灰化領域の奥で見つかったのは、 悪魔ではなく「強化人間」だった。
月光アリア
プロローグ
第1話 灰化戦争
暗闇が広がる大地、草木が揺れる場所は決して静寂などでは無かった。
鳴り響く雷鳴の下で、幾重もの閃光と雄たけびが大地を揺らしていた。
「対象視認。フェーズ二へ移行」
[ログ:重力子反応増大。周辺のマナ残量が低下]
カメラアイのモニターには地平線を埋め尽くすほどの軍勢が武器を手に取り、血しぶきを上げていた。
獣人、オーガ、有翼人、エルフ、タイタン、そして……人間。
視線を上に上げると、遥か後方にいる複数の団体から大型の魔法陣が展開されていた。
周囲のマナが大きな川の流れのように吸い寄せられていく。
全身鎧の後部からブーストを吹かせると、四つの光が戦場の中を駆け抜けていく。
人間がいた。
大きな斧を人間が振り下ろし、アイアン・カスクの円筒形の装甲を叩き切る。
火花が出ながら機能を停止する同胞を横目に感じながら進む。
第二世代の強化人間がいた。
逆関節の脚部を固定して大型の機体を前へと向けると、湾曲した頭部からマナエネルギーが収束し、一気に解き放たれる。
味方が放つ光線を遮蔽物にして、後方からついてくる三機の第四世代機と共に薄暗い地面を噴射炎で白く焼く。
大地をえぐるように照射され続ける光線は地平線の彼方まで線を描き、後方の軍勢を光の粒子へと変えた後、爆風となって吹き飛ばした。
直後に、何処からか飛んできた岩盤が直撃し、装甲がきしむ音が聞こえ、パラパラと石粒が上から振ってくる。
足音が聞こえ、その度に地面が揺れる。
雄たけびを上げながら近づいてくるタイタンは右腕を大きく振りかぶると、体勢を立て直そうとした兄弟機を地面へと叩き潰す。
モノアイが点滅し、力を失ったように機能を停止する。
その光景が、ぽっかりと空いた胸にすとんと落ちてくる。
「何か」が穴の中で訴えるが、それは冷たい金属装甲に溶けていき消えていった。
[ログ:G二-〇七六、シグナルロスト。感情の異常を確認。灰熱処理を開始]
胸部の排熱ダクトから蒸気が排出されながら、モニターに映る文字が現実を淡々と語る。
機体各所の姿勢制御スラスターを吹かせてタイタンの足元を強引に回避し、その反動を次の加速に上乗せする。
小型ローターの駆動音が高周波の振動で機体を震わせる中、警告音が鳴り響く。
[ログ:敵機接近。距離一五〇メートル。有翼種。マナの収束を確認]
頭部を上に向けると、風を切り裂くように翼を羽ばたかせた有翼人が片手を前に広げる。
光の粒子が収束していき、そこを中心に風のうねりが起きていく。
やがて空に小さな台風が発現し、こちらに向けるのを確認した。
『023、目標地点へ急行してください。敵の重力子反応が臨界点に近づいています』
「……了解」
肩部のアーマーを駆動させ、ビームシールドを展開させて荒れ狂う風に突っ込んでいく。
視界が歪むほどの風が叩きつけられ装甲が軋む音が響き、衝撃波が空気を震わせる。
削り取られた大地と共に周囲の友軍が上空へと舞い上がり、風の刃で寸断されていく。
姿勢制御スラスターで機体を地面に縫い付けながら、進路を切り開く。
「最短経路を再計算……」
モニターに表示されたのは台風の中枢部、中央の目を縦断するルートであった。
青白いプラズマが尾を引き、暴れ狂う風を背後にブーストの熱風を叩きつけた。
風の迷路が行く手を遮る中、最後の壁を打ち破る。
そして風が止み、静かな空間に身を乗り出した。
視界に映った最初の光景は弓を構える有翼人だった。
[オーバーコードの一人を確認。回避率七%]
黄金に発光する鎧を纏った有翼人が、冷たい眼差しでこちらを射抜いていた。
有翼人が矢を掴む指を「ピッ」と離すと、一筋の光が空間を切り裂いた。
眩い光の矢は地面を照らし、灰色の機体を露わにした。
そこへ一つの影が覆いかぶさる。
前面に立ったG四-〇二二がこちらを押し出し、射線上に陣取った。
直後、機体の装甲が一筋の光で貫かれる。
火花が爆発へと変わると同時に後方からG四-〇二一が、有翼人へと突撃する。
右手のプラズマライフルで青い弾丸を射出すると、一直線に筋を描きながら飛んでいく。
だが有翼人は右手で何かを掴む動作をすると、風のカーテンを周囲に展開する。
プラズマ弾は風の障壁にぶつかり、その壁を食い破ろうとするが力なく四散してしまう。
続けて、第二・第三の弾丸を放つが風の障壁は打ち破れない。
その光景を横目で捉えながらも、「箱舟」の中枢AIから新たな指示が飛んでくる。
[ログ:最優先目標:敵、重力魔法の阻止]
指示を受領して機体を翻すと、再びバーニアを吹かせると戦闘を行うG四-〇二一が線となって背後へと流れていった。
台風を抜けると風のドームが赤く染まり、すぐさま透明色に飲み込まれていく。
[ログ:G四-〇二一、シグナルロスト]
「……」
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