隠れ鬼

小野塚 

失せ物探し


其処は、とても東京二十三区内とは

思えないほどに、えらく鬱蒼とした

森があった。


最寄り駅からバスに揺られて三十分。

窓の外の景色は、みるみるうちに

市街地から住宅地へと変わり、それが

荒れ地ばかりの殺風景な景色を過ぎ

鬱蒼とした山入端やまのはに至る頃には

不安が暗雲の様に垂れ込めていた。


降りたバス停には申し訳程度の屋根が

あったが、藪から迫り出した木々や

蔦がイイ感じに絡まって、まるで山の

すたれた祠のおもむきだ。

 再び走り出したバスを見送りながら

得体の知れない世界に迷い込んだ錯覚を

俺は何となく持て余した。



「……。」地図アプリで確認するが

間違ってはいない。


   マジかよ。


ほんの少し後悔が頭をもたげかけたが、

自分でもよくわからない感情が

静かにそれを押し流した。

 今までずっと唯一無二の戦友ともだと

思っていた男について、俺は何一つ

知らなかったのだという忸怩じくじたる

思いにるのかも知れない。



が突然、いなくなった。



それでも、日常は何事も無かった様に

流れて行く。いや、何一つ滞りなく

流して行くのが 俺の役目 だ。

 何も語らずとも、お互いに何をどう

すべきなのかをちゃんと解っている。

そんな心地よい感覚に、俺はすっかり

依存していたのだろうか。


今迄、奴の実家について聞いた事は

一度もなかった。



「…仕方ない、行くか。」誰に言う

訳でもなく呟くと、俺はバス通りの

わきにある細い山路へと足を向けた。






同期入行の中でも、あいつは矢鱈と

目立つ男だった。


同性の俺ですら思わず見惚れる程の

美形で人誑ひとたらし。女どもは勿論の事、

奴を気にしないでいられる者など

一人たりともいなかっただろう。

く言う俺も同じだったが、努めて

平常心に徹底していた。


それが初任の配属店が一緒になって。

実際に話をすると、思っていたのとは

全く違う 奴の為人アホさ に驚き、呆れ、

腹も立てつつ、いつの間にかライバルを

通り越して背中を預ける 戦友 に

なって行った。

 畏敬を込めて 頭領 と呼ばれた

当時の支店長の采配が大きかったのは

言うまでもない。仕事のイロハを

教え込まれただけでなく、社会の公器

銀行で働く者としての 在り方 は

頭領のもとで共に学んだ。






やけに鬱蒼とした薮の中の小径みちだが

人が通るから、道が出来る。しかも

地図アプリが指し示すのは、この

道の先にあるの 大きな家 だ。


 このアプリ、バグってないよな?



苔むした石仏が、その侵食の加減で

わらいかけている様に見える。

足下には紫色の菜の花が、白っぽくて

小ぶりの菖蒲じみた花と共に群生して

いたが、長閑な景色の中にも何か

異様なモノが潜んでいそうな、そんな

厭な想像が浮かぶ。

 こう見えて俺の実家はふるい山寺で

自然の中はむしろ心地良い筈なのだが。

民家など一つも見当たらない風景を

歩けば歩くほど、周囲の緑は濃く

深くなって行く。



 何、探してるの?



「…っ。」一瞬、白いが目の前を

ぎった。と同時に後ろから声がした。

 その瞬間、

        ゾッとした。


道の両側は鬱蒼とした木々が壁を

形造り、緑のトンネルの様な一本道で

俺は前後を 得体の知れないモノ に

挟まれている。



「ねえ、何を探しに来たの?」

「……。」俺は思わず硬直したが。

「探しているから、来たんでしょ?」

恐るおそる振り向くと、そこには

小さな男の子が立っていた。

「何…だよ、お前?」言って、直ぐに

子供相手に打切棒ぶっきらぼうだと反省した。

「…ていうか、ボクんちはこの辺か?

一人で来たのかな?」イマイチ

ガキの扱い方がわからない。多分、

あいつならばもっとずっと愛想良く

出来るのだろうけれど。


「おじさん 僕のウチ に用事が

あるんじゃないの?」「……。」

 

  おじさん  て、お前…。



「探し物があると、皆んな僕の家を

尋ねて来るんだよ?だって、僕の家

『失せ物探し』だから。」

「…失せ物探し?」「うん。ずうっと

昔からやってるんだって。」言って

ニッコリ笑ったその顔に、俺は酷く

心を乱された。



 何だ? このは。



いや、その 正体 は分かっている。

まだ五歳ぐらいか六歳か…少なくとも

小学校には上がっていないのだろう。

見るからに利発そうな男児の、やけに

端正な容姿は



 もう既に、凛々しさをたたえていた。











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