「知らない犬に話しかけるな。ついてくるから」
街の至る所に貼られた一見ユーモラスな警告文が、どことなく不安と不気味さを醸造します。
本作は、越してきたばかりの主人公が、禁忌をかわった警告だな……とさほど重要なこととは捉えなかったことから始まる都市伝説的ホラー。
夜道で遭遇した「犬」の造形が凄まじい。得体の知れないものは生理的な嫌悪感を抱かせる。さらに戦慄すべきは、犬が放つ言葉の残酷さだ。主人公が最も触れられたくない聖域を、嘲笑と虚言、そして「再現」という最悪の形で蹂躙していく。
揶揄うような不快な態度、その支離滅裂な悪意はもはや対話が不可能な異界の存在であることを突きつけてくる。物語の結末、近隣住民の会話から漏れ出す「かつての犬は……」という過去が、さらに底知れぬ恐怖を煽る。
想像だが、かつては益獣、あるいは神の使いであったかもしれなかったものが、なぜこれほどまでに歪んだ怪異へと変質したのか。日常の裂け目に落ち込んだ主人公の末路に、読者は「無視しなさい」という言葉の重みを、痛いほどに思い知らされるだろう。