第17話 牛丼を食べる


 ランドル砦に戻った三人は、さっそく厨房でマリアンヌと一緒に牛丼作りに取り掛かった。新鮮なアカウシ肉の香りが厨房に漂っている。


 「まずは肉を薄く切りますね」


 マリアンヌが手際よく包丁を動かす。


 「アカウシ肉は柔らかいので、あまり力を入れずに切るのがコツです」


 「玉ねぎも必要でしょうか?」


 リナが野菜を手に取る。


 「ええ、甘味が出て美味しくなりますよ」


 ガレンが鍋を火にかけながら言う。


 「米がないのが残念だな。麦飯で我慢するか」


 「でも、丼の基本は学べるはずよ」


 クロエが期待に胸を躍らせる。


 『君たちの作る初めての丼料理だ。きっと特別な意味がある』


 フェンガルが見守っている。


 マリアンヌが調味料を混ぜ合わせた。


 「醤油、砂糖、みりん、酒を合わせて甘辛いタレを作ります」


 「醤油?」


 三人が首をかしげる。


 「大豆から作る茶色い調味料です。これがないと和食は始まりません」


 鍋でタレが煮立ち、そこに薄切りの肉と玉ねぎを投入した。ジュージューという音と共に、食欲をそそる香りが立ち上る。


 「いい匂いだ...」


 ガレンがよだれを拭く。


 「肉に火が通ったら、溶き卵を回し入れます」


 マリアンヌが卵を流し込むと、ふんわりとした黄色い雲のような層ができあがった。


 「完成です!」


 深い丼に炊きたての麦飯を盛り、その上に肉と卵の煮物を載せる。最後に青ネギを散らして、美しい牛丼の出来上がりだった。


 「うわあ...綺麗だな」


 クロエが感動している。


 「これが丼料理なのね」


 リナも目を輝かせる。


 四人は席に着き、いよいよ実食の時がやってきた。


 「いただきます」


 一同が箸を取る。


 ガレンが一口食べて、目を見開いた。


 「うまい! こんなに美味しいものがあるなんて」


 甘辛いタレが染み込んだ柔らかい肉と、ふわとろの卵が麦飯と絶妙に絡み合っている。


 「本当に美味しいわ」


 リナが感激の表情で言う。


 「肉の旨味と甘いタレ、そして卵のまろやかさが一体となって...」


 クロエも夢中で食べている。


 「これが丼の醍醐味か。一つの器の中に完璧な世界がある」


 『素晴らしい。君たちは丼の本質を理解し始めた』


 フェンガルが満足そうに言う。


 マリアンヌが微笑みながら見守る。


 「いくら丼も、きっとこんな風に一口一口が感動なのでしょうね」


 三人は頷きながら、最後の一粒まで大切に味わった。


 初めての丼体験は、想像以上の感動をもたらした。

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異世界道中記〜いくら丼から始まるいくら丼による世界救世教!? みなと劉 @minatoryu

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