8話目『おかしなお菓子作り』
クゥルフ、妖鬼、ルゾックの三人は再びウィチカの家を訪れていた。
「まずはお菓子作りの基本からじゃな」
「師匠、その前に一つ良いでしょうか?」
ルゾックがおずおずと手を挙げる。
「なんじゃ?弟子」
「いや名前で呼んでやれよ」
クゥルフが言うも、ウィチカにはスルーされてしまった。
「弟子よ、何が聞きたい」
「その、そちらの女性はどちら様ですか?」
「あら、わたくしの姿が見えますの?」
笑顔でそう述べたのは女性本人。それに対しルゾックは驚いた様子で言葉を紡ぐ。
「おぉっ!もしや幽霊で?」
「違いますわ」
「違う?では一体……」
「あなたにはわたくしが何に見えるかしら?」
「え?えっと――」
「はいはいそこまでな!」
しびれを切らしたクゥルフが止めに入り、妖鬼が説明する。
「ルゾック、マラミーさんは我々の仲間だ」
「妖鬼さん達の仲間?ってことは悪役の――で、でも全然違うじゃないですか!こんな優しそうな方が悪役を演じているだなんて信じられません!」
「ルゾック?それは俺達に対して失礼じゃねぇかぁ?」
「君にはどう見えているのかな?」
「ひぇぇ!すみませんすみません」
クゥルフと妖鬼に鋭い目つきで睨まれたルゾックは全力でペコペコと頭を下げた。
二人に詰め寄られている本人をよそにウィチカが彼の紹介をする。
「マラミー、こやつはルゾックといってな、これでも海賊や盗賊の頭を演じておるんじゃ」
「まぁそうでしたの。同じ悪役演者同士仲良くしましょうね!」
「あ、は、はい。よろしくお願いします!」
「さてと、そろそろ本題に入るとするかの」
ウィチカは手を合わせてそう言った。
「それでウィチカ、何を作るんだ?」
「お菓子とくれば家一択じゃろ」
「いっ、家ですか!?」
「とっても素敵ですわ!」
「待て待て、難易度高過ぎるだろババア」
「それに場所の手配が必要なんじゃ……」
四人の反応に対し、ウィチカは呆れた様子でこう言った。
「おぬし等、揃いも揃って勘違いしておるようじゃな」
「勘違い、ですか?」
「等身大のお菓子の家なんて衛生的に嫌じゃろ。保存も効かぬし」
「確かに仰る通りですわね」
「じゃあどうするつもりなんだ?」
妖鬼が尋ねると、ウィチカはどこからともなく取り出した杖を軽く振った。その瞬間、机の上にいくつかのクッキー型が現れる。
「ほれ見てみぃ、ここに家の形をしたクッキー型があるじゃろ」
「今ババアが魔法で出したんじゃねぇか」
クゥルフが言うと、ウィチカはもう一度杖を振った。
その瞬間、彼の口がピッタリと閉じる。
「んーっ!」
声を発することができず、呻くクゥルフをよそにウィチカが言った。
「さぁ、まずは家の形のクッキーを作ろうではないか」
「はい!」
「わかりましたわ!」
ルゾックとマラミーが返事をする横で妖鬼がおずおずと口を開く。
「それは構わないが……先にクゥルフにかけた魔法を解いてやってくれ」
「口煩い奴は黙らせといた方が良いじゃろ。唾も飛ぶし」
「……それもそうか」
「んんっ!?んーっ!!」
二人の会話を聞いたクゥルフは口を開けないものの鼻息は荒く、興奮しているのが明らかだった。
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