ヴィランズトーク

２話目『鬼と桃太郎』

「桃太郎って実際強いのか？」

　ある時のこと、クゥルフは妖鬼に率直な疑問を口にした。それに対し妖鬼は眉をひそめて言う。

「いきなり何を言うんだ、クゥルフ」

「だって妖鬼子供好きじゃん。いろんな意味で」

　微笑を浮かべているクゥルフは冗談半分で言葉を付け足したのだが、妖鬼の返しは彼にとって全く想定外のものだった。

「まぁ、それ自体は否定しないな。攫うし食うし」

「意地でも否定しろよてめぇ」

　クゥルフは腕をまくり戦闘態勢に入る。

「何故そっちが怒る……」

　どす黒いオーラを漂わせている相手に対し、妖鬼は戸惑い顔を浮かべた。

「それで妖鬼、実際のところあの小僧の実力はどうなんじゃ？」

　どこからともなく現れたウィチカが尋ねた。

「いつからいたババア」

「いつからでも構わんじゃろうが」

「あの、答えてもいいか？」

　バチバチした空気の中、妖鬼はクゥルフとウィチカに言葉をかける。すると二人は同時に彼の方を向いて頷いた。普段はいがみ合っているものの相性自体は悪くないらしい。

　妖鬼は彼等のことを微笑ましく思いながら断言する。

「あの少年は強い。共演後も度々絡みに私の元へ来てくれるからな」

　それを聞いたクゥルフとウィチカは、無言で視線を合わせた。

「おにぃ〜！」

　そこへ噂の主である桃太郎を演じた少年がやって来た。妖鬼は嬉しそうに目を輝かせ、しゃがんで彼に目線を合わせる。

「おぉ、今日はどうした？」

「遊ぼ！」

「構わんぞ。何して遊ぶ？」

「ヒーローごっこ！おにぃは倒される怪人役ね！」

「怪人役だな。任せてくれ」

「やったー！」

「……なぁ、ババア」

「なんじゃ、クゥルフ」

　妖鬼と少年が会話する様子を見ていたクゥルフは隣のウィチカに囁いた。

「これひょっとして妖鬼が奴に舐められてるだけなんじゃないか？」

「まぁそうじゃろうが、本人には内緒にした方がいいじゃろうな」

「そういえばさぁ、おにぃ」

　少年は思い出したように話を切り出した。

「おにぃもおおかみさんやまじょさんみたいに人を食べる演技することあるの？」

「まぁ、ないことはないが……怖くなったかい？」

　妖鬼が尋ねると少年はブンブンと首を横に振った。

「ううん！おにぃヨワヨワだから少しもこわくないよ！」

　その瞬間、無邪気な彼の発言は刃となり、妖鬼の身体に強く突き刺さった。

「グハッ！」

　吐血して倒れた彼の惨状を目にし、少年は半泣きで叫ぶ。

「わぁぁぁん！おにぃがたおれちゃったぁ！」

　一方傍観していた二人はその光景に引いていた。

　クゥルフとウィチカは互いに聞こえる程の声量で言葉を交わす。

「これはさすがに効いたっぽいな」

「子供は正直じゃからなぁ……」

「ちょっと！見てないで助けてよ！」

「これはすまんの。とりあえずおまえさんは家へお帰り」

「で、でも――」

「ここにいたら俺達がてめぇを食っちまうかもしれねぇぞ？」

　クゥルフが冗談めかして言った瞬間、少年の顔から表情が消えた。

「は？悪役ごときが調子に乗るなよ」

「え」

　そして彼はすぐに純粋無垢な笑顔になって言う。

「おにぃのことぜったい助けてね！」　

　少年の豹変っぷりに彼等は震えるしかなかった。