ナナたん かかっちゃうの

オカン🐷

ピアノの調律 

 地下のシアタールームの前に置かれた黒いグランドピアノに、次男の蒼一郎が張り付いていた。絶対音感の持ち主だ。

「にいたん」

「おお、ナナ、ちょっとこの携帯ぼくの耳に当てといてくれないか」

「うん、いいよ。こえでいい?」


 僅かな時間、耳に携帯を当てていた。

「もういいよ。ありがとう」

「にいたん、ちょーいつしてるの?」

「ああ、調律してるんだ。ナナよく知ってるな」

「だって、この間おいたんが来てちょいーつしてたもん」

「えっ? マジで?」

「うん、まじで」

「これで調律してあるのか。信じらんない」


「おにいたんって2こめでしょ」

「次男って意味?」

「どうちて、そういちろうなの?」

「それはルナママのお祖父ちゃんからの言い伝えなんだよ」

「いいつた・、むにゃ、むにゃ」

「えっ、ナナここで寝るなよ。ナナ、ナナ、起きろ。おっ、メグちゃん、いいところに来た。メグちゃんのパパを呼んで来て」

「ナナたん、だいじょうぶ?」

「早く行って」

「はい」



 ハーバード大学を卒業して講師ををしていた駿太郎は、敷地の奥でカズの父親が使っていたアトリエを譲り受けリフォームして、大阪から家族を呼び寄せた。

 一人娘メグとナナは四歳で直ぐに仲良くなった。



「おいしゃさまはいらっしゃいませんか」

「何だメグ緊急医療ごっこか?」

「ちがうのパパ、ナナたんがたおれてん」

「それを先に言わんかい」


 駿太郎は黒い医療カバンを手に玄関へ向かった。

「パパ、こっち」

「へっ」


 玄関の手前にある物入れと思っていた扉を開けると地下への階段が続いていた。 

 薄明かりの中、ワインの棚が並んでいる。

「秘密の地下通路はワイン貯蔵庫か」

 しばらく行くとまた上に上がる階段が現れた。

 辿り着いた先の扉を開けるとピアノの置かれたホールだった。

 蒼一郎に抱かれたナナのそばに近寄ると、ナナの目がパチリと開いた。

「あれ? ナナねてたみたい」

「もう驚かすなよ。いきなり倒れるからビックリだよ」


 駿太郎は大きなあくびをするナナの脈をとったり、熱を測ってみたり聴診器を胸に当てたが、

「うーん、やっぱり寝てたみたいやな」

 それを訊いたは蒼一郎はホッと胸を撫で下ろした。

「もう、ナナ、おまえには驚かされるよ」



「それで結局は何だったの?」

  学会から帰って来たカズがリビングのソファーに腰を落ち着けると訊いた。

「それがパパ訊いてよ」

「うん、訊いてる」

 お茶を啜りながらに蒼一郎に言った。

「自己催眠らしいよ。ピアノの上のメトロノーム・・・」

「メトロノーをみてたらねむくなってきて、チック、タック」

 ナナは人差し指で針が動く真似をした。

「おい、やめろ」

 蒼一郎はナナの指先の動きを慌てて止めた。




            【了】






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ナナたん かかっちゃうの オカン🐷 @magarikado

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