第4話 グラビアの裏

 月曜の朝。


 教室に入った瞬間、白乃さんはいつもの席に座っていた。


 金髪を軽くまとめて、制服のスカートを少し短めに着こなしている。

楽しそうに友達と話しながら、俺と目が合ったけど、すぐに視線を外した。


 約束通り、学校ではほとんど話さない。

休み時間に彼女が近くを通っても、俺はスマホをいじったままだった。


 白乃さんも同じく、友達の輪の中で笑っているだけ。


「田中くん……」と小声で呼びかけてくることすら、今日はなかった。


 その代わり、周りの陽キャどもからは嫌な目を向けられていた。

まぁ、あんなことがあったんだから裏ではネタにされているのは間違いないだろう。


 彼女のスケジュールが忙しいのは知っていた。

読モの仕事が週に2〜3回入ってるらしい。


 放課後、彼女はよく撮影があるとか言っていた。


 火曜も、水曜も、木曜も、同じ。


 学校では目も合わせない。

放課後に家に来ることもない。

ただ、LINEだけは毎日続いていた。


『今日の撮影、めっちゃ疲れた…』

『ゲームの続き、週末にやろうね』

『おやすみ。明日も頑張ろうね』


 俺は短く『お疲れ』『了解』と返すだけ。


 このまま、少しずつ距離が離れていくようなそんな気が何となくしていた。

いや、それならそれでよかった。

そう思っていたのに返事が来るたび少しだけ嬉しかった。


 そして、土曜日の午後。

インターホンが鳴った。


 白乃さんはいつもの笑顔で立っていた。

オフショルダーの白いニットに、膝上丈のスカート。

そして、少し化粧が濃いめだった。


「…来たんだ。忙しそうだったから来ないかと思った」

「ずっと楽しみにしてたもん…。お邪魔します」


 リビングに入るなり、彼女はソファに深く腰を下ろした。

いつもより少し肩が落ちている。


「撮影、今日も朝からずっとだったの。……ねえ、田中くん。聞いてくれる?」


 俺が無言で頷くと、白乃は少し息を吐いて話し始めた。


「私、グラビア始めたの……高校1年の時なんだ。 街歩いていたらスカウトされてさ。スカウトなんてされたことなかったから嬉しかったけど、最初の撮影は本当に怖かったよ。水着になるなんて想像もしてなかったし、カメラの前で笑うのも下手くそで…。自分の体をいろんな人に見れるのがちょっと怖かった。でも、続けていくうちに…あぁ、私、人に見られるの好きなのかもって、ちょっと思うようになった」


 すると、彼女の声が少し震えた。

赤い瞳が、じわっと潤んでいる。


「でも、やっぱりカメラの前の私と本当の私は違くてさ。撮影の後、いつも思うんだ。あぁ、しんどいなって。みんなに見られたい私と誰にも見られたくない私の狭間で本当の自分がどちらにもならなくて蹲っているようなそんな感覚」


 俺は何も言えなかった。


「…田中くんだけ…本当の私を見せられる。見て欲しい私も、見られたくない私も」


 すると、白乃さんがゆっくりと俺の方を向いた。


「……キス、してもいい?」


 柔らかくて、甘い。

でも今日は、彼女の疲れた体温がいつもより近く感じる。

キスが深くなると、白乃は小さく息を漏らして、俺の胸に体を預けてきた。


「……ん……」


 俺の手が、自然に彼女の背中に回る。

ニットの生地越しに、彼女の体温が熱い。

指が肩口を滑ると、白乃の体がびくっと反応した。


「……田中くん……今日は、ちょっとだけ……いい?」


 彼女の声が甘く掠れている。

俺は無言で、服の上から彼女の胸のふくらみに触れた。

柔らかくて、温かくて、鼓動が直接伝わってくる。

白乃は小さく声を上げて、俺の首に腕を回してきた。


「……あ……ん……」


 息が混ざって、リビングの空気が一気に熱くなった。

彼女の吐息が耳にかかる。

俺も、白乃さんも、理性が危ういラインまで来ていた。


 でも、ここで俺は彼女の肩をそっと押して、唇を離した。


 それからお互いに服を脱がせて…触り合った。


 そんな時間を30分ほど繰り返したところで、いよいよ下を触ろうとしたところで、「だ、ダメ…ここは…まだ…」と言われた。


「今日はここまで」とそう言われた。


「…うん」

「ありがとう。田中くんがいてくれるだけで、すごく救われるよ」


 彼女は俺の胸に顔を埋めて、静かに息を吐いた。

土曜日の午後、部屋は二人だけの熱を残したまま静かだった。


 グラビアの裏側を知った今、俺はますます彼女が何を考えているのか分からなくなっていた。


 でも、止められない。

この関係が、どんどん深くなっていくのも、紛れもない事実だった。

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