の中に出てくる、指輪だ。

 英雄の指輪であり、同時に魔王の指輪でもある。

 この辺は、語られる話が複数あって、その話によって変わってくる。


 しかし、大人になって城に入り、宰相補佐の任についてから、これがそのどちらでもない代物だという事を知った。



 この指輪は、人を選ぶ。

 宝物庫の番人を選び、閉じ込める。


 厳密に言えばこの世界で、王族以外に唯一宝物庫内に入る事を許されるだけなんだけど。


「この国の宝物庫は少し癖があるからなぁ」


 常に世話係のような人間が宝物庫内に詰め、宝物庫内と宝物を清潔に保ち続けていなければならない。


 でなければ、収められた宝物たちが怒る。

 宝物たちが怒れば、国が荒れる。

 その事実を知っている人間は、国内でもあまり多くはない。



 指輪に選ばれた人間は、宝物庫の内外を出入りする事ができる。

 王族以外では唯一で、王族は宝物にかまけている暇はない。


 そのため国の安寧を守るため、王族は選ばれた人間に『宝物庫の番人』という職を与え、宝物庫内で生活する事を半ば強要する。

 給与は出るため無職や収入の少ない人にとっては利のある話だが、今の仕事に満足している人間にとってはその限りではない。


 そういう人にとっては、職を強制的に取り上げられるも同然だ。


 どちらがいいのかは、本人次第。

 かくいう俺の場合はというと――。


「まぁいっか」


 そもそも宰相補佐という地位にも仕事にも、強い帰属意識があった訳じゃない。

 長年勤めてはきたものの、単に目の前の仕事を片付けていたらそのくらい続いていた、というだけの話だ。


 むしろ、王太子に目を付けられ、無理難題を押し付けられ、最近は流石に慣れてきたとはいえ、忙しい何でも屋の雑用扱いから解放されると思ったら、ちょっと嬉しい気持ちさえあった。


「この十年、休暇の日でさえ狙いすまして王太子に個人的な無理難題を押し付けられて潰されてきたんだ。十年間この宝物庫での休暇を貰っても、別に文句は言われないよな」


 この指輪が嵌められている間は、宝物庫の出入り自体は簡単にできるけど、対の指輪はこの指輪の位置が分かる。

 軟禁を嫌って逃げたところで、どこにいても見つけられ、連れ戻される。


 この対の指輪を持っているのは、代々王族だ。

 今は王太子が持っている。

 つまり、王族に監視されているも同然という訳だ。

 実質出る事は許されないんだから、満期を迎える十年後まで、無駄な努力はしないに限る。


「となれば、俺の目下の目標は『いかに快適な休暇を過ごすか』だよな」


 そう呟いた時だった。


「生きてるか……? ルシェド」


 ギギギッ、と開いた扉の隙間から、顔に大きな傷のある男が中を覗いてくる。


「シルヴァ」


 この男、普段は大きく深いその傷のせいで片眼を潰されているっていうのに、まるでその深刻さを感じさせない男……の筈なんだけど。


「まだ呪われてないか? 大丈夫? こんな所で牢獄生活なんて、お前も凶悪な運を引いたなぁ」


 何故か、今はひどくビクビクとしている。



 いつもと様子がまるで違うけど、どうしたんだろう?

 っていうか。


「せめて『宝物庫生活』って言わない?」

「んなこと言ったって、この先毎日ここで寝起きして、飯食って……呪いの道具に囲まれながら生活するんだろ?」



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