巡り合う軌跡

「……また描いてるのかい」「あー!」


認知症の妻は、毎日ノートに同じ図形を描く。複数の円と直線を組み合わせた、何の意味もないような模様。医師は症状の一種だと説明した。

その模様に、何らかの意味を探そうとしたこともあった。彼女の思い出の品とか、僕たち2人が訪れた場所とか……。その試みは、ことごとく空振りに終わった。

いくつもの季節が過ぎた、ある日のこと。物置の中から手作りの冊子が出て来た。僕らが初めて出逢った、大学の社交ダンスサークルで作ったものだ。懐かしさを感じながらページをめくり続け、ハッとした。

新入生向けにワルツのステップを紹介するページ。見慣れた彼女の丸い字と、あの図形があった。

初心者が最初に覚える、ステップとターンを示す図形。それは、毎日彼女がノートに描くものと寸分たがわず一致した。


無意味な図形じゃなかった。症状なんかじゃなかった。


彼女は僕と初めて一緒に踊ったあのステップを、あのときの胸の高鳴りをずっと失わずになぞり続けていたんだ。

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