第3話 また家に来た彼女
ひとまず俺の部屋に行くと、物珍しそうに部屋を見渡す。
アニメのフィギュアとか、漫画がたくさん並ぶ本棚とか、触ったら怒られると思っているのか、興味があるものをじっと見つめるだけだった。
まだ外は雨が降っていたし、帰れとも言えないので、仕方なく俺はベッドに軽く横になると、ペットのように近くに座る白乃さん。
「…添い寝したいです」とか言ってくる。
というか、なぜか敬語になってる。
「…添い寝って…。まぁ別にいいけど」というと、そのまま布団にのそのそと入ってきて、「…軽く…抱きついてもいいですか?」と聞いてくる。
「…まぁ…好きにすれば」というと、お腹らへんに軽く手を置いてくる。
まぁ、どうせ今まで付き合ってきた彼氏とはやりまくってきたんだろ。
そう思うとなんか純粋ぶっているというか、そういう態度に少しむかっときた。
というか…佐藤くんと付き合えばいいのに。
てか、佐藤くんとももう体の関係ぐらいあるんじゃないかとか、そんなことを考えてしまう。
「…別に…付き合ってるわけじゃないから。白乃さんが誰かと付き合っても…別にいいから。俺は…別の誰かを好きになったら…その時はこの関係は終わりにするから。まぁ…俺に彼女なんてできないだろうけど」というと、少し息を飲んでから「…付き合わないですよ…田中くん以外とは…。それと…田中くんが彼女ができたら…その時は…」というと、また静かに泣き始める。
…本当…どんだけ情緒不安定なんだよ。
「…仮の話だし。どうせ…俺に彼女とか出来るわけないし…」
「わかんないよ…ッ」と、ぎゅっと背中に抱きついてくる。
結局、それから俺はいつの間にか寝落ちしていた。
そして、目を覚ますと隣にはすやすやと眠る白乃さん。
少しして目を覚ますと、外は晴天になっており、乾燥を終えた服を着て彼女は帰っていった。
その間、特に会話はなかった。
最後、家を出ていく時、小さい声で「…またね」というのであった。
彼女が帰ったのちに、俺はLINEのブロックを解除した。
もう写真とか履歴も何もない、まっさらな画面。
今までのことを全て無かったことにして、やり直そうとしている、まさにそんな感じがしたのだった。
『ブロックは解除しておいたから。何かあったら連絡して』と送った。
すると、即既読がついて、『うん!本当に色々とご迷惑をかけてごめんなさい。これからも仲良くしてくれると嬉しいです…』と、返信が来た。
仲良く…ね。
きっとそれは無理だろうなと思いながら、スマホを閉じた。
◇翌日
日曜日の朝の十時を少し過ぎた頃。
俺は昨夜のことを思い出して、まだ胸がざわついていた。
ベッドで添い寝して、ぎゅっと抱きついてきた白乃さんの体温が、まだ残っている気がする。
あの「好きだよ」という言葉も、泣きながらの「田中くん以外とは付き合わない」という言葉も……全部が夢みたいで、でも信じきれない。
スマホを見ると、LINEが来ていた。
『おはよう、田中くん。実は前からやりたいって言ってたゲーム、実は私も買ったから…良かったらまた家に行っていってもいい?』
……本当に毎日来る気じゃないよな。
けど、ゲームはやりたかったし、俺はため息をつきながらも、結局オッケーした。
『分かった。来て』
三十分後、インターホンが鳴った。
白乃さんはいつもの明るい笑顔で立っていた。
オフショルダーの白いトップスに短めのデニムスカート。
「お邪魔します…」
「…どうぞ」
それから、ゲームをするべく、テレビの前に座ってコントローラーを繋ぎ始めた。
ゲームをやろうと言い出したのも、ご機嫌を取ろうとしているのは何となくわかっていたが、まぁやりたいゲームだしいいかと思っていた。
最初は本当にゲームだけだった。
二人で画面に向かって、協力プレイしていた。
白乃さんはゲームが意外と上手くて、「田中くん…そっち…あっ…」と、ぎこちなく指示をしてくる。
最初は言葉数が少なかったものの、お互いに熱くなり、次第に「ちょっ!?」という声が出て、お互いに少し笑い合う。
そして、ゲームが一段落ついた頃。
白乃がコントローラーを置いて、俺の方を向いた。
「…田中くん。本当に優しいね」
俺が無言で少し俯くと、白乃さんはゆっくりと俺の肩に頭を預けてきた。
柔らかい金髪の匂い。
シャンプーと、ほのかに甘い香り。
「……好きだよ。本当に」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が熱くなった。
すると、白乃さんがこちらを見ていた。
赤い瞳が、うるうると潤んでいる。
「……キス…してもいい?」
俺は答えずにいると、彼女の唇が自分の唇を重なった。
柔らかくて、甘い。
それから次第にキスが深くなっていく。
息が混ざって、リビングの空気が急に熱くなった。
「……ん……」
白乃さんの吐息が漏れる。
自然と彼女腕が俺の背中に回る。
「…田中くん…これ…ファーストキス…なの…」
耳元で、小さな声で囁かれた。
「え?」
「こう見えて…処女…だから…その…//」
彼女の頰は真っ赤だった。
俺の理性が、限界まで軋んだ。
手が、服の上から彼女の胸のふくらみに触れる。
柔らかくて、温かくて、心臓の鼓動が直接伝わってくるみたいだった。
白乃さんは小さく声を上げて、俺の首に腕を回してきた。
「……あ……ん……」
徐々に息が荒くなる。
俺も、白乃さんも。
でも、そこで俺は彼女の肩をそっと押して、唇を離した。
このまましたら…色々と戻れなくなりそうだったから。
「…今日はここまででいい」
白乃さんは少し驚いた顔をしたけど、すぐに優しい笑みを浮かべた。
「うん……。ごめんね…」と、また寂しそうにそう呟いた。
「それと……学校では、ベタベタしないね。…周りに色々言われるの、田中くんは嫌だと思うし…」
「……ああ。そうしてくれると助かる」
本当に都合のいい関係でいいのか。
それとも……俺がまた、甘い罠に引っかかっているだけなのか。
日曜日の夕方ごろ、彼女が帰り俺の家は静かだった。
彼女の体温が、まだ手に残っている。
ゲームのコントローラーはそのまま。
画面には「PAUSE」の文字。
俺はまだ、白乃を完全に信じられていない。でも、もう止められないのも、紛れもない事実だった。
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